乳がんになった時のこと 11

「どこまで他人に話すべきか」

誰に、どの程度まで話すか。これはガンの治療を始める人は悩む問題だと思う。

まず子どもにどう伝えるか。長男が小5、長女が小1、次女が保育園の年少組だった。まだ小さい。不安を与えないように、全く教えない方がいいかもしれないと思った。次に一緒に仕事をしているディレクターや作家のみんなに、どこまで説明するべきなのか。その他、子どもの学校・保育所・習い事周りの人々。小学生2人はは学校の課外教育であるサッカーチームと吹奏楽グループに所属している。これは親の手伝いが必要なもので、参加者は大なり小なり練習に顔を出してお手伝いをする。私が休むことで、他の人にカバーに入ってもらわなければならなかった。

一般的には「大した事ないんだけど、ちょっと入院が必要で…」みたいなお茶の濁し方をするんだろうなと思った。ただしその場合、もし抗がん剤治療を受けた時、大きく変化する外見を見てみんなどう思うだろうか。きっと私の前では、みんなわかっているのに気が付かないふりをするんだろう。でも陰で「あれって…」って話題に上がる事はあるだろう。そんなウワサにはおひれがついて、あの人かなりヤバイらしい、みたいなとんでもない話に発展してしまう可能性もある。そのウワサを子どもたちが聞いた時、どう思うんだろう。

しばらく、1日ぐらい時間をかけて考えてみた。

そして唐突にめんどくさくなった。
そもそも隠す必要があるのか。

私は何も恥ずかしい病気にかかったわけではない。がんは生きている間に2人に1人はなるぐらいメジャーな病気だ。しかもちゃんと治療すればほぼ治るステージ1の乳がんだ。なら隠す事なく、きちんと説明をして多くの人のフォローを受けた方がいいのではないのか。私はシングルマザーで、子どもたちを大きくするのに多くの人の助けを借りなければいけない。それならば、「今回は乳がんが見つかったけど治療をすればちゃんと治るから、それまで助けて欲しい」と言う方が後々にもいいんじゃないのかと思った。

子どもたちにもできる限り説明しようと思った。私が入院するだけで不安になってしまうだろうし、適当な嘘をついてごまかしたところで違和感を感じるだろう。隠されていたり、分からない事には不安な気持ちを持ってしまう。
「お母さんはがんだけど、ちゃんと治療をすれば大丈夫だから、入院している間はちょっと頑張って欲しい」とちゃんと説明しようと思った。

学校から帰ってきた長男を「ちょっとこっち来て」と仕事部屋に呼んだ。
「なになに?なんかくれるの?」
「いや、あげるものは何もないけど。」
「何やねん、じゃあ遊びに行っていい?」
「ちょっと待って。あのさー、お母さん入院せなあかんねん」
「え、何で?」
「手術が必要になってしまった。」
「何の手術?がん?」
「そう。え、何でわかったん?!」
「俺こないだ『がんのひみつ』って本読んでん!」と長男は嬉しそうに言った。
彼は学習漫画のひみつシリーズが大好きで「ダンボールのひみつ」やら「乳酸菌のひみつ」やらあれやこれやと読み漁っていた。
「ステージ何なん?」
「えー、ステージ1です」
「よかったー、じゃあちゃんと治療したら大丈夫やん!」
「そうですね。」
「じゃあ遊びに行ってきます!」

そう言ってあっさりとサッカーボールを持って飛び出して行ってしまった。

息子の方が私より知識があった。がんに対して悪いイメージが先行しておらず、かなり正しい理解をしているようだった。教育って大事だなとしみじみ思った。

長女と次女には一緒にお風呂に入った時に説明をした。長女は「タバコを吸っている人の近くにいたの?」と言った。ちょっと知識はあるようだったがやはり1年生だった。明らかに不安そうな顔をした。
手術して治療をすればちゃんと治ります。入院中は一緒に寝られないけど、兄妹で力を合わせておばあちゃんを助けてねと話した。彼女たちはがんという病気に対してというよりは、「どれぐらい一緒に寝られないのか」をとても心配していた。いつでもテレビ電話できるように、個室にしなきゃいけないな、と思った。


#乳がん #健康 #シングルマザー

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