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乳がんになった時のこと 12

「色々な選択肢が出てきてそこそこ迷う」

とにかくそれからは、いろんな所に説明しまくった。仕事のディレクターたちにも乳がんだと伝えたし、何なら会議でみんなの前で話した。乳がんであることを言うと、ほぼ全員が気まずそうな顔をする。いやいや、全然まだ死ぬレベルじゃないから大丈夫ですよ、すぐ戻ってきます。でも見た目はちょっと変わるかもしれないからお伝えしといたほうが驚かれないと思って。そう言うと「そうなの?」と少し気は緩むみたいだけど、明らかになんて言ったらいいのかわからない…みたいな空気になってしまう。同情する人も、そっぽを向いてしまう人もいた。それでも私は他人に話しつづけた。

長男のサッカーのクラブチームのお母さん方に話した。入院の予定日と試合の日程が重なっていた。役員なのに試合の段取りなど手伝えないのが申し訳ないと言うと、みんながお互い様だから大丈夫。長男くんも連れて行くし、また試合の写真を撮って送ると言ってくれた。1人のお母さんが、こないだ遊びに来た時いつもよりちょっと元気がなかったような気がして、しんどい?と聞いたと話してくれた。

長女の担任に話した時「あ〜それでですか」と納得がいったみたいな顔をした。
「何かありました?」
「いや、いつもより集中力がないなと思う事が何日か続いて。いつもならもう少し頑張るのにな…と思ってたんです。」
長女の担任の先生は、学校一のベテランで、私もとても信頼している先生だった。
「長女は気は強いんですが、割と繊細なところがあったりします。精神的にも不安定になることがあるかもしれません。何かあったらまた教えてください。」と話して学校を去った。その後、彼女が卒園した保育所の園長先生にも「長女ちゃん元気がないわ。やっぱりお母さんのことを気にしてるみたい」と言われた。次女を迎えにいった時に長女と話したようだった。「次女ちゃんはあまり気にはしてないみたいだけど、『お母さんのおっぱい切り取るねん』って担任の先生に言ってたと教えてくれた。子どもたちも色々と考えるところがあるようだった。子どもたちのサポートをしてくれる人はなるべく多く作っておきたかった。

MRIの検査日に母を病院に連れて行った。
MRIは、とにかく時間がかかった。まず造影剤の注射がなかなかうまくできなかった手の甲の血管を使って4〜5回失敗しまくったので、結局腕から入れた。そしてヘッドフォンをつけて、うつ伏せでドーム状の機械の中に入る。その中で40分。この中は一体何がどうなってるのかと思うほど金属音と金属音が鳴り響いていた。Perfumeのライブかと思うほどだった。あまりにうるさすぎて疲労とストレスで寝てしまった。検査室から出て、待ってくれていた母を見ると、小さい時にしょっちゅう2人で病院に行ってたことを思い出した。

MRIの結果を見て手術の方法を決めることになっていた。名前を呼ばれて母を連れて診察室に入ると、先生は少しびっくりした顔をした。母が来るとは思っていなかったようだった。

「MRIの結果を見て、この部分なら全摘じゃなくても、部分摘出でも大丈夫じゃないかと思います。ただ残した部分にがんが再発する可能性は高くなります。リスクを軽減する意味でも全摘にする方もおられますが…どうされますか?」
どうされますかと言われても、残すメリットとデメリットを比べる知識が私にはなかった。
「先生ならどうされますか?」
「私なら…部分摘出にします。部分なら入院期間も1週間は少なくなりますし」
「じゃあ、ぜひそうしてください」子どもたちの喜ぶ顔が浮かんだ。
その時母がカットインしてきた
「先生、うちの子は小さい頃から体が弱くて、人より薬を多く飲んできたんですが、それが原因でがんになったんですかね?」
なんちゅーことを言い出すんだと、正直げっと思った。そんな事先生に聞いたところでわかるはずがない。でも先生は丁寧に答えてくれた。
「普通の飲み薬でがんになるとか、そういう事はないと思いますよ。ただ、お嬢さんの場合は遺伝性の乳がんの可能性はあります。」

乳がんや子宮がんには遺伝性で起きる場合が10%程度ある。もしその遺伝子を持っていたとするならば、もう片方の乳房や子宮もがんになる可能性は通常より高い。アンジェリーナ・ジョリーはその遺伝子を持っていたので、乳房も子宮も摘出手術を受けている。そして、私がその遺伝子を持っているとするなら、子どもにも引き継いでしまうし、姉たちや母も姪っ子たちもそうである事になる。それを知るために遺伝子検査をするか、一度考えてくださいと言われてた。ただし遺伝子検査は保険適用にならず45万かかると言われた。

帰り道、母は私ががんになった事を納得したわけではなかったが、とりあえず先生と話せたことで少し落ち着いた様子だった。私は遺伝子検査をするかしないか、決断できずにいた。


#乳がん #健康 #シングルマザー

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