乳がんになった時のこと 13

「平然としてても怖いもんは怖い」

遺伝性の乳がん。もしそうなら子どもにも遺伝する可能性は高く、姉たちや姪っ子たちも乳がんになる可能性が上がる。これはまいった。私が悪いのではないけれどまじで申し訳ないと思った。

ちゃんと調べた方が良いのか…、でも検査費用はかなり高額だ。そしてそうだった場合、本当にアンジェリーナ・ジョリーみたいにもう一方の乳房も子宮も摘出するの?恐らく予防手術は保険適用外だ。アンジェリーナ・ジョリーぐらい稼いでいるならまだしも、それは今の私には現実的ではないような気がした。

姉に相談しようと思ったが、仕事の締め切りが迫っていたのでとりあえず保留にしておいた。手術の後でも遺伝子検査はできる。手術の前のタスクはまだまだあった。保険会社に連絡をしたり、歯医者に虫歯のチェックに行ったり、インフルエンザの予防接種をしたり、大量の雑事をこなさなければならなかった。

淡々とやるべき事をこなし、知識を得て、冷静に対処しているつもりでも、漠然としたがんへの恐怖は心の中にあらわれた。手術・放射線治療・抗がん剤。特に抗がん剤治療は怖かった。倦怠感、吐き気、脱毛。脱毛を隠すウィッグの会社もめちゃくちゃリサーチした。そしてどうか抗がん剤を使わなくても良い治療方法でありますように、と祈った。

乳がんの概要を調べるのに図書館に行った話を書いたが、ネットも相当見た。こっちはもっぱら実際に乳がんになっている人の話を知りたくて調べまくった。ただそういう記録を残している人は、私なんかよりももっと状況がかなり悪い人が多く、あまり読むと落ち込んでしまう事も多かった。

初期のがんは体に症状などほとんどない。
なのに、そこそこ辛い治療を受けなければならない。

病気になるとしんどくて日常生活に支障が出るから治療を受けて治すというのが通常のパターンだと思うけど、初期のがんの場合は元気なのに治療を受けなければならず、その治療のせいでしんどくなって日常生活に支障が出る、という逆のパターン。

なんで今元気で仕事も順調なのに、わざわざ体調が悪くなるような治療を受けなきゃいけないのだ。
「がんは生活を改善すれば治る!」「にんじんジュースでがんが消えた!」「酵素風呂でがんが治った!」図書館でも見たが、がんの民間療法の本は山ほどある。「どうしてこんな非科学的なものを信じるんだ、アホらしい」と以前の私なら思った。でも今なら、すがりたくなる気持ちが少しは分かった。

家族の前、特に子どもたちの前では絶対に「治療が怖い」とは言えなかった。「お母さんはへっちゃらやで、ちゃんと治療したら治るんや」といつでも堂々と平然としてなければならなかった。そうでなければ家族みんなが不安になってしまう。

不安な気持ちは現実の誰に言う事もできずに、Twitterの海に流した。

MRIの検査の数日後、病院から電話がかかってきた。空きができたから手術日を2週間繰り上げたいという内容だった。ひょっとしてがんの状況が悪いから早まったのか…とうがった見方をしたが、手術が早い方が復帰も早いはずと思い「わかりました。ありがたいです」と言った。

そうして、あっという間に入院の日になった。

#乳がん #健康 #シングルマザー

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