九州ファシスト党〈我々団〉座談会「現代美術シーンという“原子力ムラ”」(その2)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その1」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 「九州ファシスト党〈我々団〉」の党員3名(外山、山本桜子、東野大地)による座談会である。2014年11月18日におこなわれ、紙版『人民の敵』第3号に掲載された。
 山本と東野は党内の「芸術部門」を称して、その機関誌『メインストリーム』の発行を2011年9月に開始した。彼らがとりあえず攻撃対象として設定したのが、「地域アート」などと総称される、行政などからの助成金に依存し、市街地活性化など“街おこし”“地域おこし”に貢献することを謳う全国各地の大小の芸術(とくに“現代美術”)イベントであり、その旗振り役とされる東京芸大教授・中村政人氏である。

 第2部は原稿用紙換算28枚分、うち冒頭12枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその12枚分も含む。

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 “街おこしアート”の首領?、中村政人氏

桜子 我々が2年ほど前に「トランス・アーツ・トーキョー」っていう東京版のちょっと規模でかめの“地域アート”プロジェクトに茶々を入れた時に、補助金と芸大とアーティストたちの関わりについて調べて、それを図にしたのがアレなんだけど……(と指差す)。

相関図

外山 あ、ずっとココの壁にかかってる怪しげな“相関図”みたいなやつ(笑)。

桜子 まず芸大の教授がいまして……。

外山 右上にでっかく書いてある中村政人って人が、この問題を象徴する人物なの?(笑) そもそもどういう人?

桜子 東京芸大の先生。村上隆とかと同年代。

外山 実際に村上隆とも近い関係なの?

東野 若い頃は一緒にやってて、そのうちケンカ別れしたらしいんですけど、中村政人が4、5年前に「3331」(アーツ千代田3331)っていうスペースを作って……。

桜子 それも補助金で。

外山 ツッコむねえ(笑)。

東野 そのスペースを利用したい、されたいってことだったのか分からないけど、その時期に和解したみたいです。

桜子 人を取り込むのが巧いんだと思うんですよ。

外山 あのー、芸術家の方はそうやってすぐキャンバスを傾けたり横にしたりしたがりますけど、見にくいのでちゃんと縦にしてもらえます?(笑)

相関図02

桜子 (“相関図”を縦置きして)とにかくこの中村政人という方が、芸大で自ら量産してしまった“迷える子羊たち”をどのようにして路頭に迷わせないようにするかってことで、いろんなプロジェクトを各地に立ち上げていくんです。

外山 全国展開してるんだ。

桜子 うん。沖縄に立ち上げ、秋田に立ち上げ、富山に立ち上げ、いろんなとこに。

外山 それは何て書いてあるの? 「コマンドN」

桜子 そう。そういう名前の法人を立ち上げて、そこの代表になってる。

外山 で、その団体の主導で全国各地に“地域アート”みたいな美術プロジェクトを拡げてるの?

東野 “全国各地”ってほどでもないけど、まあ、東京と、地方何ヶ所か。

桜子 そのうち千代田区の後援を勝ち取って、千代田区内にいろいろギャラリーを持つようになって、“イノベーション”ってのも最近の流行りだけど(笑)、やがて廃墟になってた中学校を丸ごと委託されて“イノベーション”して貸しギャラリーとしてオープンしたのが「3331」。そこで“迷える子羊たち”も含めたいろんなアーティストに展示をやらせたり、知識人を呼んで喋らせたりしてる。知識人たちに自分のやってることを権威づけしてもらってるわけです。


 怪しげな“アート”再生産システム

桜子 で、この「3331」の維持のために「くすのき会」(神田くすのき会)っていうお金持ちの団体が資金提供してて、そこのメンバーには安倍晋三夫人とかもいる。

外山 急にキナ臭くなってきたな(笑)。それは何の団体なの? 芸術のパトロンになりたいような人たちの集まり?

桜子 だと思うけど、あんまりよく知らない。とにかくこの「くすのき会」が後援してて、「千代田区」も後援してる。

外山 その「アーティスト・イニシアチブ」って書いてあるのは?

桜子 よく知らないけど、「コマンドN」のアタマによく付いてるフレーズ。

外山 「一般法人非営利団体」……。

桜子 「コマンドN」の正式名称。「一般社団法人非営利芸術活動団体コマンドN」。で、どうにも反対しにくいプロジェクトをいっぱいやってる。障害者のアートを紹介する、子供のアートを紹介する、アジア、外国人のアートを紹介する……。

外山 そういうさまざまなキレイゴトを……(笑)。

桜子 あと“震災復興”!(笑) あくまで私の解釈で、誹謗中傷になっちゃうかもしれないんだけど、そもそも芸術家なんて何の役にも立たない、愚にもつかない存在じゃないですか。そういうどうにも使えないものを使える場所を作ってそこに送り込んで……。

外山 ん? 使えないものを使える場所? ……あ、“人”のことね。本来は何の使い道もないゴミ芸術家どもを雇ってくれるとこ。

桜子 うん(笑)。そういう施設やプロジェクトをあちこちに立ち上げて人を送り込んで、しかも「君たちは最先端のアートを担ってるんだ」って動機づけまでして。

外山 知識人たちにそういうこと云わせて正当化してもらう、と。

桜子 そういうシステムの全体を中村政人って人が作り上げていて、かつ「創造過程を見せる」というのが彼の“アート”のスローガンなんだけど……。

東野 そうなのか。でもいかにも云いそうだ(笑)。

桜子 あと「関係性の美学」とかも云ってたような……。

東野 それはニコラ・ブリオーの概念だけど、中村政人も使ってたっけ?

外山 ともかくつまり、そういうシステムを築き上げていくことそれ自体が彼の“作品”なんだ?

桜子 そうそう。それから若手アーティストたちに自分のやりたいことをやらせる時に「クラウドファンディング」って手法を推奨してて、ネットで「自分はこういうことをやりたい」ってプレゼンして、お金を出してくれる人とか企業を募るってやり方で、その過程も見せてて、あるアイデアに今いくら集まってるか誰でもネットで見られるようにしてある。
 これも私の偏見かもしれないけど、芸大で教えた結果、“地域アート”みたいなプロジェクトに貢献して活躍できる社会的有用性の高い人材と、そうでもない人とがどうしても出てきちゃうじゃないですか。前者はあちこちに立ち上げたプロジェクトのスタッフとして採用してお金を回し、後者についてはこの「クラウドファンディング」を推奨して……。

外山 “自己責任”で何とかしろ、と(笑)。

桜子 そういうシステムの全体さえも「創造過程を見せる」とか云って自分の“作品”として取り込んでいく。

外山 “やり手”なんだ(笑)。「コマンドN」のとこに「1998」って書いてあるけど、それぐらい前から始動してるってこと?

桜子 うん。

外山 着々と……(笑)。


 “名のある芸術家”たちは関わらないが批判もしない

外山 中村政人本人も“作家”なの?

桜子 マクドナルドのでっかい「M」の看板をたくさん並べて輪にしたりしてた。

外山 輪にする?

桜子 ストーンヘンジみたいに。

外山 それは何なの? 「インスタレーション」?(笑)

東野 たぶん違います。

外山 「シミュレーショニズム」

東野 ぼくが作ったチャート(後註.この座談会の時に提示されたが、紙版『人民の敵』掲載時にも画像は省略)に書いてある言葉をただ云ってるでしょ(笑)。

外山 でも既成のものをいじってアレンジするようなやつじゃないの、「シミュレーショニズム」って?

東野 ちょっと違いますね。「シミュレーショニズム」というのも作家によっていろいろなんですが、例えばマイク・ビドロって人は、ピカソの絵を模倣して描いたりしてる。ピカソのサインまで入れちゃうと“贋作”になっちゃうんで、サインだけは入れない。ピカソとか、ウォーホルとか……。

外山 過去の美術作品をそのまま描くんだ。

東野 “盗用美術”ですね。

外山 カッコして「アプロプリエーション・アート」ってあるけど、「アプロプリエーション」って何だっけ?

東野 「盗用」です。他にシェリー・レヴィーンって人は、モンドリアンとか、昔の抽象画を水彩でそのまま模倣して、サイズも変えたり、昔の写真作品をさらに写真に撮ったり(笑)、まあそういうやつです。モダンアートはずっと“新しさ”を追求してきたところがありますけど、そろそろもう“新しいもの”なんかないんじゃないのかっていう時代的な気分を背景にしてる。

外山 単なる“盗作”“贋作”と違うのは、そういう理屈があるってことだよね。つまり“シミュレーショニズム”ってのは、既成のものをアレンジして作品化するような、ウォーホルが大量生産品の缶詰の絵を描いたり、マリリン・モンローの写真を絵にしたりするのとはまた別のものなんだ。

東野 そういうことです。

外山 村上隆というのも、桜子が解説してくれたような構造に組み込まれてる人なの?

東野 さすがにもうちょっとマシなんじゃないかな。

桜子 すでに“名のある”人たちは、こういう“地域アート”みたいなものにはあんまり関わりたくないって感じがする。

東野 イベントに呼ばれたりするぐらいの付き合いはあるだろうけど、金銭的なところでは一線を画してると思うし、そもそもこんなシステムに依存しなくてもやっていけてる人たちだろうし。

外山 まあ美術で充分食っていけてる人たちにはそりゃ必要ないシステムだろうね。

桜子 だけどこういう“地域アート”を誰もきちんと批判しないのも、何となく分からないでもない。

外山 多くの人がそれに依存して食ってるんだから、批判すると自分で自分の首を絞めることになっちゃうもんね。

桜子 うん。この構造の近くにいれば、「3331」とか、関連のギャラリーで作品を発表する機会も得られるし、批判的なことは云いにくいと思う。


 芸術家は“原子力ムラ”より足元の利権構造批判を!

外山 何かアレだね、こういう人たちが“反原発”とか云いだすのは、ちゃんちゃらおかしいね(笑)。

東野 彼らは“反原発”は云ってないですよ。

外山 あ、云えないか。

桜子 云うとヤバいもん。だって住友商事と……。

東野 「トランス・アーツ・トーキョー」っていうのは、そもそも住友商事があのへんに新しい商業施設を作りたいっていう……。

桜子 要するに“地上げ”みたいなもんなんです。千代田区のあそこらへんの一帯の家屋なんかを取り壊して、商業施設を作るためのアリバイみたいなもの。

東野 「3331」の土地の所有者は住友商事なんです。だけど「金儲けしたいんで、ここらへんの建物を全部取り壊していいですか」とは云えないじゃないですか、街の人たちに反発されるし。そこでワン・クッションを置いて、“アートで地域を活性化するために”再開発するんです、ってことにしたい。そこで中村政人と利害が一致したということなんじゃないかと。

外山 じゃあ彼らが掲げるのはあくまで“震災復興”であって、原発のことは一切云わないんだ。

東野 「トランス・アーツ・トーキョー」は(後註.本体の「3331」とは異なって)“震災復興”を掲げてるわけではないんですが、住友商事が関わってるし、大林組も関わってるから……。

桜子 再開発のための取り壊し作業をやってるのが大林組で、大林組はフクイチとか作ったとこでしょ。

東野 住友商事だって原発には何らか関係してるんじゃないですか。

外山 そりゃ主だった大企業はどこでもそうですよ。

東野 だから“震災復興”はともかく、原発については何も云えませんよ。

外山 まあ原発に限らず、行政や大企業が絡んでくると政治的なことは総じてタブーになるよね。だけどさっきぼくが云いかけたのは、こういうのに完全に乗っかってる人たちについてだけではなく、美術シーンには“9・11以降”であれ“3・11以降”であれ、いきなり社会派ぶって政治的な表現を始めた人がいっぱいいるでしょ。そういう人たちが、自分たちが身を置いてる美術シーンにまるで“原子力ムラ”みたいな(笑)、かなり問題ありげな利権構造が構築されてるのに、たとえ自分自身はそこに組み込まれてはいないとしても、ごく身近なところに存在してる“原子力ムラみたいなもの”への批判的実践を一切せずして、原発を批判したり“原子力ムラ”をどうこう云うのは、やっぱり“ちゃんちゃらオカしい”んじゃないのかな?

桜子 それは本当にそう思う。

東野 美術家は“原子力ムラ”より先にこっちをこそ批判すべきだと思います。

桜子 ただ構造が込み入りすぎてて、なかなか全体像が見えてきにくいのかもしれない。

外山 『メインストリーム』派の総力を挙げてここまで調べ上げたんだ(笑)。

桜子 若いアーティストたちの表現欲求、作品を発表したいという欲求を人質に取られてるところもあるし、表層的には誰も反対しにくいような大義も掲げられてるし……。

外山 しかしそこで簡単に口をつぐんでしまうようでは、ロクな“アーティスト”じゃないじゃん。

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