2007〜2011、日本で起きた知られざるスクウォット(建物占拠)闘争(その3)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その2」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 ※当記事はもともと有料記事でしたが、スポンサーがついたので無料公開に切り替えます。「多くの人に読ませたい良い記事なので、私が丸ごと高額で買い上げるから、無料公開としてほしい」という奇特な方が現れたわけです。すでに有料で買ったという方には心苦しいんですが……。

 インタビューは2015年12月30日におこなわれ、紙版『人民の敵』第16号に掲載された。

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 インディーズ結婚式に宇城市長が大感激

外山 ……でまあ、95年以降、ココの業態は“結婚式場”に特化していき、その延長でやがて今日の本題の“ピラミッド”の話につながっていくわけですよね。

有川 結婚式でたまたま、新郎の父の友人として宇城市(熊本県中西部。地図参照。05年に宇土郡三角町、不知火町、益城郡松橋町、小川町、豊野町が合併して発足。人口約6万人)の市長が来た

外山 すでに「宇城市」になってたんですか?

有川 うん。合併して、初代の市長。あれは06年10月ぐらいの結婚式だった。

外山 そもそもココの結婚式というのが、もともと平安閣だの何だの、大手のチェーン店系しかなかった熊本のブライダル業界を激変させちゃったんでしょう?

有川 従来のビジネス・モデルを破壊しちゃった。

外山 価格破壊も起こして……。

有川 うん。

外山 で、従来の式場ではなかなかやれない、お客様1組1組のニーズに合わせた……(笑)。

有川 そうだね。熊本のブライダル業界を、ある意味、破壊してしまったんで、相当恨まれてると思う。それで目の前(バイパスを挟んだほぼ斜め向かい)に、これ見よがしに新しい結婚式場を建てられたりしてるし(笑)。

外山 あれは従来の“大手チェーン”系の式場なんですか?

有川 ウチが一番打撃を与えたのは、たぶん貸衣装業界なんだ。ウチはタダで貸すからさ。貸衣装屋って、レンタル価格より安い値段でどこかから買ってきた衣装を高い値段で客に貸すっていう商売で、それは会社組織を維持していくためには仕方のないことなんだろうけど、客にとっては何らメリットのない、悪いシステムだよ。そこをウチが潰したもんだから、貸衣装屋が「孫子の代まで呪ってやる」ってウチを恨んでて、わざとウチの至近に自分たちの式場をオープンした(笑)。

外山 有川さんのとこは、自前で衣装をたくさん揃えてて、ココで結婚式をやるってカップルには無料で貸してるんですね。

有川 そうそう。結婚式1回、全部込みでいくら、というシステム。招待客からの1人2万円ぐらいずつの御祝儀で全部まかなえて、新郎新婦側が手出しで負担することなんかなくて済むぐらいの価格設定。たぶんココを始めた当時は、そんな式場は熊本には他になかったと思うけど、もはやそれが普通になってる。

外山 それは恨まれますね(笑)。

有川 貸衣装屋は壊滅(笑)。

外山 しかも、決まりきったフォーマットではなく、打ち合わせの過程で、1組1組のカップルの馴れ初めから、それ以前の双方の生育環境やら、家族関係やら、徹底的に聞き出して、当日の演出プランを練ってますもんね。大手の式場はそんな細かい対応、できないでしょう。で、結婚式を見た市長がまんまと感動してしまう、と(笑)。

有川 要は“イリュージョン”なんだよね。“言葉”はタダというか、コストがかからないわけだし、それぞれの新郎新婦の物語を聞き出して、それを言葉にして、あとはそれをさらに演出する“音楽”と“光”と“映像”と……。結婚式なんて、実際にやってることは単にコスプレした宴会なんだからさ(笑)。それをいろんな手法を駆使して“イリュージョン”に仕立て上げる。その“イリュージョン”を見ちゃったわけだ、市長は(笑)。

外山 で、しかし市長はその時、地元に大きな“問題”を抱えていた……(笑)。

有川 そうそう(笑)。


 宇城市ジャマイカ化計画?

有川 その結婚式が終わって、何日も経たないうちに公用車でやってきた。相談を受けたんだけど、最初は断ったんだ。でもあんまり熱心に口説いてくるから、「じゃあ1度、そちらに出向きましょう」ってことで、外山君も誘って一緒に行ったんだよ。

外山 あ、ぼくも一緒でしたっけ?

有川 うん。市長室に行ったじゃん。あの時が最初。で、市長を相手にプレゼンして、いきなり“ゲバラ”とか出してさ(笑)。(資料を探して)これがあの時に一晩で作った「ジャマイカ化計画」っていうプレゼン資料。

外山 そんなタイトルで市長にプレゼンしたんだ(笑)。……あ、ほんとだ、ゲバラも載ってる(笑)。

有川 “日本印度化計画”(筋肉少女帯の有名な曲のタイトル。オウム真理教もこの曲名を流用して「日本印度化計画社」なるダミー・サークルを各大学に立ち上げたりしていた)みたいなノリでね。テーマは“ジャマイカ”と“イビサ”だった。

外山 そもそも市長からの依頼はどういうものだったんですか?

有川 とにかく“何とかしてくれ!”ってことですよ、“ピラミッド”とか、それを含めてあの地域一帯を。

外山 “あの素晴らしい結婚式を実現する経営者なら、おらが町を再生してくれるに違いない”みたいな?(笑)

有川 最初は、やっぱり結婚式をやってほしかったらしいんだ。

外山 “ピラミッド”で?

有川 うん。だけどそんなのムリに決まってるじゃん、って話でさ。あんな不便な田舎に結婚式場をただ作ったって、うまく行くわけがない。砂漠の真ん中に結婚式場を作ろう、っていうのと同じなんだ。だけどまずラスベガスを作れば、そこに結婚式場をオープンすることだって考えられる。ディズニーランドだってそうだよ。あんなフロリダの、ワニとか出るようなところで誰も結婚式を挙げようなんて思わないけど(笑)、まずディズニーランドを作ればそういう人も出てくる。要はそういうことをプレゼンしたんだ。


 トンデモ前衛建築をバブル期につい次々と……

外山 あの市長は、そもそも“ピラミッド”を建設する過程に関係してたんですかね?

有川 そうだと思うよ。

外山 “ピラミッド”があるのは、合併前は三角町だったところでしょ。市長になる前は三角町の町会議員だか何だかだったんですか?

有川 いや、出身は三角ではあるけど……。三角は歴史的にいろいろあるらしいんだ。目と鼻の先の天草で、天草四郎の反乱があったでしょ(島原の乱。1637〜38年)。反乱を鎮圧した後、天草方面を監視するための出先機関が三角の辺りに置かれて、だから細川家とか、幕府中央ともつながってるような人たちが、その頃からずっといるわけだ。そういう人たちと、明治以後にあの辺に移り住んだ人たちとの間に微妙な対立があるらしい。明治になって(明治20年=1887年)三角西港が開設されて、近代化遺産の1つにもなってるように(15年、福岡県の八幡製鉄所や長崎県の“軍艦島”、山口県の松下村塾などと共に「明治日本の産業革命遺産」を構成する8エリア23ヶ所の1つとして世界遺産登録された)、重要な港湾として栄えたから、その頃から住むようになった人も多いんだね。京都で、応仁の乱以前から住んでる人と、以後に住み始めた人とで対立があるというのと似たような話かな(笑)。で、市長はあの辺の神主の家系らしいから、たぶん明治以前からいる人たちの側なんだろうね。市長になる前は参議院議員だったんだ。それも、細川(護煕・元首相)さんから引っぱられて出た。

外山 何て人でしたっけ?

有川 阿曽田(清)さん。新進党だか、日本新党だかで参院議員になってる(95年に新進党公認で当選。00年、任期中に辞職して熊本県知事選に出るが落選、05年に宇城市長に当選した)。

外山 細川の非自民政権が93年ですね。“ピラミッド”建設にはやっぱり……。

有川 絡んでると思うよ。完成したのは90年とかだし、計画はその前からだろうけど、少なくとも参院議員になる以前から地元の有力者の1人ではあるんだし(参院議員の前には県会議員を務めていたようだ)。

外山 要はバブル期に計画して……。

有川 完成するかしないかのところでバブルがはじけた(笑)。そもそも、それこそ細川が熊本県知事だった時代(83〜91年)に打ち出した“くまもとアートポリス”とかって政策(88年〜)の一環として計画されたんだよ。

外山 なんか、熊本じゅうに前衛建築をどんどん建てまくるという……(笑)。

有川 使いにくい建物をね(笑)。

外山 たしかあのヘンテコな熊本北警察署の建物もそれなんでしょ?

有川 重力の法則に逆らう建築なんだもん(笑)。あんな頭でっかちの建物を支えるんだから、建設費はすごいものだったでしょう。

外山 山奥にもヘンな橋がありますよね。深い谷に橋がかかってるんだけど、渡った先にはただ山肌があるだけっていう、単なるオブジェみたいな橋(笑)。

有川 あるある(笑)。ヘンなダムもあるし、あと、すげぇ住みにくそうなアパートもあるよ(笑)。熊本の結構あちこちにある。


 一応“フェリー発着場”だったのに航路廃止!

外山 で、問題の通称“海のピラミッド”(「三角港フェリーターミナルビル」)というのは、フェリー・ターミナルとして建てられたというか、元々あったフェリー・ターミナルを壊して、同じ場所に新築したわけですよね。

有川 だけど単にフェリーの乗船手続きをしたり、待合室として使うにはデカすぎるでしょ? 最初から、イベント施設としても使えるように、ってことだったと思う。

外山 どういうイベントを想定してたんでしょうか?

有川 それは、人が集まっていろんなことができるようにっていう……。

外山 具体的には?

有川 漠然としたイメージだけで、具体的なことはとくに考えてなかったんじゃないかな(笑)。

外山 とりあえず人目を惹くヘンな建物を作ろうっていう?

有川 いや、バブルがもっと続いてたら、さらに予算を投入して、それなりに面白いことを次々とやって、有意義な使い方もできてたのかもしれないよ。なのにせっかく完成したところでバブルが終わっちゃったし、自民党政権も崩壊して、政界再編で政策も安定しなくなったし……。

外山 無用の長物と化してしまう、と。

有川 “失われた20余年”と共に……。

外山 しかも……(資料を見て)あ、意外と最近までフェリーは出てたんですね。05年にフェリー航路廃止、ってなってる。これは島原(有明海を挟んだ長崎県)と結んでたんですね。

有川 その後も06年8月までは、中に売店があったんです。

外山 だけどフェリーがなくなったら、そこで店をやってる意味ないですもんね。それで店も撤退、と。

有川 06年の秋に完全に空き家になって、どうしたもんか、って頭を抱え始めてたところだったわけだ。

外山 で、市長が“イリュージョン”を見てしまう(笑)。“海のピラミッド”って、テレビの全国放送のバラエティでも叩かれたんじゃなかったっけ? バブル期の“負の遺産”呼ばわりされて……。

有川 典型的な“税金の無駄遣い”(建設費3億5千万円)の例としてね(笑)。

外山 まあ、そう云われても仕方がないよなあ。

有川 地元でも“うんこタワー”とか呼ばれてたし(笑)。

外山 “三角”って地名ともカケて、“巻き貝”をイメージして云々と公的にはアナウンスされてるけど……やっぱりマンガに出てくる“巻きグソ”ですよね(笑)。ただの円錐ならともかく、スロープがグルッと周囲に巻きついて、ますます、ねえ……。


 して“ジャマイカ計画”とは……?

外山 “ジャマイカ計画”っていうのは、さらに具体的に云うとどういう内容だったんですか? ぼくもその場にいたらしいけど、あんまりよく覚えてなくて(笑)。

有川 いやまあ、楽しいところにしましょう、っていう……。

外山 つまり単に“ピラミッド”だけではなくて、あのエリア全体を総合的に改造しちゃいましょう、ってことかな?

有川 うん。“観光立国”を目指しましょう、的な。

外山 ハウステンボスみたいにしてしまえ、と?

有川 ああいう単に巨大なハコモノではなくて、主に“規制を解除する”という方向で。

外山 “ナントカ特区”みたいなことが盛んに云われてた時期ですもんね。

有川 いろいろ提案したけど、まあ、とりあえず派手にイルミネーションで飾って、カジノを作りましょう、とか。ハコモノをわざわざ作らなくても、ほとんど使われてない建物とか、廃校になった小学校とか、行ってみるといろいろ面白い場所があったんだよ。そういうものをそのまま利用して、飾り立てて、あとはソフトウェアを注入すればいいんだっていう。

外山 たしかにいろいろあったような気がする。

有川 廃校なんかも、今で云う“民泊”の施設にしちゃえばいいんだ。ユースホステルみたいにして、若者をいっぱい集めてさ。人数さえ集めちゃえば、ムーブメントは自然に起きるんだから。空いてる建物はいっぱいあるんだし、どんどん開放して、若者たちに勝手に商売とか始めさせちゃえばいい。そういうことができる可能性があると思ったのは、天草に年間百万人の観光客が渡ってると云うんだよ。年間百万人が三角をただ素通りしてるんだ(風光明媚な観光地である天草諸島へと渡る橋が、三角半島の突端、三角の中心地区の至近から架かっている)。ゼロから人をかき集めるのは難しいけど、そこで立ち止まらないだけで、百万人がもともとその場所を通ってるんだったら、何か面白いことをやって、そのうちのごく一部にでも足を止めさせるのは簡単なんだよね。

外山 逆に何もなければ三角で足を止める理由がないですもん。目的地は天草なんだから、仮に橋のところで小休止するとしても、橋のこっち側ではなくあっち側で小休止しますよ(笑)。

有川 唯一、へたに西港(“ピラミッド”がある東港とは別の、先述の“世界遺産”の港)にトイレがたくさんあるもんだから、あそこで休憩して、お金は落とさないくせに、オシッコとウンコだけ落としていく(笑)。

外山 踏んだり蹴ったりだ(笑)。

有川 だけど単にトイレ休憩のつもりで寄っただけだとしても、車からは降りるんだから、そこで何かヘンなことをやってれば、興味を惹かれるでしょう。珍しいものを売ってればお金を落とす人もいるし、西港でやることと東港でやることを連動させれば、天草に渡る橋へ曲がる角のさらに向こう側にある東港にも、少しは人が来るようになる。だけどそういうことを何もやってないわけで、だったら何かやりましょうよ、っていう話ですよ。


 “正しさ”や“社会正義”だけで世の中は変えられない

外山 (資料を見て)コレはまたさらに後に提案したものですか? 三角の海に怪しい戦艦大和が浮かんでるけど……(笑)。

有川 同じ06年の年末ぐらいにプレゼンした時のものだね。外山君と一緒に最初に行った2ヶ月後ぐらいか。

外山 “大和”はどこから出てきたんですか?(笑)

有川 『男たちの大和』(角川映画。原作・辺見じゅん。ちなみに主題歌は長渕剛)はいつだっけ?

外山 あ、いつだろう? この頃だったかな?(05年12月公開)

有川 たぶんそうなんだと思う。

外山 たしか呉(広島県)に「大和ミュージアム」っていうのができて云々って話を、当時の有川さんがよく引き合いに出してた気がする。

有川 うん。ミニチュアの展示であれだけ客を呼べるんだよ(05年4月にオープンした呉市の「大和ミュージアム」には10分の1スケールの模型が展示されて呼びものとなっており、オープンから約2年で累計3百万人、4年で同5百万人の来場者があったという)。だったら“1分の1”を作りましょうよ、って(笑)。

外山 それを三角港の沖に浮かべるんだ(笑)。市長が“大和”好きだったんでしたっけ?

有川 いや、関係ない。私もとくに好きなわけでもない(笑)。単にコンテンツとして……。

外山 基本的には保守系の市長だろうし、まず市長がチラッとでも話題に出したのかと思ってました。

有川 市長は『ワン・ピース』(アニメ)を誘致したいって云ってたんだよ。原作者(尾田栄一郎)が熊本出身らしいんだ。集英社と交渉しよう、とか云ってた。それで、そういう発想をしてちゃダメだ、って私が云って……。

外山 今どんなに流行ってたとしても、一過性のものですもんね。

有川 しかも著作権料がバカにならんでしょ。大和なんか、著作権フリーだもん、日本海軍は消滅してるんだし(笑)。コンテンツとしても百年は保つ。沈没から百年保つとして、あと30年はいける。実際はもっと保つでしょう。

外山 地域通貨の話もしてましたよね?

有川 うん。

外山 それも、よくある左派系の“反貧困”とか“反資本主義”みたいな文脈ではなく……。

有川 彼らは真面目すぎるんだ。地域通貨みたいなものを作るとして、それを本当に流通させるためには、人間の欲望に火をつけなきゃいけない。例えば射幸心を煽る、とか。

外山 カジノ構想と連動させよう、って話だったように記憶してる。地域通貨だけを使うカジノを作って、それがカジノ以外でも、地元でいろんな商品やサービスと交換できるようにする、みたいな。

有川 ベータより劣るVHSを普及させるために、エロビデオとセットで売りまくったような話だ(笑)。“正しさ”とか“社会正義”だけでいくら推しても、誰も地域通貨なんか使わないよ。

 「その4」へ続く〉


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