色の話

 大学の頃に目の研究をしてたのだけれど、それを話すと結構面白がられたのでこちらにもメモ的に書いておく。

ヒトの光を感じる細胞は4つ

 3種類の錐体細胞と1種類の桿体細胞、合計4種類の細胞がヒトの目の網膜には存在する。

 ヒトが日中、色を感じることができるのは3種類の錐体細胞がそれぞれ長波長、中波長、短波長と異なる波長領域の感度を持っているからだ。この三種類の錐体をR(赤)錐体、G(緑)錐体、B(青)錐体と昔は言っていたが、波長領域的にはRGBの感度と大きく異なるので現在はLMS錐体(Low、Mid、High)と呼ぶことが多い。

 もうひとつの視細胞である桿体は深夜など、光のない環境で動作する視細胞だ。錐体と桿体は同時に起動することはなく、基本どちらか一方だけアクティブになっている。暗くなったり明るくなったりするとスイッチングされる。

 夕方に交通事故が多いのはこの錐体桿体の切り替えの照度なので、よく見えないタイミングが多いためだ。また、明るいところに目が慣れるのは早いが、暗いところで目が慣れるのに時間がかかるのはこの錐体桿体の応答速度が異なるためだ。暗いところへの順応(暗順応)は一般的に30~60分かかると言われている。

画像1

出典:星空の楽しみ方

 LMS錐体の感度は等間隔ではなく、M錐体とL錐体が非常にオーバーラップしている。これは哺乳類が基本2色型色覚で、ヒトは3色型色覚なのだが、まだこの二つの錐体が分化して間もないためだと言われている。この2つの錐体の数はかなりヒトによって差があり、L錐体が圧倒的に多いヒト、M錐体が多いヒトなど多様である(S錐体はヒトによらず割と一定である)。また、色弱もL錐体かM錐体のどちらかに特殊な傾向が出ている場合が多く、S錐体起因の色弱は稀である。

画像2

出典:イリュージョンフォーラム

  分布的な特徴で言うとS錐体は中心視野にあまり分布しておらず、周辺視野に多い。上記の分光分布の情報と合わせて、S錐体は桿体細胞から分化したものだ、とも言われている。

色の感じ方の個人差の話

 L錐体は実は2種類あって若干分光波長の感度が異なるため、持っているL錐体によって見えている色が若干異なる可能性がある。また、この2種類のL錐体を持つヒトも居る可能性があり、その人はある種4色型色覚ともいえる。ちなみにこの2種類のL錐体は人口分布的には半々程度らしく、『正常な色覚』と言われている人も真っ二つに分けられる可能性がある。

 また、実際には錐体の感度だけでなく、その前の水晶体の黄変なども色の個人差に影響していると言われている。加齢や紫外線などによって水晶体は段々と黄変(黄色くなっていく)していくのだが、その結果低波長領域(つまり青側)の感度が下がっていく。つまり青と黒の区別がつきづらくなる。

明るさと色の話

 明るさを感じる分光感度(色)は明るい環境だと緑や黄色、暗いと青や緑となる。これも分光視感効率という。暗い時は1種類の桿体しか起動していないのでその桿体の分光感度そのものである。天体観測などで赤いライトを使うのは折角暗いところに慣れた目をライトで明るいところに慣れさせたくないからだ。

 明るいときはM錐体のピーク波長のあたりが視感効率が良い。カラー画像をグレイスケールに変換する際の、

 グレイ=0.3 * 赤 + 0.6 * 緑 + 0.1 * 青

 みたいな謎の式はこの明るい環境での明るさに対する波長ごとの感度の話からきている。

画像3

出典:しあわせ・あかり計画

他の動物の話

 鳥などは4色型色覚だと言われている。また、コイなど魚類はもっと多数の錐体細胞を持っていると言われる(最大7種類とか)。さきほど書いた通り、哺乳類のほとんどは逆に2色型色覚が多い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?