絓秀実氏との対談(2017年4月17日)・その2

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その1」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 世界に出して恥ずかしくないごく数名の日本の知識人の1人である絓秀実氏との対談シリーズである。
 2017年4月17日におこなわれ、紙版『人民の敵』第32号に掲載された。
 現状に対する正しい愚痴から、新左翼運動史に関する非常にマニアックな話まで、話題は例によって多岐にわたる。
 なお稀に発言する「東野」とは云うまでもなく「ファシスト党〈我々団〉」党員の東野大地である。
 また[ ]内の註は今回のnoteへの転載に際して付け加えたものである。

 以下本文。
 第2部は原稿用紙換算21枚分、うち冒頭7枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその7枚分も含む。

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 殺人事件を起こしたマル青同は熊本に落ち延びた?

外山 紙版『人民の敵』の第30号に熊本商科大学の元ノンセクト活動家(山南純平氏)のインタビューを載せてますけど、熊本商大も革マル派の拠点校だったらしい。

 うん、熊本も革マルが強かった印象はあります。そもそも熊本って、学生運動史的に面白い場所ですよ。ML派(マルクス・レーニン主義派。ブント系の主要党派の1つだったが、70年に解体)も熊本に逃げましたしね。

外山 へー、その話もぼくは知りません。

 熊本大の生協に逃げたという。ML派っていうか、その残党の1つであるマル青同(マルクス主義青年同盟)ですけど、マル青同って、人殺しもやる(75年に、拠点化を目論んで学外から突如として岡山大に登場し、ノンセクトと対立して1人を殺害した)党派じゃないですか。官憲から逃れるように西へ西へと下って、熊本まで落ちのびるわけです。

外山 あ、岡山大の事件の後にですか?

 そうそう。で、オレも詳細は知らないけど、学習院全共闘の友達の中に1人に、どういう経緯でそうなったのか、ML派の解体期の混乱の中でマル青同の幹部にまで昇りつめた奴がいるんだ。学習院時代は仲が良かった奴なんですけど、ML派の党員としての任務が忙しいって云うんで、レポートの代筆を頼まれて、オレは大胆にも〝シュールレアリスム〟についてレポートを書いてしまったっていうね(笑)。
 ML派の解体の中からマル青同が登場してくる過程で、古参活動家がどんどん除名されて、いつのまにかそいつが大幹部になった。オレはそのことをあまりよく把握してなくて、1回だけ『読書新聞』時代のオレを訪ねてきてくれたことがあって、その時は、都知事選の候補者だっていう女性活動家(杵淵美和子)を一緒に連れてきてて……。

外山 マル青同は選挙に一時期よく出てたみたいですね(75年の都知事選など。最高指導者で、岡山大の事件で服役もした穂積亮次は、05年から現在まで愛知県新城市長を務めている)。

 都知事選の後に岡山大の事件があって、最後は熊本大の生協に落ちのびる。マル青同もやがて解体しちゃうし、熊大生協のほうで活動的には安定したみたいだった。5、6年前に癌で死んじゃったけど、晩年は熊本日日新聞だったか、ローカル紙に詩を投稿して新人賞か何か獲ったらしい。一度お焼香に行った時にその詩も見せてもらったけど、なんか叙情的なのを書いてたな(笑)。
 とにかくマル青同の残党が熊本に落ちのびて、聞くところによれば生協運動のかなり強力な一派に成長したらしいよ。

外山 『デルクイ』の第2号(彩流社・13年)に脇元寛之君っていう、ぼくと同い年の、熊本大の〝最後のノンセクト活動家〟へのインタビューを載せたでしょ。彼も熊大生協が主な活動拠点で、全国の大半の大学生協は共産党系なんだけど、九州ではなぜか新左翼系の生協が強くて、とくに熊大がその中心だったと証言してます。

 うん、それのことでしょう。旧マル青同から成長していくわけです。

外山 そういう流れがあったのか……。

 らしい、ですよ。前田さん(前田年昭氏。絓氏・千坂恭二氏も寄稿し、外山も寄稿した雑誌『悍』白順社・08〜10年に4号刊行 の編集長)なんかがよく知ってる。昔の知り合いなんだろうけど、その生協の幹部にキャバレーに連れて行ってもらって、飲めや歌えやで、カネなんかいくら遣ってもいいって感じだったったとか。

外山 ある種の〝労働貴族〟(左翼用語。巨大労働組合や左翼政党の幹部として財界人や保守政治家などと交渉してるうちに癒着し、生活感覚なども上流階級化して堕落していく者たちを揶揄して云う言葉)になっちゃってるんだ……。

 そうそう(笑)。一方でそこの生協のオバチャンたちの団結もすごいらしくて、太田出版の高瀬(幸途。13年まで同社長[2019年4月死去])さんが生協運動に入れ込んで、一時期はそのオバチャンたちを〝革命勢力〟だって期待してた。一朝コトあればオバチャンたちが起ち上がるんだ、って云ってて「ホントかよ!?」と思ったけどさ(笑)。

外山 たしかに太田出版は〝生協運動〟の本をやたらと出してましたよね(47年生まれで、熊本大学全共闘の議長などを経て「生活協同組合連合グリーンコープ」の専務理事などを務める行岡良治の『食べもの運動論』02年、『しなやかな生協への挑戦』04年、『食べもの運動と人類史』06年、行岡と上野千鶴子との共著『論争』03年など)。ブックオフでよく見かけますもん。

 うん、それをやってたのが高瀬さん。


 〝本郷貧乏村〟の零細左翼出版社が次々と……

 ……しかし現代思潮新社の問題は困ったもんだよ。オレの知り合いも、何人も本を出してる。知り合いの若い学者も翻訳本を出してたりするんだ。
 それは鈴木創士っていう、もともと関西で中島らも(04年に死去した超メジャーな作家・エッセイストだが、かつては灘高校全共闘の中心的活動家の1人でもあった)の舎弟だったって人がいて、それが現代思潮新社の編集を請け負ってて、仏文系の本なんかのプロデュースを担当するようになったことが背景にあるんだよ。
 で、オレの若い友人が翻訳した本が出た時に、例のクロカンの妹の署名入りで、「この度こういう本を出しました。1冊献本いたします。御高評を」みたいな、ちょっと居丈高な印象もある手紙が添えられて届いて、不愉快きわまりないんで、現代思潮新社から出した本は2度とオレのところに送ってくるな、って彼に云っといた(笑)。
 鈴木創士だって、社長の渡辺和子がクロカンの妹であることは知ってるはずでしょう。よく平気でいられるよなぁ。

外山 その人は、革マル派がこれまでいかにロクでもないことを繰り返してきた組織であるか、当然よく知ってる世代なんですよね?

 そりゃそうだよ、中島らもと一緒にやってたんだから(中島らもは52年生まれ、鈴木創士は54年生まれ)。

外山 最近の若い論客がそのへんの事情を知らないのは仕方ないにしても……。

 四方田(犬彦。53年生まれ。80年代半ばに浅田彰・中沢新一に次ぐ「ニューアカデミズム〈第三の男〉などといわれた」と浅羽通明『ニセ学生マニュアル』徳間書店・88年にはある。『ハイスクール1968』04年・新潮文庫で自身の高校全共闘体験を回想)だって現代思潮新社から大島渚か何かの本を出してる(映画論などを3冊出している他、「大島渚全集」の編集も担当しているようだ)。
 オレなんかは昔からの用語で〝本郷貧乏村〟って呼んでる、一群の零細出版社があるんだけど……。

外山 呉智英の本(『バカにつける薬』88年・双葉文庫 所収の〝民主社長〟シリーズなど)にも出てきます(笑)。

 〝貧乏村〟って云うぐらいだし、どこもみんなカネがないわけです。そんな中で唯一カネを持ってるのが、現代思潮新社とこぶし書房という革マル系で、どうも〝融資〟してるんじゃないかと……。

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