【無料記事】2007〜2011、日本で起きた知られざるスクウォット(建物占拠)闘争(もくじ)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 ※当記事はもともと有料記事でしたが、スポンサーがついたので無料公開に切り替えます。「多くの人に読ませたい良い記事なので、私が丸ごと高額で買い上げるから、無料公開としてほしい」という奇特な方が現れたわけです。すでに有料で買ったという方には心苦しいんですが……。

 2015年12月30日におこなわれた熊本市の結婚式場経営者・有川理(ありかわ・おさむ)氏へのインタビューである。紙版『人民の敵』第16号に掲載された。

 フランスの学者をまねてフランスの獄を論じる日本の学者

 私が02年〜04年の獄中生活中に詠んだ108首の短歌のうちの1首である。短歌としての出来はまあ、108首中でもあまり良くないほうで、単に“云いたいことを五七五七七に収めてみました”というものでしかないが、含意は、要するに日本のアカデミシャンの“単なる輸入業者”ぶりへの批判である。欧米のススんだポストモダン思想を頑張って背伸びして論じている日本の人文系学者は、当然、斯界の最重要著作の1つであるミシェル・フーコーの『監獄の誕生』についても繰り返し云々している。パノプティコン構造がどうこう、フーコーが論じたヨーロッパの監獄制度の歴史を見よう見まねであれこれ論じてみるわけだ。しかし“本家”のフーコーは同時に囚人待遇改善要求運動の現場活動家でもあるわけで、そんなにフーコー先生をリスペクトしてるんだったら、日本のフーコー学者は日本の監獄制度における第三世界以下の劣悪な人権状況を何とかする運動に身を捧げるべきだし、そもそもフーコー先生を真似てヨーロッパの監獄制度を云々するのはホドホドにして、何よりも日本の監獄制度を批判的に徹底研究すべきはずである。が、そんな学者はほとんど(まったく?)いない。私が常々、日本の大学(とくに人文系)はすべてFランであり、少なくとも文系学部は全部廃止しろと主張している所以の1つでもある。
 それとまったく同じで、日本の左派アカデミシャンは「スクウォット運動」が大好きである。70年代後半から80年代にかけて、とくにイタリアや西ドイツで高揚したアナキズム的な「アウトノミア」運動で見られた戦術の1つで、さまざまな事情で空き家になっている建物を若者たちが勝手に占拠して、住み着いたり、クラブやライブハウスにしたり、海賊ラジオの放送局にしたり、まあ要は運動拠点にしてしまうというものである。そういう流れの中から登場した思想家の1人がアントニオ・ネグリで、この人も80年代以降、ポストモダン思想の“とってもエラい人”の1人ということになるので、日本のFラン人文系学者どもも、こぞってアウトノミアだスクウォットだとワーワー云い出す。しかしFランなので、足元の日本国内で起きている似たような闘争の存在には気づきもしない。

 私がインタビューした有川氏は熊本の企業経営者である。67年生まれで、私の3つ上ということになる。私は90年代半ばに知り合い、実は有形無形のさまざまな支援をしてもらってもきた。インタビュー中でも明らかにされているが、東大在学中に一瞬(1年間ほど)中核派の活動に参加したこともあるそうだ。ちょうど私と知り合った前後から、熊本で有川氏が経営するレストランは成り行きでインディーズ系?の結婚式場に路線変更していく。
 06年、当時の熊本県宇城市長が、有川氏の経営手腕を見込んで、どうにも使い途がなくて困り果てている、バブル期につい県が地元に建ててしまった前衛建築「海のピラミッド」をどうにか活用してくれと泣きついてくる。有川氏は話に乗り、熊本駅から電車で1時間のまさに僻地にあるそのヘンテコ物件を、“西日本最大級のクラブ”としてリニューアルし、驚いたことに毎週末には大繁盛、時に数百人の若者たちがつめかける謎の新名所へと、あっというまに変貌させてしまう。
 大成功、のはずである。
 が、やがて有川氏の試みを後援していた市長が失脚、新しい市長は、前の市長がやったことをことごとく忌み嫌い、“西日本最大級のクラブ”も当然、目の敵にされ始める。以後、なぜか(屋内に)ゲバラやマルコムXやレーニンの肖像が飾られ、「想像力が権力を奪う」などのスローガンが大書されていたりする「海のピラミッド」は、2012年11月の強制代執行(!)による退去に至るまで、事実上の“スクウォット”状態となる。
 本インタビューは、この奇人・有川氏のそもそもの生育歴から、本題の“「海のピラミッド」スクウォット闘争”の一部始終まで、根掘り葉掘り、徹底的に訊いてみたものである。

 その1(原稿用紙換算18枚)
 チェ・ゲバラの生まれ変わり
 核戦争で世界が終わる!
 公害と労働争議の街に育つ
 先生が乗った飛行機をソ連が撃墜
 ラ・サール高校の単調な日々

 その2(原稿用紙換算18枚)
 ラ・サールの九州での特殊な存在性格
 1浪を経て東大、そして中核派へ
 最盛期のちょっと後の時期の中核派生活
 実は戦旗・荒派にも体験入隊
 政府を倒せるなら思想は右でも左でもいい

 その3(原稿用紙換算17枚)
 インディーズ結婚式に宇城市長が大感激
 宇城市ジャマイカ化計画?
 トンデモ前衛建築をバブル期につい次々と……
 一応“フェリー発着場”だったのに航路廃止!
 して“ジャマイカ化計画”とは……?
 “正しさ”や“社会正義”だけで世の中は変えられない

 その4(原稿用紙換算17枚)
 いよいよ“海のピラミッド”再建に着手
 一家心中事件で市長失脚!
 「カネは出せないけど何かやってくれ」でクラブ開業
 “話が違うじゃないか”ってことばっかり

 その5(原稿用紙換算19枚)
 クラブ“海のピラミッド”は大繁盛
 県の建物にケバラだのマルコムXだのレーニンだの
 最終的に負けた原因は結局“3・11”
 世界遺産登録の障害物?
 強制代執行!
 “スクウォット”闘争は丸5年間に及んだ

海のピラミッド

 海のピラミッド
 (「天草旅ポータルサイトTRAVEL GUIDE AMAKUSA」より)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?