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乳がんになった時のこと 4
「あっさりとしすぎた告知」
60代ぐらいの男の先生は、子どもの風邪や腹痛や予防接種やらで月に1度は顔を合わせている。どっちかというと近所のおっちゃんという感じだ。そういう人におっぱいの話をするのも気恥ずかしいな、とちょっと思ったけど、診察室に入ると「ちょっと見るからそこに仰向けに寝てね」といつものテンションで言われたのでどうでもよくなった。上着を脱いで寝転がると、看護師さんがバスタオルをかけてくれた。
先生はちょうどゴリゴリしているものを触り「痛い?」と聞く。
私は「全然痛くないです」とちょっと大きめな声で元気そうに言った。痛くないので大丈夫ですよね?とアピールしてみた。
先生「じゃあエコーでみてみようか」とすぐ検査室に行くように指示された。
私はいつも思うけど、エコーとかレントゲンは素人が見ても何が何だかわからない。でも先生は往々にして「ここに問題があるでしょ?」さも当然のように指さすから、ああそう言われればなんかあるけど…ぐらいの理解と解像度しかない。
でもその時のエコーで見た私の胸には、誰が見ても分かるぐらい「白くて丸い何か」が入っていた。普通に「何やこれ?」と思う1センチぐらいの白い石が埋まっていた。
エコーを見た先生の顔はいつもと違った。少し困ったような顔をしていた。
「これ見たら分かるやろうけど、石灰化してるねん。
サイズは横1.5センチ縦1.2センチ」
「はぁ、石灰化ですか。」
石灰化と言われてもそれがどういう意味なのかは分からなかった。
「それでここの影の部分が壊死してるように見える。」
「はぁ、そうなんですね。」
「乳房にこういうものが映るのは、いくつか原因があるんやけど」
そう言って、メモ帳にいくつか病名を書き始めた。
これはこの先生が病気の説明をするときによくやる手法で、子どもが高熱を出したときにも、溶連菌、アデノウィルス、インフルエンザA、などと書いて、この症状があるからこれじゃない、この症状があるからこれでもない、とひとつづつ斜線を引いていき、おそらくこれでしょう。と予想される病名にマルをつけるという説明の仕方をする。
先生はその紙に「線維腺腫」「乳腺症」と病名を書きつけていき、最後に「悪性腫瘍」と書いた。
「お母さん、胸のしこりは痛くないって言ったでしょ?だからこれじゃない。さっき触った時にあんまり動かないねん。ガッチリしてる。だからこれじゃない。このエコーの縁がギザギザしてるでしょ、だからこれじゃない」そう言って一個づつ病名を消していった。
最後に残った病名は「悪性腫瘍」だけだった。
いつもならそれにマルをつけるが、その日はしなかった。
「お母さん、とにかく検査してもらわないとあかんわ」
「はい。」
「ここの近くやったら〇〇医大の附属病院か、〇〇労災病院かどっちか。
紹介状書くから、いつやったら行ける?なるべく早くで」
「え、そんな大きなところ行かないといけないといけないんですか?
乳腺クリニックみたいなところじゃなくて?」
「そんなところ行っても手術できないから意味ないやん」
「はぁ」
おいおい、悪性腫瘍ってなに?がんってこと?いや、さすがにこんなにあっさりがんの告知されるわけないからその可能性があるって程度やんな。検査したら違ったわ〜ってなることもあるんやんな。え、そんなでかい病院行かなあかんの?ほんで今手術決定みたいな言い方せーへんかった?
頭の中で複数の自分がしゃべり出して混乱状態になった。
思考が音声にならない世界でよかった、と呆然と待合室で紹介状が出来上がるのを待った。
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