絓秀実氏との対談(2017年4月17日)・その3

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その2」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 世界に出して恥ずかしくないごく数名の日本の知識人の1人である絓秀実氏との対談シリーズである。
 2017年4月17日におこなわれ、紙版『人民の敵』第32号に掲載された。
 現状に対する正しい愚痴から、新左翼運動史に関する非常にマニアックな話まで、話題は例によって多岐にわたる。
 なお稀に発言する「東野」とは云うまでもなく「ファシスト党〈我々団〉」党員の東野大地である。
 また[ ]内の註は今回のnoteへの転載に際して付け加えたものである。

 以下本文。
 第3部は原稿用紙換算20枚分、うち冒頭7枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその7枚分も含む。

     ※     ※     ※


 共産党もリベラル派もどんどん陛下の御威光に……

 ……関係ないけど、白井聡は最近、『赤旗』に登場してたらしいよ。

外山 共産党もだいぶ〝寛容〟になってきてるからなあ。

 そりゃ天皇制に寛容になってるぐらいだもん(笑)。「赤旗歌壇」っていう『赤旗』の短歌コーナーがあるんだけど、最近(16年)、今野寿美って人がその選者になったんです。召人ですよ、召人

外山 ん?

 歌会始ですよ、皇居の。歌会始の選者をやってる(15年〜)。そういう人を「赤旗歌壇」の選者にしちゃマズいでしょう、共産党としては(笑)。しかもこの[2017年]4月1日から、『赤旗』は元号表記も始めましたからね。

外山 えっ!? 紙面最上段の日付の部分ですか?

 そうそう。

東野 そのニュースは見た覚えがあります。たしか〝読者の要望に応えて〟みたいな話だったと思う。

 そうなんです。「西暦を元号に換算しなきゃいけないのが煩わしい」って読者が増えたらしい(笑)。何を云ってんだか、と……。

外山 それは藤村[修]君も大喜びでしょう(笑)。これまで〝天皇制反対!〟とか云ってた左翼やリベラルも最近どんどん陛下の御威光にひれ伏すようになってきて実に喜ばしい、ってよく云ってますよ。

 実際そうなってますからね。今上帝[明仁さん]の人気ってのは、むしろ今は左派によって支えられてる。

外山 こないだのアレは、一体どういう意図なんでしょうね? あの、〝ブラ陛下〟事件。

 何それ?

外山 ぼくが個人的にそう呼んでるだけですけど(笑)、つい2、3週間前かな([2017年]4月2日)、天皇皇后夫妻が突然、超ラフな私服で皇居から歩いて出てきて、皇居の周りをマラソンしてる人たちがビックリしたっていう(笑)。

 へー、ほんと?

外山 ジーンズにセーターみたいな格好で2人して仲良くニコニコ出てきて……。

 やっぱり〝国民の象徴〟であらせられますから(笑)、そんなふうにどんどん〝身近〟な振る舞いをされるようになるんじゃないですかね。

外山 またしても〝安倍ちゃんが思いもよらぬ戦法〟を繰り出してきたなと感心しました。ちょうど例の『現代暴力論』、〝「あばれる力」を取り戻す〟ってサブタイトルの本の読書会(紙版『人民の敵』第3031号参照[すでにnoteで公開済みの「栗原康『現代暴力論』“検閲”読書会」のこと])を終えての交流会の最中に、その日の朝に起きた〝ブラ陛下〟事件のニュースを誰かがスマホで見つけたもんだから、その場にいた藤村君なんかも含めてみんなで盛り上がっちゃって、もしや陛下も、ちょっとシモジモの間で話題になってる栗原康の本をお読みになって、率先して〝あばれる力〟を取り戻されているのではないか、って(笑)。

 いやいや……しかしいわゆる自立派(吉本隆明主義者)方面では、〝天皇陛下、素晴らしい!〟って度合いがものすごく高まってるのが分かりますよ。
 添田馨っていう、詩壇ではわりと知られた、超がつくほどの吉本主義者のマイナー詩人がいるんですけど、例の〝ビデオ・メッセージ〟が発せられてすぐ、外山君の本(『最低ですかーっ!』04年)も出してる福岡の不知火書房から……。

外山 あ、絓さんがちょっとツイッターで言及してた本(『天皇陛下〈8・8ビデオメッセージ〉の真実』17年1月)ですね。

 〝陛下のお言葉はナントカカントカで、これは世界平和のメッセージだ!〟っていう、もちろん現物は読んでないけど、広告の文面を見ただけでもう、のけぞったよ(笑)。気が狂ったんじゃないかと思った(笑)。……まあたしかに藤村君の望む状況は実現しつつある。左右が接近して陛下にひれ伏すっていう。


 天皇主義者たちの気持ちが分からない

 こないだの紙版『人民の敵』の、菅野完ともう1人、天皇主義者の人と座談会をやってた号(第26号)があったでしょ。

外山 ノイホイさん(菅野氏)と、金子(宗徳)さんですね。

 そうそう。ああいうのを読んでも、やっぱりオレには天皇主義者たちの気持ちがよく分からないんだよね。ああいう〝天皇主義〟じゃ、今のリベラル左派と何も変わらないじゃないかと思うんだが……。

外山 こないだも(絓氏から)夜遅く電話がかかってきて、一体何の用件だろうと思ったら、「そのへんはどうなってるんだ?」みたいなことをなぜか唐突に訊かれましたけど(笑)、その時にも云ったように、例えば〝キリスト教民主主義〟なんてものも世の中にはあるじゃないですか。キリスト教の名のもとに歴史上どんなロクでもないことが繰り返されてきたか、挙げつらい始めたらキリがありませんけど、とりあえず現時点で、キリスト教の信仰に基づいて結論としてはマトモなことを云ってるんだったら、それでよしとするしかありませんよ。
 同じように天皇制が歴史上、ロクでもない役割を果たしてしまった時期はたしかにありますけど、〝天皇主義〟に基づいて現時点でリベラルなことを云ってるんであれば、〝過去の話〟をあれこれ持ち出して批判しても仕方ないんじゃないか、と。信仰の問題ですから、そもそも説得なんかできませんしね。それにキリスト教が過去にやらかした悪事の数々に比べたら、天皇制のそれなんか比較にもなりませんよ。

 オレが天皇制に反対だというのは、第一は、ごく単純な話で、〝国民主権〟で誰もがみな〝平等〟だっていう原理原則になってるはずなのに、そうじゃない者が存在するというのはおかしいだろうっていう、それだけのことです。イエス・キリストは神の子で、しかも人間に殺されるんだから、天皇とは違う。

外山 じゃあ憲法なんかで位置づけずに、京都なり伊勢神宮なりにお戻りいただいて、国家制度的な保障は何もない形で〝天皇〟って存在が続いていくんならそれでいい、と?

 もちろんフランス革命が理想ではあるけど、考え方としては、そういう〝民営化〟でもいいと思います。そもそも天皇制を廃止する以外に、天皇を〝人間化〟する方法はありませんよ。それこそもうご高齢なんだし、天皇という〝激務〟に耐えられないというのは、実際そのとおりなんでしょう。もっと人間らしい扱いが必要だし、そのためには天皇制をやめるしかないんです。

外山 そこらへんはぼくも、今でも天皇制に反対する理由が唯一あるとすれば、皇族の方々があまりにも可哀想だ、ってことだけなんですけどね。

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