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ダイキン工業 片山さんに「実務家ブランド論」について解説してもらった

こんにちは。東洋経済ブランドスタジオです。

ダイキン工業で長年広告宣伝をされている片山義丈さんが執筆された書籍「実務家ブランド論」(宣伝会議)がいま話題です。

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片山さんは長年「ぴちょんくん」や「うるさら」などの広告宣伝に携わられており、その過程の試行錯誤の結果到達した「ブランドの作り方」がまとめられています。

東洋経済ブランドスタジオは、ダイキン工業様と記事広告連載「空気で答えを出す会社」のお取り組みをさせていただいており、片山さんが考えられているブランド作りの一翼を担わせていただいています。

そこで発売されたばかりの「実務家ブランド論」を片山さん本人に解説していただこうと、リモート会議を開催しました。その模様を動画にしましたので、ぜひご覧ください。

全文テキストも掲載します。

ゲスト
 ダイキン工業株式会社 総務部 広告宣伝グループ 部長 片山 義丈 様
出演者
 東洋経済新報社 ビジネスプロモーション局 メディア営業部
 斎藤治子、尾登 雄平

東洋経済ブランドスタジオとは

2019年に東洋経済新報社ビジネスプロモーション局の広告・セミナー・カスタム出版の三つの部隊が合体した広告主向けのコンテンツ制作チーム。


動画はこちら


全文書き起こし


尾登 こんにちは。東洋経済ブランドスタジオの尾登と申します。今回はですね、東洋経済ブランドスタジオとも長期間でお取り組みをさせていただいている、ダイキン工業株式会社 総務部 広告宣伝グループ長 部長・片山義丈様をゲストにお迎えしましております。片山さんは1988年ダイキン工業に入社され、「ぴちょんくん」ですとか「うるるとさらら」ですとか、現在のダイキン工業のブランドを作られてきた方です。先日ですね、片山さんが宣伝会議から「実務家ブランド論」という本を出版されて、私も拝読させていただいて、ぜひですね、企業のブランド担当者の方ですとか、色んな方に読んでいただきたい書籍だなと思っていて、今回はこの本のご紹介をさせていただきたいなと思っています。


ちなみに東洋経済ブランドスタジオは、2019年に東洋経済新報社ビジネスプロモーション局の広告・セミナー・カスタム出版の三つの部隊が合体した広告主向けのコンテンツ制作チームです。

東洋経済ブランドスタジオとダイキンさんとは「空気で答えを出す会社」という記事広告の長期の連載の取り組みを2018年度からさせていただいています。ちょうど私の背景に記事が見えていると思います。「空気」をテーマにしてダイキンさんの企業姿勢、技術など様々な取り組みを東洋経済の編集のフィルターを通じて発信をしております。ぜひこちらの方もご覧頂きたいと思います。概要欄のほうにリンクを貼っておきますので、ぜひご覧いただければと思います。

ということで早速ではありますが、片山さんから簡単にご挨拶というところと、こちらの実務家ブランド論についてのご紹介というところで、買っていただかないとあれなので、簡単にご説明お願いできますでしょうか?よろしくおねがいします。


片山 ダイキン工業で広告宣伝とオウンドメディアの運用、広報活動をやっております、片山です。本日はよろしくお願いいたします。

いま尾登さんからご紹介いただいたんですけど、私「実務家ブランド論」という書籍を書かせていただきました。なんでこういう本を書かせていただいたのかというところなんですけれども、私は日本企業では非常に珍しいんですけれども入社以来ずっとブランドをつくる仕事をやっております。広告宣伝を担当して広報担当してオウンドメディアを作って、一貫してブランドを作る仕事をしているんですけれども、なかなかそれがうまくいかなかった、というところがあります。
うまくいかないので一生懸命、本屋で書籍を買って色々なブランド論の、アーカーさんですとか、ケラーさんのブランド論の本を一生懸命読んだり、ブランドのコンサルさんが書かれたような、こうやってブランドを作るんだよっという一生懸命読んでブランドを作ろうとしていました。ただ本の通りにやってもなかなか上手くいかなかったんですね。もちろん私の才能がないせいなのかなあと謙虚に考えてみたんですが、周りのブランド担当、他社の方にいろいろお話を聞いても同じような悩みで、どうもブランドの教科書とか学者先生の話を見てもうまくブランドが作れないなという悩みをもっておられた。

私ちょっとへそ曲がりなところがありまして、そこでもしかしたらここに書いてある本っていうのは何か違ってるんじゃないかなという風な疑いの目で本を見だしたんですね。そうするとですね、いろんなことが分かってきました。

そのブランド論に書いてあるのは、だいたいですね、アップルかナイキかスターバックスなんですね、他の事例がほとんどない、日本企業の事例っていうのがほとんどない。ということはそこに問題があるんじゃないかなという風に思いました。ですからやっぱりその超一流のブランド、アップルとかスターバックスとかいうようなものをお手本にしてブランドを作ろうとしても、一般の企業とか普通の商品っていうのはブランドが作れないんじゃないかと

改めてその本を読んだとき、本当の意味っていうのは、私が読んでいた意味とはちょっと違ってたんだなあということに気づいたんですね。ブランド論の教科書には翻訳が必要です。教科書を読むのに参考書がいるように、ブランド論の教科書を読むのに参考書がないと実務者には分からないんだなあと分かりましたので、それをまとめたのがこの本になります。


片山 日本企業でブランド担当してる人たちがなかなか、特に日本企業でブランドを作るのが難しいという悩みを抱えてまして。そのあたりも何でなのかなあと一生懸命考えていったりしました。ここに写してあるスライドなんですけれども、日本企業は昔からものづくり、いいものを作っていればいいんだ。本当にいいものを作ってきて、日本は素晴らしい国からっているんですけども。どんどん技術も成熟化して、なかなかその技術で差別化がつかなくなってきました。

例えばこれエアコンですけれども、A社のエアコンが年間電気代が29,500円、B社が30,000円っていうと、論理的には29,500円のエアコンのほうがいいエアコン。どうしても企業は500円うちのほうが安いよ、ということを一生懸命言いたがるんですけれども、生活者から見たらこの500円は誤差の範囲で、同じ良いものに見えてしまう。ただしものづくりで一生懸命やってうまくやってきた日本企業ですので、やっぱりこの500円ってものすごい努力の結果生み出されたものなので、どうしてもここを一生懸命説明したくなる。

ただ機能的価値ではほとんど差がつかなくなった現代においては、ほとんど機能的な部分では一緒なんだから、情緒的な価値ですね、ブランドそのものですけども、両方同じだったらなんとなく良さそうな方を選ぼうというそういったもので商品が選択されることが多い。ただし企業で言うとどうしても機能的価値の方を一生懸命、機能的価値は説明がしやすいですけど、何となく良さそうっていうものの説明が難しいというのもあって、機能的価値を重視する日本では情緒的価値を作るブランド作りいうのは、非常に難しいものになっている。


かつ、もう一つの問題は、ブランドっていう言葉の定義がブランドの書籍ごとに異なる。差別化ですとか、約束ですとか。いわゆるスーパースターと言われるナイキやアップルのブランドを定義する、そういった特殊な定義になっていますので日本企業では扱いにくいものになっている。私は「頭の中に自然に浮かんだ勝手なイメージ」、それをブランドって呼ぶようにしています。それは何なのか。
それは具体的にどういうことかと言うと、例えばその会社のロゴを見た時に頭の中に自然に浮かぶイメージ。これがブランドの定義です。決して、約束とか差別化ということではなく、ブランドを思い出すきっかけを、見た時に頭の中に自然に浮かぶイメージ。それこそがブランド。この頭の中のイメージができることによって機能的価値があまり変わらない中で情緒的価値で差をつける。そのことによって、企業活動がうまく行く、ということがこの本の中で説明させていただいています。

そしてブランド作りの大きな問題点というのは、ブランドの作りの目的がちょっとよくわからない。そんなことはない、ちゃんとブランド作りの目的をちゃんと決めてるよという会社さんも多いんですけども。それは非常に曖昧な目的になっていたり、ブランド作ること自体、本来は手段であること自体が目的になってるってことが多い。

ブランドを作る目的を一言で言うと、会社が儲かることなんですね。商品が売れたり、会社が儲かること。その頭の中のイメージができることによって企業が儲かる、商品が売れていかなければ、そのブランド作りは意味をなさない。企業が儲けるって言う事は短期的にですね、お金が儲かるということではなく、こちらで書かせて頂いてるように、事業活動の全てに貢献するということ。その頭の中にブランドができることでエアコンを買ってもらえる。非常にわかりやすい例ですね。投資家の方にダイキンの株を買っていただく。これは結果的に企業が儲かることにつながる。他の企業さんがちょっとダイキンさんと一緒に新しいことやってみたいなあと声をかけてもらえる、これもそうですし。世の中のビジネスマンの方が、ダイキンのことを評価いただいて、それによって例えば社員が誇りに思う、そういうことも企業活動に貢献して儲けることにつながる。当然、大学生が会社に入っていただくということにもつながって儲かることにつながる。こういった、目的をしっかりと定めて、ブランドの定義をですね、差別化ですとか約束というような、教科書的じゃないものを使うことによってブランドが作れるというふうに考えておりまして。そちらをまとめさせていただいのが「実務家ブランド論」という本になっています。

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尾登 私もこの本を読んで腹落ちしたと言いますか、私も広告代理店に昔いたので、なんかこうその、企業の広告とかブランド担当者が、何かかっこいいことやりたいよねとか、何か最先端のことやりたいよね、みたいな。あと競合他社がこんなことやってるからうちも負けたくないからこんなことするみたいな、これ本当に意味あるんですっけ?みたいな。もうその担当者がこれやりたいっていうところから始まっちゃってる部分が結構ありまして。おそらくナイキさんやアップルさんみたいな、そういうスーパーブランドみたいなものに憧れて、似たようなことをやってると自然にブランドってできて行くみたいな、そういう素朴な感覚を持ってる方っていっぱいいらっしゃると思うんですけど。本当に違うよなって。

片山 私も長いことそういうことやってきたもんね。何となく、やってて楽しいですしね。楽しいし、売上とかに全くつながらないものなので、逆に批判されることも、「いやブランド作りって別に儲けるためじゃないんです、と。ブランド作るためなんですよ、できたらいいでしょ?」って。趣味としては最高な趣味。

尾登 今回の「実務家ブランド論」で言うと、日本企業、ものづくり企業って言うのか製造業って言うのか、日本のカルチャーに根ざしている企業にはすごくフィットする考えというか心構えなんだろうなっていう気がしていて。通常のその普通の日本企業ってこう、市場のニーズが需要があってそれに対して商品を開発して作って、営業のあれまでやって、じゃあ最後にCMどうしようか、広告どうしようか、みたいな話になっていって、広告は最後の役割みたいな感じで語られることが多いんですけど。多分そのアップルとかナイキみたいなスーパースターブランドって、商品開発とブランディングがセットになって動いているはずなんですよ。両輪で回っているはずなんで。ベンチャー企業ですとかD2Cブランドみたいなのは、そういう形で動くケースはありますけど、ただ普通の日本企業ってなかなかそういうような、完全にビジネスモデル変えないといけないっていう話なので、いきなりそっちの方にブンっとシフトするのって無理だと思うんですよね。そういう点でこの考え方っていうのを実践するのは非常に現実的と言うか、実用的だなっていうふうに読んでいて思いました。

斎藤 片山さんはもともと色々勉強されたというのがあって、ただ今の若い人ってどうしてもwikiとかあったりするので、答えに直接すぐ行きがちなので。もしかしたらこれを読んでですね、「教科書ブランド論は必要ない」とか勝手に思わないだろうかと若干思いました。そういうのも読んだ上で、それは参考書と言いますか、読んだもので自分たちで吸収していくので。一方でこういう「実務家ブランド論」っていうのは別な軸だと思うので。

片山 書いてる人としては、ブランド論を翻訳したというのはちょこっと書いて入るんですけれども、どうしても、ブランド論信奉者に対するアンチ的な部分っていますか。どうしてもいろんな世の中にあるフレームワークで、どうしても簡単に答えを求めてしまうという。ビジネスのフレームワークっていうのはそこにいろんな要素を突っ込んだら素敵な答えが出てくるものでは決してないんですね。何を放り込むかは考えないといけないし、出てきたものを吟味しないといけない。フレームワークっていうのは、それを使いこなすワザが必要なんですね。なんかこうこれを入れたらこんなアウトプットが出て、それがイコール正しいみたいな。フレームワークも上手に活用するんですけど、そのためにやっぱり様々な書籍、そういう意味で学術的なブランド論っていうのは大変ためになるので、そこはちょっと間違えずにやって欲しいなあ、と。

あとSDGsとかCSRもそういうところで、必要以上にそこの価値を低いっていうふうに受け止められる書き方になってしまってたかなというのもあって。これからの時代出たら間違いなくそこのところは重要なんで。日本企業も含めて資本主義なので、儲けるためには何してもいいみたいなことが強い時代があって。さすがにそれがなくなったと思ったら急激に、世のため人のため地球のためにみたいなことをキラキラ言う若い方が多いと。会社に入って世の中に貢献したいって言うんだったら、会社に入るのはお金儲けのためだよ、という気持ちがあったので。そちらもちょっと、なかなかの程よいところで筆を止めることができなかったので。そこは差し引いて読んでいただければなと思います。

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尾登 私の方から一つ質問と言いますか、今回その存在価値ってブランドアイデンティティが重要であるっていう風にあの本の中でも力説されているんですけども、あの結構このブランドアイデンティティ自体を作ると言うか、統一見解を作る事って結構難しいことだと思うんですよね。このブランドアイデンティティ、その会社の存在意義、ブランドの存在意義っていうところを、まとめるの難しいし、それをさらに浸透させていくのもやっぱりすごく重要だし一番難しいことなのかなって思うんですけど。なんかこれをどういう風に取り組まれてるのかなというところをちょっとお聞きしたいなと思っておりました。

片山 大きなポイントは、まとめてはダメだ、というところだと思うんですね。イチからまとめようとすると、まとまらないです。皆さん感じ方、考え方が違うので、まとめましょうと言った瞬間にまとまらない。じゃあどうやって作るのかと言うと、「みんなが持ってる共通項」ですよね。みんなが「ここはそうだな」っていうところが必ずあるはずなので。そこのところがどこなのかっていうのを、ブランドの担当者が、抽出すると言いますか。そこそこ切り取るっていうこと。で、切り取ったものを「これがブランドアイデンティティですね」とか言っちゃダメなんですね。そうするとさっきみたいに「いえいえ、それは違うだろ」って言う人が出てくる。なので、一番たくさんの人がそれが自分たちのアイデンティティだと思うものをまずはっきりさせて、それをベースにコミュニケーションなりものづくりのベースにしていった時に、最初はそうは思ってない人たちも、そういうことが私たちのアイデンティティなのねと感じて、そちらの派閥が増えていく。それをこうそうだと思わない方ですね、そうだと思わない方は、永遠に思ってもらえないので。もうそれでもいいじゃないかっていうことだと思います。無理くり全員合わせようとするから、どんどんどんどん、みんなが正しいと思えるアイデンティティになる、「人と地球が大好きです」となるんですけど、誰一人それが本当にアイデンティティだと思わないですよね。「人は好きだけど地球は嫌いだな」っていう人が結構いたりするとするならば、その方が実はアイデンティティとして意味があることなので。やはりアイデンティティっていうことをまとめるっていう事が、あまり意味がないかなというふうに思う。まとめようとするとそちらの罠にはまってしまう。理想的、誰もがNOと言わない、みんながこれが私達のアイデンティティだっていうのは、実は誰のアイデンティティでもない、と。

おしゃれな言葉で包まずに、私たちの経営方針だとか、経営理念だとか、やりたいことですよねと、もう少し肩肘張らない言葉で作る。ブランドアイデンティティみたいなすごい言葉になると、皆んなの意見合わさないといけないとどうしてもなるんですけど、そうすると社長はOKだけど副社長はもう一つみたいなことになってしまう。社長がOKなほうでいいんじゃないのっていうくらいにしないとできていかない。そもそもブランドという情緒的価値は、その旗印に対して共感する人たちが本来集まった組織なり、集まった商品作りでないとなかなか成し遂げられないかなと。書籍の方で田中先生がもおっしゃってる、シャネルの人がブランド担当を雇うは、ブランドが分かってるやつだけを雇うって、いうお話があるんですけど。やはり人間は多用な価値観があってしかるべきですし。自分の価値観と合うその企業なり商品で、仕事をすることのほうが、本人にとって本来はハッピーなはず。無理やり合わせるとか最大公約数とるということではないと思います。

尾登 やっぱり通常の組織というか、やるべきことをマジメにやっていく組織っていうのは、多様性とかそっちのほうが大事なんだろうなと。

片山 規模が大きくなったりとか、ある程度歴史がある企業なり商品なりになってきますと、今まで積み上げてきたものがありますし、参画する人も多いので、それにふさわしいブランドの作り方っていうのを考えないといけない。だから割とブランド論に書かれてることは、ベンチャーの方は使いやすいとか分かりやすいことにはなってますけれども、逆に言うと中高年みたいな会社になると、今さらフレッシュな気持ちで言って言われても、もうなかなか難しいと。いろんなしがらみ、垢が体中に染み付いているので。その本をそのままやろうとしてもなかなか難しい。


尾登 とうことで、今回は片山さんに「実務家ブランド論」の内容をお話いただきました。ぜひお近くの書店ですとか、ネット書店でお求めいただければと思います。そうして、東洋経済オンラインで展開している「空気で答えを出す会社」の今後の展開にもご期待いただければと思っております。

それでは東洋経済ブランドスタジオの提供でお送りしました。ご視聴ありがとうございました。

『実務家ブランド論』 宣伝会議 発売日: 2021/09/14

・『東洋経済オンライン』空気で答えを出す会社

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