起承転結を組み立てて書く小説の書き方(自己流)

 しがない(自称)小説家の豊科奈義です。

 現在、カクヨムではKAC2021というキャンペーンをやっております。週に2,3回お題を出すので2,3日で書き上げろという一見簡単そうに見えてかなりきつい企画です。

 私も、7回まで無事皆勤しております。そこで、今回8回目のお題『尊い』が出されたので何か書けないかと。

①設定を考える

 まず、小説を書くためには基幹となるプロットが必要です。今回はまあ短編なのでいらない人もいるかもしれませんが、私は必要な人です。

 個人的に小説はプロットを考えて、後付で設定を付け足すのですが、何らかのお題がある場合は先に考えたほうがいいと思います。

 今回のお題は『尊い』ですから、まずは意味を調べないといけません。

 Weblioで見てみましょう。

 貴重である、たいへん価値が高い、ありがたい、得がたい素晴らしさがある、という意味合いで用いられる表現。
古代の階級社会においては人の身分の高さを「尊い」(尊し)と表現し得た。この用法は今日では廃れている。神格を「尊い神様」のように表現する場合があるが、これは
敬うべき・尊敬すべき・尊重すべきという意味合いと捉えられる。
今日では「尊い」という表現は「たいへん価値がある」「貴重である」という意味において多く用いられている。たとえば「尊い犠牲」「尊い命」「尊い絆」「尊い努力」というような言い回しはよく用いられる。多分に理念的・抽象的であり、金銭的価値では置き換えられず、他の何かと比較することもできないような絶対的なもの、というニュアンスで捉えられる場合が多い。
2010年代後半にはサブカルチャー分野を中心に「推しが尊い」というような言い回しで「尊い」の語を用いる言い方が登場し、ネットスラングとして広がった。この「推し」は自分が好きなキャラクター(またはキャラ同士のカップリング)のことであり、そこに見出された価値の高さが「尊い」と表現されているものと捉えられる。
「尊い」には自分と対象との間にある種の隔絶があるというニュアンスも汲み取れる。その意味では「推しが尊い」も「萌え」と同様、自分と二次元世界との埋まらない隔たりを無意識的に前提した表現とも解釈し得る。

以上、Weblio上の実用日本語表現辞典の説明より引用。

 どう考えましたか?

 多分、後半2つの意味で投稿される作品が多いと私は考えます。Vtuberなんかを見て主人公が尊いと感じる小説とかね。

 でも、なんかつまらない。というわけで上の意味にも注目しました。

神格を「尊い神様」のように表現する場合がある

 何かに使えないでしょうか? 考えた挙げ句、一つ思いつきました。ダブルミーニングです。

 あえて最初神様とその、忠実な下僕を出すことで上記の意味だと思わせます。そして最後の最後に、実はネットスラングとしての尊いの意味が使われるものにしようと。

②プロットを考える

 物語の構成方法にはいろいろあります。起承転結、序破急、三幕構成、起承鋪叙結(きしょうほじょけつ)……。あげたらきりがないです。今回は、起承転結を使います。正直言って短編ならこれで充分です。

 海外だと三幕構成が一般的ですが、短編、しかも4000文字という制限があるなかで三幕構成使ったら絶対に入りきりません。そもそも、三幕構成っていうのは三つに構成を分割して、そこから細かな構成がさらにあるので4000文字に無理に詰め込めると一シーン当たりの文字量が少なすぎてなにも書けません。三幕構成は長編用ですね。

 まず、起承転結にも考える順番があります。最初(起)と最後(結)です。結できちんと収められるのであれば、承や転を先に考えてもいいですが不慣れな人がやると全然収束がつきません。

 では、起承転結に先程の設定を入れましょう。

起:神様とその、忠実な下僕を出す

結:実はネットスラングとしての尊いの意味が使われる

 ……。漠然としすぎですね。深く掘り下げましょうか。

 神が出てくるってことは宗教施設でしょうか? それとも、神が極一般的に存在する世界? あるいは、神話の中でしょうか。

 ですが、神が一般的なら別に尊くないですので二番目は違うでしょう。そして、ネットスラングとしての意味が使われるのですから、神話のような敬虔な話に出てくるとも思えませんね。最初の宗教施設案を採用しましょう。

 神の従者……。あくまで信仰対象としての宗教施設ですから、宗教本部に勤めている人でしょうか?

起:とある宗教施設内において、聖職者が神に対して尊んだ(祈り、供物など?)

 大雑把ですが、短編ですからまあこれでいいでしょう。結も考えましょう。

 ネットスラングとしての尊いは、好きなキャラクターに対して使いますね。ということは、ある程度印刷技術とかが発達した時代でしょうね。それに、キャラクターに対し信仰対象と同等の言葉を使うわけですから、世俗化が進んだ……。かなり現代に近い時代背景でしょうか?そうなると──。

神に祈りを捧げるはずの聖職者、毎日のように神に祈りを捧げ尊んでいた。だが、そんな彼らは家に帰るとお気にのVtuberを見る。そして押しカプを見ながら『てぇてぇ』とコメントするのであった……。

 ……。何だろう? なにかが違う気がする。神を尊ぶはずの聖職者がVtuberにも尊びを感じるのは、オチとしては悪くはないと思うんですが、何か足りない気がします。

 ここは異世界。地球と比べてもまだ文明が未発達であり、多くの人々が日々神に祈りを捧げていた。そして、聖職者はとくに神に感謝し、尊んでいた。尊んでいる神を皆が信仰すれば、世界が平和になると願って。
 一方の崇拝されている神は、こんな世界のことなど見向きもせずに異世界のVtuberの押しカプを見て『てぇてぇ』と日々コメントしていた。

 うーん? ……。まあ、これでいっか……。

起:ここは異世界。地球と比べてもまだ文明が未発達であった。そのため、日々多くの人々が宗教施設内で神に祈りを捧げていた。聖職者ももちろん祈りを捧げ、神に対して尊んでいた。

結:一方の崇拝されている神は、こんな世界のことなど見向きもせずに異世界のVtuberの押しカプを見て『てぇてぇ』と日々コメントしていた。

 一応起承転結の起と結は完成しました。続いて承と転ですね。そもそも、承と転ってなんでしょうか?

 起承転結って元々は漢詩に用いられた構成であって、ストーリーとはなんの関係もありません。実際、起承転結を解説していても人によってまちまちです。個人的には
起:設定・物語が起こって
承:物語が膨らんで
転:物語が大きく変わって
結:終わる

 という感じです。ですが、今回の短編は話のスケールが小さすぎるので上記に当てはまりません。

起:ここは異世界。地球と比べてもまだ文明が未発達であった。そのため、日々多くの人々が宗教施設内で神に祈りを捧げていた。聖職者ももちろん祈りを捧げ、神に対して尊んでいた。

承:そんな中、街にモンスターが出現。

転:聖職者の働きにより、撃退し、より一層国民は厚く信仰するようになった。

結:一方の崇拝されている神は、こんな世界のことなど見向きもせずに異世界のVtuberの押しカプを見て『てぇてぇ』と日々コメントしていた。

 承と転が思い浮かばなかったので適当に繋げました。

③下書きしよう

 あれ? いきなり清書しないの? って思う方もいるかもしれませんが、下書きは重要です。一度書いて概括することは重要です。

 それに、清書を心がけようとしている状態で書こうとしても、続きません。大雑把でいいので、下書きを書きましょう。

 起承転結ですが、個人的には2:4:3:1の割合で書いてます。決められたわけでもなんでもないので、書きにくいと思ったら割合を変えてみましょう。とりあえず、全500文字程度でまとめるとして、100:200:150:50になります。まとめてみましょう。

起:教会の中で、多くの信徒が両手を握り祈りを捧げていた。そんな中、祭壇に一人の人物が壇上した。祭服を身に纏った高齢の男性聖職者。彼は祭壇の前に立ち、信徒同様に両手を握り目を瞑り至尊たる神に向かって祈った。(100文字)

承:そんな時、大地が大きく揺れた。教会の外にいた人たちは大パニックとなり、叫んでいた。平穏であるはず教会でさえも、一部の信徒は感じたことのない揺れに驚き、恐怖した。信徒でも、怖いものは怖いのだ。だが、聖職者は動揺一つせずゆっくりと目を開き不安が広がる信徒の方へと振り返った。
「信徒たちよ。恐れることはない。ここは神の御前。いかなる場合でも信徒は尊き神によって守られる」
 聖職者は臆することなく教会を出た。
(199文字)

転:教会周辺を襲ったその異常の原因。それは魔獣であった。凶暴な魔獣が周辺を荒らしていたのだ。聖職者は、その魔獣に向かって呪文を唱え攻撃した。無事に魔獣は撃退され、それらを見ていた信徒はますます。そして信徒でなかった人ですら、心を入れ替え強く神を信仰しようと思った。そして、聖職者は改めて神に祈りを捧げた。
(150文字)

結:一方の神は、こんな世界のことなど見向きもせずVtuberの押しカプを見て『てぇてぇ』とコメントした。
(50文字)

④描写を増やそう

 さて、500文字完成したわけですがKACの最低文字数は1200文字。最低でも2.4倍以上にいなければなりません。そんなに書けることある? って思うかもしれませんが沢山あります。

起:教会の中で、多くの信徒が両手を握り祈りを捧げていた。そんな中、祭壇に一人の人物が壇上した。祭服を身に纏った高齢の男性聖職者。彼は祭壇の前に立ち、信徒同様に両手を握り目を瞑り至尊たる神に向かって祈った。

 例えば、起の部分。教会ってありますね。どんな教会ですか? 大きいですか?

 ……。わからない? そりゃそうですよ。書いてないんだから。

 取り敢えず、『いつ』、『どこで』、『誰が』、『何を』、『なぜ』を書きましょう。『どこ』でと『誰が』、『何を』、『なぜ』は書いているのでいつを書きましょう。

 季節は? 天気は? 昼? 夜? 全くわかりませんね。書きましょう。また、『どこ』も足りません。大都市? 農村部? あるいは森の中? それとも雲の上?

 脳内ではきちんと描けているのかもしれませんが、読者には全く伝わってきません。イメージしていることをすべて描ききるつもりで書いてみましょう。

起:人口1000人にも満たない極寒の地にある小さな街。吹雪くことがあり、近隣との交易が足止めされることも多い。そのため、そこでは多くの人たちが農業か漁業に携わっていた。
 そんな街には、一つだけ他とは異なる異質な建造物が存在した。真っ白な教会である。真っ白な建物は、吹雪いたときに家が見えなくなるというで敬遠されている。また、建物の多くが高床式であるが、教会は地面に直接建てられているのだ。けれども、その教会は街の中で一番多くの人たちに愛されている建造物でもあった。
 教会の中では、用意されている椅子だけでは全員が座れないほどに多くの信徒が
いた。だが、決して誰もことを荒らげずに目を瞑り両手を胸の前で握り祈りを捧げている。
 そんな中、祭壇に一人の人物が壇上した。祭服を身に纏った高齢の男性聖職者。彼は祭壇の前にゆっくりと立つと、信徒と同じように
目を瞑り両手を胸の前で握る。そして、壇上に飾ってある至尊たる神の絵画に向かって祈りを捧げた。
(412文字)

 さて、かなり増えました。このぐらい描写が詳しければ問題ないでしょう。

 ところで、この作品の舞台が極寒の地だとわかった人は何人いたでしょうか? 100人に1人くらいでしょうかね?

 なお、承転結については割愛します。

⑤設定文を極力無くそう

 まだあるのかよって思った方いっぱいいるでしょうね。そして、あまつさえ見出しの意味もわからないと。

 ちなみに、設定文というのは私が作った言葉です。

 三人称作品において、文章は大きく分けて分類できると思っています。設定文描写文(静的描写文、動的描写文)、あと会話文ですね。

 違いは、映像化するとわかりやすいです。頭の中で下記の文を映像化してください……。

 人口1000人にも満たない極寒の地にある小さな街。吹雪くことがあり、近隣との交易が足止めされることも多い。そのため、そこでは多くの人たちが農業か漁業に携わっていた。
 そんな街には、一つだけ他とは異なる異質な建造物が存在した。真っ白な教会である。真っ白な建物は、吹雪いたときに家が見えなくなるというで敬遠されている。また、建物の多くが高床式であるが、教会は地面に直接建てられているのだ。けれども、その教会は街の中で一番多くの人たちに愛されている建造物でもあった。
 教会の中では、用意されている椅子だけでは全員が座れないほどに多くの信徒が
いた。だが、決して誰もことを荒らげずに目を瞑り両手を胸の前で握り祈りを捧げている。
 そんな中、祭壇に一人の人物が壇上した。祭服を身に纏った高齢の男性聖職者。彼は祭壇の前にゆっくりと立つと、信徒と同じように
目を瞑り両手を胸の前で握る。そして、壇上に飾ってある至尊たる神の絵画に向かって祈りを捧げた。

 どうですか? おそらく、最初の一段落は映像化できなかったと思います。『人口1000人にも満たない』なんて、映像化のしようがありませんので。

 これが、設定文です。設定を解説しているような文章などで命名しました。設定文が少なければいいのですが、あまりにも多いと物語が全く進まず読者の読む気が失せるのです。

 なお、映像化できる文は描写文です。動的と静的と区別はここではしなくて構いません。

 ところで、見出しは『設定文を無くそう』でしたね。

 え? 設定文なくしたらこのこと伝えられないじゃないかって?

 いえいえ、そんなことはありません。間接的に伝えればいいんです。どういうことかって?

 では、最初の一段落を間接的に表現するため全部描写文に書きかえましょう。

「うぅ……。寒い」
 白く凍った地面の上を、男が歩いていた。彼は灰色のニット帽を目元まで深く被り、毛皮のコートを纏い厚底の革靴を履いている。
 そして彼は教会へ向かう道中、女性二人が会話しているのを目撃した。
「ねぇ、聞いた? また吹雪いたんですって」
「もう一月以上隊商が来てないわ」
「でも、いきなり大勢来られても困るわよね。ここみたいな1000人もいない小さい街じゃ老若男女問わず農業か漁業しかわからないのだし、都会人をもてなすことなんてできないわ」
「それもそうね」
 なぜこんな寒い場所で談笑などできるのだろうと思いつつ、彼は教会へと急いだ。

 まず、最初の三行で極寒の地であることを表しています。防寒対策をした男でも寒い呟いているのですからね。
 続いての女性の会話で、他のことを表しています。できれば描写文で表したほうがすっきりするんですけどね……。

 役場に行って産業別就業者数表を見る……とかでもいいんですけど、あまりにも違和感が大きいですし、教会に行こうとしてるのに役場に行く意味がわかりません。そもそも、この世界に役場ってあるんですかね?

⑥文末を整えよう

 これで最後です。まあ、まだいっぱい書けるんですが、今回はここまでということで。

 さて、最後は文末です。まず、500文字で書いた下書きを、地の文(会話文以外)だけ文末に注目して読んでください。

起:教会の中で、多くの信徒が両手を握り祈りを捧げていた。そんな中、祭壇に一人の人物が壇上した。祭服を身に纏った高齢の男性聖職者。彼は祭壇の前に立ち、信徒同様に両手を握り目を瞑り至尊たる神に向かって祈った。承:そんな時、大地が大きく揺れた。教会の外にいた人たちは大パニックとなり、叫んでいた。平穏であるはず教会でさえも、一部の信徒は感じたことのない揺れに驚き、恐怖した。信徒でも、怖いものは怖いのだ。だが、聖職者は動揺一つせずゆっくりと目を開き不安が広がる信徒の方へと振り返った。
「信徒たちよ。恐れることはない。ここは神の御前。いかなる場合でも信徒は尊き神によって守られる」
 聖職者は臆することなく教会を出た。
転:教会周辺を襲ったその異常の原因。それは魔獣であった。凶暴な魔獣が周辺を荒らしていたのだ。聖職者は、その魔獣に向かって呪文を唱え攻撃した。無事に魔獣は撃退され、それらを見ていた信徒はますます。そして信徒でなかった人ですら、心を入れ替え強く神を信仰しようと思った。そして、聖職者は改めて神に祈りを捧げた。
結:一方の神は、こんな世界のことなど見向きもせずVtuberの押しカプを見て『てぇてぇ』とコメントした。

 地の文は、全部で18文あります。さて、文末に注目しましょう。

副詞:1
~た:13
~だ:2
名詞(体言止め):2

 『~た』が圧倒的に多いです。気にしない人は気にしないのでしょうが、気にする人はかなり気になってしまいます。

 一応言っときますが、場合によっては連続することがあります。例えば、回想シーン。過去を振り返っているわけですから、ほぼ全て『~た』になるわけです。

 あと、感情を際立たせたいシーンとかもいいでしょう。

 ──監禁されたときどうだった?
「怖かったし寒かった。お腹も空いた。そして、……寂しかった」

 監禁された時の恐怖を、過去形を連続させることによって当事者の体験した怖さが伝わってきますね。

 閑話休題、文末ですが『~た』の他にある、『~(な)のだ』、『~である』、普通の終止形などを使いましょう。

 普通の描写文は、多くの場合過去形でも現在形でも構わないと思います。ですが、話の流れが変わるような場所では過去形にしたほうが良いかと。

 白く凍った地面の上を、男が歩いていた。彼は灰色のニット帽を目元まで深く被り、毛皮のコートを纏い厚底の革靴を履いている。
 そして彼は教会へ向かう道中、女性二人が会話しているのを目撃した。

 上記の三文は、過去形に置き換えても終止形に置き換えてもどちらでも読みやすいと思います。

一方の神は、こんな世界のことなど見向きもせずVtuberの押しカプを見て『てぇてぇ』とコメントした。

 ラストシーンですが、これは過去形の方が良いでしょう。『~する』としてしまうと、まだ話に続きがあるような気がしてオチが弱まってしまう気がしますね。

 以上で一応はおしまいです。完成した作品はこちら。本記事が何らかの創作活動の手助けになれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?