『ブードゥーラウンジ』への道(〝福岡音楽シーンの重鎮〟ボギー氏インタビュー 2020.02.07)その6

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 「その5」から続いて、これで完結〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 〝福岡音楽シーンの重鎮〟ボギー氏へのロング・インタビューである。2020年2月7日におこなわれた。
 ボギー氏の長年の活動の成果として、福岡の音楽シーンの現在がどれだけトンデモないことになっているのかについては、2020年1月に刊行されたばかりの鹿子裕文氏のレポート『ブードゥーラウンジ』(ナナロク社)に活写されている。同書はどちらかと云えば、〝現在〟に焦点を当て、それと直接関係する範囲で〝過去〟のボギー氏の活動史にも多くの言及がある。当インタビューでは、〝現在〟については『ブードゥーラウンジ』を読めば分かるのだから、そこに書かれた以前の諸々、つまりボギー氏が音楽に目覚め、路上デビューし、またステージにも立ち、90年代初頭の福岡のオルタナ系ロックのシーンの中から、ボギー氏が単に演じ手としてのみならず、さまざまなイベントの仕掛人として登場してくる過程に焦点を当てた。
 鹿子氏の本と併せて読むことをオススメする。
 
 第6部は原稿用紙21枚分、うち冒頭9枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその9枚分も含む。

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 福岡のシーンごと盛り上げる

ボギー 自分のバンドだけじゃなくて、福岡のシーンごと盛り上げようと思ってましたから……。

外山 そこらへんが偉大だよ。5年ほど前に知り合ったきっかけのイベント(「ローカル・シンポジウム」。九州各地のミュージシャンの交流を主目的としたイベントで、終演後の打ち上げに参加することを出演の条件としていた。外山が見ず知らずのミュージシャンを人づてに紹介され、面識はなかったが存在だけは知っていたボギー氏を紹介したのだが、その自称パンクロッカーがボギー氏との約束を破って打ち上げ開始前に黙って姿をくらましたことにそれぞれ激怒した、2013年6月の通称「ネット・パンク」事件が、外山とボギー氏の意気投合のきっかけ)もそうだったけど、ボギーさんの活動って、まさに〝福岡のシーンごと〟どうにかしたいって発想で貫かれてるのがよく分かる。

ボギー それも当時の全国的な風潮でもあったんです。音楽シーンのムーブメントが、特定の地域を基盤として起きるということが目立ってた。京都から〝くるり〟が出てきたあとにも、京都のシーンが丸ごとが注目されたし、それより前だったか後だったか、北海道からブラッドサースティ・ブッチャーズとかイースタン・ユースとかが出てきて、札幌シーンが注目された時期もありました。さらに後になると〝関西ゼロ世代〟と云われて、オシリペンペンズとか〝あふりらんぽ〟とかミドリとかの〝関西アンダーグラウンド〟がポーンと出てきたりもしたんです。

外山 ヒップホップのシーンとも連動してるのかな? ヒップホップは〝地域性〟を打ち出す人たちが次々と出てくるでしょ。

ボギー それもそうなんですけど、オレの当時の感覚としては、ヨコチンレーベルで京都のシーンとも大阪のシーンともすでにつながってたし、京都が注目された、大阪が来た、〝次は福岡やろ!〟って気がしてたんですよ。役者は揃ってた、つまり面白いバンドは当時の福岡にはたくさんいましたからね。
 それは全国的に見てもそう云えたと思う。ただ知られてないだけで、東京のメディアが福岡の面白いバンドの存在に気づいてくれれば、次は福岡ブームが来るはずだ、と。その先頭で旗を振ってれば、自分のバンドだけじゃなくて、福岡のシーンが丸ごと出ていけるんじゃないかと思って、ノントロッポとフォーク・イナフとガロリンズの3バンドを中心にやろうとしたわけです。
 だから結局は自分のためにやってることでもあるんですよ。〝福岡を盛り上げたい〟とかではなくて、まずは自分が売れたいんだけど、そのためには自分のバンドだけが頑張るよりも福岡のシーン全体を底上げしたほうが早道だという、かなりしたたかな戦略としてやり始めたことなんです、最初は。だけど途中からその意味が変わってくるんですね。

外山 うん、利己的な動機だけで10年はやれないでしょう。

ボギー 30でモンドが生まれたし、その頃には野外フェスとして福岡でもだんだん定着してきてたし、もう自分の野心だけではとても動けなくなる。自分が関わってきたシーンに対する〝情〟みたいなものも生まれてくるし、結局〝やりたくてやってる〟というところに着地するんです。〝何々のため〟というわけではなくなっていく。10年やり続けて初期衝動に戻ったような感じですよ(笑)。

外山 〝下心〟とか〝野心〟とかで始めたことが、結局は楽しくなってきちゃう、と。

ボギー そんなふうに1周回ったところで、3人で話し合って、総決起集会は10年目で終わりにしたんです。オレらもすでに30代半ばになってて、そんなオッチャン、オバチャンがいつまでも旗を振って〝福岡のシーンを盛り上げようぜ!〟とか云っててもしょうがないだろう、と。これから盛り上げていくのは20代前半とかの若い連中で、そいつらが旗を振らないんだったら意味がない。オレら自身が楽しいからといって延々とコレをやり続けたって……。
 それにその頃になると、〝総決起集会に出たい!〟っていう若い連中も増えてきてたんですよ。オレみたいなオッサン世代がやってることに若い連中が乗っかろうとしてくるような状況はつまんないでしょ。〝老害〟になりたくない、と。自ら身を退いて、〝やめよう〟ってことになった。

外山 じゃあ騒音苦情でやめたとかいうわけではなかったんだね。

ボギー うん、やるんなら次の世代が引き継いで何かを始めればいいっていう。やめ方も、やめるタイミングも良かったと思いますよ。


 〝めんたいロック〟との継承関係は?

外山 ……そうそう、話はズレるけど、あれも前々から疑問だったんです。福岡にはもともと〝めんたいロック〟とかのシーン(80年前後。代表的なバンドとしてザ・ロッカーズ、ルースターズ、THE MODS、サンハウスなど)があるでしょ? そういう流れには関係してないの?

ボギー それがまったく重なってないんです。イカ天とかが流行ってた頃の福岡は、やっぱりBe-1の〝1強〟時代だし、まだまだ一般的にはビートロック、ビートパンクが主流でしたからね。そっちは〝福岡と云えばめんたいロック〟っていうシーンに近いんですけど、そういう時期に一方でオルタナ的な動きが始まる。つまり福岡の〝めんたい〟的な潮流の真逆で、むしろそういうものに反発する新世代として、オルタナのブームは始まったと思うんですよ。その新しい動きを象徴するのが、パニックスマイルとかのチェルシーQだった。

外山 なるほど、ボギーさん以前にすでに〝非めんたい系〟のシーンが福岡にも登場してて、ボギーさんはそっちに連なっていくわけだ?

ボギー そうですね。だから〝上下関係〟が云々とか、そういうのではない……。

外山 たしかにそんなイメージだよね、〝めんたいロック〟系って(笑)。

ボギー だからオレはずっと〝めんたい〟系を避けてたんですけど、嫌いというより単に聴いてないだけで、個別にはシナロケ(シーナ&ザ・ロケッツ。前出のサンハウスのギタリスト・鮎川誠が妻のシーナと結成した、〝めんたいロック〟の代表的なバンドの1つ)は好きだったりしましたし、単にそれ以外のものを先入観で毛嫌いしてたということだと思います。聴いてたのはシナロケの他にはアンジーぐらいですから。

外山 アンジーも〝めんたいロック〟枠なの?

ボギー 系譜的にはそうだと思います。……とはいえ、福岡でずーっと活動していれば、無縁でいられるわけでもないんですよ。

外山 そりゃそうだ。絶対どこかで接点ができちゃうよね。

ボギー 打ち上げの店が重なったりして、飲み屋で紹介されたりとかするんです。最初はやっぱりオレも身構えて、メンドくさい先輩に上下関係みたいなものを押しつけられたらイヤだなあと思いつつ(笑)、ガードを固くしてるんですけど、話してみると意外にみなさん、優しくて……。先輩ヅラを吹かすわけでもないし、ジェントルメンなんですよ。
 そもそも〝めんたいロック〟という言葉も当人たちがそう云われたくて広めたわけでもないし……。

外山 東京からそう括られただけなんでしょ?(80年に、陣内孝則らの「ザ・ロッカーズ」を売り出すに際して、プロデューサの上野義美によって付けられたキャッチコピーであるらしい)

ボギー 周りに云われただけですよ。で、たぶんそういう、いわゆる〝めんたいロック〟のバンドの信者たちが勝手に彼らを祭り上げて、〝上下関係〟とかに厳しそうな雰囲気を作っちゃってるだけで、バンドをやってる当人たちは全然そんなの気にしてないんじゃないかなあ、と。取り巻きがああいうイメージを定着させてる気がする。
 当人たちは、たしかに礼儀には一定厳しい感じはあるけど、めちゃくちゃ優しい人たちだし、こっちが想像してたのと全然違いました。だからオレ個人は、そういう偏見もなくなりましたし、街で会えばにこやかに挨拶してくれますし、こっちからもしますし……。

外山 じゃあシーンとして距離があるだけで……。

ボギー というより、世代ですね。年代がまったくカブってないんです。

外山 たしかにだいぶ上だもんなあ。

ボギー 〝めんたいロック〟的なものが福岡のシーンで盛り上がってた頃(80年前後)は、オレなんか音楽をまだ始めてないどころか、そもそも子供ですもん。そのシーンがすごかった時代のことをオレなんかの世代はまったく知らないんですよ。


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