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乳がんになった時のこと 18

「抗がん剤のゆくえ」

座るときに見えた「グレード3」の文字は見間違いであってくれと思ったけど、
本当だった。
先生はメモ用紙を取り出して、私のがんのデータを書いて渡してくれた。

浸潤性乳管癌
1.4cm×1.3cm
核グレード 3
ER 90%
PgR 70%
HER2 2+
Ki67 10%

「ちょっと残念なんですが…」という言葉から先生の説明は入った。「この核グレードと言うのが、がんの性質です。3というのが一番悪くて、転移しやすいがんという事なんです」私は「はい」とうなずくのが精一杯だった。

「この『ER』と『PgR』が90%と70%という事は、女性ホルモンが乳がんの発生に影響してるって事です。つまりホルモン剤を使えば治療できます。」
ホルモン剤は体へのダメージは低いと本でも読んでいた。
それを治療で使えるというのはかなりホッとした。

「もう一つHER2 というのは、特定のタンパク質が影響している乳がんという事なんですが、これが陽性の方はハーセプチンという薬と抗がん剤を併用して治療します。これはHER2が3+を陽性となるんですが、これが2+で、偽陽性なんです。だからもう一度再検査を行いました。そこで陰性と出たので、ハーセプチンは必要ないという事になりました」
必要ないと言われても、そんなにギリギリの判定で大丈夫なの?…とモヤモヤとした不安な気持ちは残った。

「あとKi値はがんの増殖能力を示す数字で、14%以上を高いとするんですが、これが10%ということは低い、つまり進行スピードは遅いという事になります」

どうなんだろう。これを聞く限り私には抗がん剤が必要なのかどうなのかわからなかった。「抗がん剤は必要でしょうか?」と率直に聞いた。すると「抗がん剤…しますか?」と微妙な答えが返ってきた。

なんで私に聞くんだ?と思った。私に聞かれても判断する材料がない。でも後から考えると、ここで希望すれば使う方に傾くという意味だったのかもしれない。でもその時の私には「希望して使う」なんて選択肢はなかった。

「いや、しなくていいならそれに越した事はないです」
「まあ…難しいところですが、抗がん剤は使わないでも大丈夫だと思います」
「本当ですか?」
「今、このまま何も治療をしなければ5年生存率は80%ぐらいになりますが、放射線治療とホルモン治療をしっかり続ければ95%ぐらいにはなります。ホルモン剤を途中でやめたりせずに、ちゃんと飲み続けてくださいね」
「…良かったです」

ホッとして力が抜けた。なんとか抗がん剤治療を免れたのだ。放射線もホルモン剤も、治療しながら仕事をしている人も多いとツイッターで読んでいた。という事はそこまでしんどい事はないはず。大事をとって放射線治療中は仕事を休むと考えても、最短で1ヶ月後には仕事に復帰できる。

その日からホルモン剤は処方され、これから5年間飲み続けるということになった。放射線の治療のスタートは1週間後と言われた。

すぐに姉に報告のLINEを送ると「あんた、抗がん剤は嫌だとか言わなかった?」とドキッとするような事は言われた。ただ「まあこれだけ陽性が出てるという事は、仮に再発しても使える薬がまだあるって事だからって判断だね」と姉妹というよりは、患者に対する看護師みたいな発言をした。

年の瀬迫る12月中旬、やっとトンネルの出口が見えたような気がした。

#乳がん #健康 #シングルマザー

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