豊岡演劇祭2023 コラボ商品「豊岡演劇祭マカロン&デカフェ セット(カタシマ)」:カタシマインタビュー
カタシマは1970年創業、養父市に本社を構えるケーキ屋さんです。豊岡演劇祭2023では、豊岡市のブランド米「コウノトリ育むお米」の米粉を使用した、オリジナルマカロンとデカフェ(カフェインレス)のコーヒーがセットで販売されます。なぜ、カタシマは豊岡演劇祭2023に参加をすることになったのでしょうか。また、数あるスイーツのなかで、なぜマカロンとデカフェのコーヒーをコラボ商品として選んだのでしょうか。カタシマの常務取締役であり、営業・販売を担当されている廣氏 隆之さんにお話を伺いました。
― 豊岡演劇祭に参加するようになったいきさつを教えてください。
廣氏 実は2021年(※)に、豊岡演劇祭への参加を打診するために、事務局の方にご相談をさせていただきました。豊岡演劇祭は、カタシマのやろうとしていることと非常に重なる部分もありますし、観光や芸術は、お菓子や食との親和性が高いため、「何か一緒にできないかな」と思いました。まず最初に、豊岡演劇祭のロゴがすごく目に留まったので、このロゴデザインを使って何か商品をつくろうと考えました。ただ、私どもは製造メーカーなので、何かもう一捻り、二捻りしたものをつくりたかった。そこで、ガレット・デ・ロワ(表面に独特な柄を模して焼き上げたパイ生地のケーキ)に、豊岡演劇祭のロゴデザインの柄を模したものを商品化できないかと考えました。実は、ガレット・デ・ロワのコンテストがあって、そのコンテストでこの作品を出してみようということになりました。もし入賞すれば、商品自体の発信力が倍以上になるので、商品化をするにはもってこいの機会だと考えたためです。残念ながらその年は賞が取れなかったため、今後の販売に向けた製造工程のオペレーション確認のため社内のみで販売を行いました。そのような縁があったため、今年の商品にも豊岡演劇祭のロゴを使わせていただいています。今年、ようやくコロナも落ち着いて、今まで以上に演劇祭が力を入れてやられるということで、事務局の方から「何かコラボできないか」とご連絡をいただきました。その段階で、前回以上にインパクトのある商品提案をしたいという思いがあったので、今回は赤いパッケージが印象的な米粉のマカロンをつくらせていただきました。(※=新型コロナウイルスの流行による緊急事態宣言の発令による影響で、この年の豊岡演劇祭は中止になった。)
― 「オリジナルマカロン」商品開発のポイントとは何でしょうか。
廣氏 商品開発の際、ただ美味しいものをつくるだけでなく、そのあとどういったシチュエーションで使っていただけるか、どういった発展性があるかということも考えています。この商品も、たまたまラジオ番組の収録でご一緒させていただいた(豊岡演劇祭2023のフェスティバルディレクターである)平田オリザ先生と「芸術文化観光専門職大学に来られる方に、ノベルティをつくりたいと考えてるんです」「カタシマさんもよかったら何か考えてくださいませんか」というようなやり取りをさせていただいたことから着想したため、あまり賞味期限の短いものや、取り扱いの難しい生菓子は、こういったシチュエーションにはそぐわないのかなと考えました。そのため、この商品はマカロンの中でも「マカロンラスク」といって一度焼き上げてあり、賞味期限もクッキーと同じぐらい長いんです。また、この商品をつくる段階で、カタシマで力を入れている「グルテンフリー」をキーワードに、地元の「コウノトリ育むお米」の米粉を使ったものに仕上げ、さらに豊岡演劇祭のロゴを入れさせていただくことで、他との差別化を図りました。米粉のマカロンに合わせて、オリジナルのコーヒーのドリップパックもつくりました。そのコーヒーも「グルテンフリー」や「健康」など、何か他との差別化を図りたいと考えていたので、最近女性を中心に注目されている「デカフェ」のコーヒーをつくる事にしました。パッケージに豊岡演劇祭のイメージカラーである赤を使って、かわいらしいイメージに仕上げることで、(マカロンやコーヒーのコンセプトと)非常に合ってくるのではないかと考えました。この商品を手に取っていただくお客様に、豊岡演劇祭のことも知っていただきたい、カタシマのことも知っていただきたいということで、演劇祭としての取り組みと、カタシマという会社の取り組みが伝わるようなしおりも作成しました。その際、実行委員会の皆さんに協力いただき、平田オリザ先生のサインも入れさせていただいています。豊岡演劇祭にとっても、私どもにとってもメリットがあるようなかたちで、商品の提案をさせていただきました。
廣氏 商品開発の段階でスタッフの試食を行い、改良と試作を繰り返しました。「マカロンラスク」はクリームの詰まったマカロンよりも素朴な見た目なので、いかに味にインパクトを与えるかということで、最初はアーモンドの粉末を使っていましたが、もっと香ばしさが出るようにヘーゼルナッツに変えました。ロゴデザインは、演劇祭の事務局からもアドバイスをいただき、当初は開催期間を入れたデザインにしていたのですが、それを外し、ロゴを大きくしました。豊岡演劇祭2023の事業は期間があることですが、さまざまな人々と連携することで、より広くより強く拡散させていく豊岡演劇祭の取り組みに、私どもも共感できるものがあり、地域に根付いていることや、その手法も非常に感銘を受けるところもあったため、それなら豊岡演劇祭の取り組み自体を応援していこうということになりました。今後もこういったかたちで、商品のコラボ等で協力して、お互いに広げていけるような繋がりを持てたらいいかなというふうに思っています。
― 常務取締役が語る、「カタシマ」の新しい表現方法。
廣氏 昨年、城崎に「片島成好堂」という、カタシマの別ブランドのショップをオープンしました。このショップを立ち上げるときに、私自身さまざまな想いがありまして。実は、「カタシマ」として53年営業させていただいて、それなりにブランドイメージがあったり、自分たちの中でも変な固定観念があったりとかして、それにある程度助けられている部分もありますし、逆に縛られている部分もありました。私も仕事をさせていただいている中で、マンネリ化しすぎたというか、その殻から抜け出せない呪縛みたいなものがあったため、新しいお店を開く際、「カタシマ」を連想させるけど、別の屋号のブランドを立ち上げようと考えました。どうせ立ち上げるのなら、コンセプト立てをしっかりしよう、それも「『コウノトリ育むお米』の米粉を使ったグルテンフリースイーツ専門店」というふうに、かなり絞り込みました。もし、「カタシマ」という屋号のままでやってしまうと、「カタシマ」を知るお客さんは「なんでショートケーキないの?」「なんでデコレーションケーキ注文できないの?」という話になるため、「カタシマ」とは違った屋号にする事にしました。ちょうどその頃、私はあるイベントに出店していたお店の、すごく手作りだけどセンスのいい、でも多分売上はあまり気にせず、毎日メニュー変えたり、すぐに売れちゃってなくなっちゃったりしている姿を見て、自分がまだ若くて、さまざまなことをやり始めた頃の気持ちにすごく似ているものを感じました。だんだん年数が経っていくと、正直、今までと同じ流れに乗っていくのが楽な部分もあります。しかし、それが自分の中ではすごくストレスで。そのため、新しいお店をやるのなら、屋号を変えて、「カタシマではできなかったことをやろうよ」ということになり、それを実現できるお店づくりをしました。
廣氏 店づくりの準備のため城崎の街を見てまわった際、若い方が「かわいいよね、これ」と言いながら商品を手に取るようなイメージが浮かんだため、パッケージも黄色をベースにして、和と洋を組み合わせたような感じで、なおかつセンスのいいかわいらしさを表現しました。これと同じように、豊岡演劇祭もどこか似たところがあると思い、若くて感性が高い方が興味を持ってくれるようなパッケージデザインになればいいかなと思いました。ドリップパックのコーヒーも、それに合わせたデザインに仕上げました。デザイナーさんは最初、パッケージの色を黒で提案してきましたが、私は、「赤にしてください」と言いました。その結果、豊岡演劇祭のイメージに合うかつ、かわいらしさも表現されたパッケージが完成しました。
― カタシマの今後の展望とは、どのようなものでしょうか。
廣氏 世の中にはさまざまな、能力や才能を持った人がいると思います。例えば、ケーキをつくる方だったらケーキをつくる能力や才能であったり、演劇祭の方は演劇祭の、演劇の中でも役割があって、それぞれが自分の仕事を極めるために一生懸命やっているじゃないですか。それを別々に切り離すと、事が何も進まないと考えます。豊岡演劇祭は、フェスティバルを通して、さまざまな方が但馬に来るような仕組みづくりとかも考えられています。それはカタシマのやりたいことでもあり、別組織でも、考え方とかやろうとしていることは重なる部分がけっこうあると感じます。なので、そういったアイデアがあれば一緒にできたらいいよね、と思います。実は11月に、東京で3日間、カタシマのポップアップをやります。これをやるにあたって、豊岡市の方とお話しした際、豊岡演劇祭の取り組みだけでなく、豊岡市の観光誘致の取り組み等、発信したいものやできるものがあれば、ポップアップスペースの一部をお貸しするという提案をさせていただきました。一緒にイベントをすることによって、新しい反応や動きが生まれ、私どものやろうとしていることがさらに広がっていったらいいかなと思ったからです。それに、私ども単体の企業で、3日間東京の人が何万人もいているなかでイベントをやったところで、それほど「カタシマ」が広がらないのではないかという危機感がありました。そこで、今回はさまざまな方にお願いをして、「地元の『コウノトリ育むお米』のおいしさを広げるためにスイーツをつくり、但馬の魅力を発信していくイベントをやるんです」と伝え協力を要請したところ、それに共感してくださる方々がたくさんいることがわかりました。例えば、兵庫県の観光本部が「協力しますよ」と言ってくださったので、9月までのイベントですが、兵庫テロワール旅のロゴを使わせていただいています。そうすることで、観光本部としても後押ししていただき、県のホームページでポップアップの情報を上げてくださったりとか、兵庫県の東京事務所があるのでそちらのスタッフにも声をかけて、そちらでも広げるようにしますと言ってくださったりとか、さまざまな発信のきっかけになるのではないかと考えています。今回東京でポップアップをするのも、商品をたくさん売るというよりは、「どれだけ発信できるか」に重きを置いています。なので、実は3日間のイベントよりも、その前とその後がすごく大事で、いかに注目してもらい、カタシマのやろうとしていることを知ってもらうようにする仕組みづくりに、今は力を入れています。それを、カタシマの商品を買いたいと思った人のために、オンラインで商品を購入していただけるようにしたり、次のイベントの案内が届くようにしたりする流れに繋げていきたいです。地元の食材に目を向けているのも、この場所にあるカタシマだからこそできることだからです。それをお菓子や料理に乗せることで、地域外の方にもカタシマの取り組みに注目してもらって、なおかつ興味を持ってもらえたら「但馬に行ってみよう」「買いに行ってみよう」というふうになれば、一番いいです。そのような人がより多く出てくることを願って、これからも「カタシマ」をやっていきたいと考えています。
美味しいのは、当たり前。マカロンやコーヒーそのものの味だけでなく、見た目やパッケージ、さらには商品の買い手には直接見えることのない商品開発の段階にも、たくさんのこだわりが詰められています。半世紀以上もの間、但馬の人々に愛されるカタシマ。そのわけは、常に新しい挑戦をしつつも、「地域への貢献」という根幹を忘れない姿勢にあるのではないかと思います。2023年の但馬の地だからこそ生まれた、マカロンとコーヒー。但馬に長く住む人でも、但馬を少しだけ知っている人でも、但馬を初めて訪れる人でも、きっと誰もが但馬の豊かさを味わうことができるでしょう。
取材・文:石川はな
2002年生まれ。芸術文化観光専門職大学3年生。豊岡演劇祭2023では、実習生として広報部に携わる。
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