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幼馴染が投資詐欺に騙された!?

「オレ、元GS銀行の副社長から貨幣発行権の使用を特別に認められたんだ」
圭太の自慢は止まらない。
「ほら、名刺。マイク本田さんを知らないなんて、メガバン行員でも下っ端のリテール担当は大したことないな。外資と接点ないのかよ」

あなたは騙されている。

私はいつ伝えようか考えあぐねていた。

ユダヤ系の米銀が世界の金融を裏で支配している。ごく一部の米銀幹部はロスチャイルドの秘宝である貨幣発行権を保有している。熱心なセミナー参加者の圭太はついに元GS銀行の副社長に認められ、その権利を使えるようになった。

銀行員なら誰も信じない話だ。

「本当にこの人はGSの副社長だったの?」
「ex Vice Presidentって名刺に書いてあるだろ?Google検索したら副大統領、副社長って出てくる。お前、英語ができないどころかネット検索もできないの?若いのに窓際の老害社員みたいだな」

圭太は幼馴染だ。昔から危なっかしい彼を助けてきた。だが圭太は私に対して強い劣等感を抱いているようだ。

圭太の両親は教育熱心だった。小中高と私立に通わせ、SAPIX・東進の課金も惜しまなかった。彼もそれに応えようとしたが、東大、早慶どころかMARCHもダメ。地元のFラン大の一番偏差値が高い学部でお茶を濁すしかなかった。ずっと公立、塾も行かず、独学で旧帝に合格した私に圭太はいつも突っかかった。

「貨幣発行権なんて信じられないけど」
「オレはこの目で確かめた。セミナーにはS銀の行員とその客がいて、二百万しか預金がないのにS銀から億超えの借入をした通帳を見せてくれた。貨幣発行権の一部を担保に多額の借入ができるんだ。ただし、その手続はS銀のごく一部の行員しかできないらしい」
「本物の銀行員か確かめたの?」
「もちろん。社員証も名刺も見せてもらった。支店に電話すればちゃんと出たし、応接で事務局の山名さんの不動産売買決済に同席させてもらったこともある」
山名?聞いたことがある。ネットでFIRE成功者を名乗り、不動産セミナーや商材販売で生計を立てているらしい。
「今度、山名さんが持っている超一押しの投資物件を特別に譲ってもらえることになってさ。資金はS銀が貸してくれる」
「どんな物件なの?」
「シンデレラハウスっていう女性専用シェアハウス。地方から来る若い女性に人気で満室稼働、サブリース付き。すごいだろ?オレは目をかけられてるんだ」

目をつけられている、の間違いだろう。多摩地域で駅徒歩20分、立地が悪い。だがS銀の審査部が通したなら多少なりとも目があるのかもしれない。全否定するのは気が引けたし、今の彼に何を言っても無駄だろう。でもどうして百万しか預金がない圭太にフルローンが?貨幣発行権担保なんてありえないし……

結局、圭太は不動産セミナー屋の山名の出口に使われた。満室稼働していた物件は退去が相次ぎ、サブリースも解約。売り抜けるために間に合わせの入居者を突っ込んだのだろう。次の買い手はつかない。マイク本田とも連絡が途絶えた。圭太は1億円近い借金を背負ったまま身動きが取れなくなった。追い打ちをかけるように、S銀がエビデンスを偽造し、債務者の信用力に見合わぬ多額の貸付をしていたことが発覚した。セミナー主催者、事務局一同、元GS副社長、S銀の担当、参加者の一部までグルだった疑惑が持ち上がっている。あまりに関係者が多く、影響も甚大であり、未だ全容の解明に至っていない。

「くそう、ずっとお前を追い越したくて、ようやくチャンスを掴んだと思ったのに。こうなることまでお見通しだったんだろ?笑えよ!」
電話の向こうで自暴自棄になる圭太。昔からこうだ。自分の不始末を己で収拾できず泣き喚く。そしていつも私が助けるのだ。
「はあ、仕方ないなあ。ちょっと待ってて」

役員室のあるフロアまで行き、役員用エレベータのセンサーに向け、左手に埋め込んだマイクロチップと網膜を同時にスキャンさせる。専用モードに切り替わったエレベータで本店の地下30階まで降りた後、今度はそれぞれ指紋認証、声紋認証、秘密の暗号で三つの特殊鋼鉄製の「真理の扉」を開けて奥に進む。

30メートル四方はある巨大な部屋に着いた。スパコンをはるかに上回る処理能力のウルコン「那由多」が壁一面に埋め込まれている。私を検知すると500インチの5Kスクリーンモニターが天井から降りてきた。
「権利者番号J124085082、識別を頼む」
壁から放射された無数の緑色の光線が私をスキャンする。モニターが起動し、スピーカーから音声が流れた。「ごきげんよう、ミチコ・ブランクファイン・ダイモン・ロスチャイルド。本日のご用件は?」
「私の貨幣発行権を行使する。ついに悪のロスチャイルドが動き出した。まず圭太を助けたい」
「ノープロブレム、ミチコ。お祖父様の仇を討つ時が来ましたね」
「ええ、私の本当の金融業界人生がこれから始まるわ。おじいちゃんを殺し、父さんを精神崩壊に追い込み、そして圭太にまで手を出した。あいつらを許すわけにはいかない!」

おしまい

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