世界最過激思想家・千坂恭二氏との対談2014.09.17「なぜファシズムを掲げなければならないのか」(前編)

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 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 日本最過激というよりもおそらく世界最過激の思想家・千坂恭二氏との対談である。2014年9月17日に大阪でおこなわれ、紙版『人民の敵』創刊号に掲載された。
 「マスター」として時々登場するのは、今はもう閉店したが、一時よく「外山恒一を囲んで飲む会」の大阪会場に使用させてもらってもいた、大阪市の天六にあった飲み屋のマスターである。

 前編は原稿用紙換算26枚分、うち冒頭10枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその10枚分も含む。

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 「○○大学アナキズム研究会」の増殖

千坂 外山君がツイッターのフォロワーの学生に「実体の有無にかかわらず、とにかく“○○大学アナキズム研究会”を名乗れ」って指令を出して(後註.2013年9月30日のツイート)、実際にアナキズム研究会のアカウントが何十コもできてるやんか。そろそろ次の指令を出すべき時期とちゃうんかな、「やっぱり実体は必要だ」って(笑)。

外山 第二段階(笑)。

千坂 うん。やっぱり実体がなければ意味がない、とか急に云いだす。

マスター トップダウンで指令。

千坂 そこでまず確認事項を伝える。「一、当会のアナキズムには自由はない」(笑)。トップダウンで発せられる指令を一言一句たがわずに実行せい、と。「反論は許さない」とか云うて。

外山 言論の自由はナシ(笑)。思想の自由もナシ!

千坂 誰かに「そんなのはアナキズムじゃない」とか批判されたら、「バクーニンを読め」と云えばいい。バクーニンはちゃんと書いてるよ。アイツの組織に言論の自由なんかない。
 第一インターナショナルが分裂した時に、マルクスがバクーニン批判の文章を書いてる。マルクスはバクーニン派に仲間を潜入させて、内部文書を盗ませて、実体を調べて分析した。結論としては、アイツの組織はエゲツないぞ、自由も何もないぞ、バクーニンがローマ法王みたいに君臨しとって、部下は絶対服従や、と。

外山 そんなことをマルクスに云われてる(笑)。

千坂 ジェスイット教団みたいな組織や、と云われてるんや。だから批判されたらバクーニンの故事を出して、「これが真のアナキズムなんだ」と云うとけばいい。
 バクーニンが云うには、自由というのは、アナキズム革命が起きて初めて実現されるものなんや、と。しかも「我々アナキストが考える『自由』は個々的な『自由』ではない。全体的な『自由』である。自由な全体が実現した時に初めて真の自由が実現されるのであって、個々的な自由は自由の名に値しない」みたいなことを云うてる。何やその、「自由な全体」って(笑)。そんなもん、どこに自由があるんか(笑)。
 だからアメリカには「バクーニンこそファシズムの元祖だ」っていう研究もある。ユージン・ピジュアーあたりのバクーニン研究。コイツのアナキズムに自由なんかないぞ、と(笑)。独裁者で、自由の全体主義者や。


 千坂氏主宰「思想研究会」

外山 大阪で定期的にやってる勉強会の方はどうですか?

千坂 なかなか活発にやってる。参加者も毎回3分の1ぐらいずつ入れ替わって、それが刺激にもなってるし、まあ面白く進んでるんやないかな。政治ネタに飽きてきたら、たまには芸術論でもやろうとかも考えてるし。毎回来てくれる常連もおるし、東北とか四国、九州その他、けっこう遠いとこから奇特にも来てくれてる人もいるからね。

外山 マジメにやらなきゃ、と。

千坂 うん、ぼくの論文とか基礎文献をきっちり読むようにして、かなりマジメにやってるよ。

外山 実際に運動に関わってる人も来ますか?

千坂 場所を提供してくれているのが、イタリア未来派にシンパシーを持っている芸術グループ(後註.「なごやトリエンナーレ事件」にも関与した“前衛迷惑行為”集団「トラリー・プロジェクト」のこと)なんやけど、そのリーダー格の人間が右翼やからね。黒い制服を着てる森垣(秀介)君が率いる民族の意志同盟の関西支部やから。
 だからたまに別のコチコチの右翼が来たりもするよ。で、いつもの調子で例のアレ(後註.外山編『デルクイ01』所収「日本は天孫降臨以来の革命国家である」参照)を云うやんか。

外山 “神武革命論”(笑)。

千坂 うん。それでコチコチの右翼も話を聞いて彼なりにそれを理解するんよ。だけど「ツラい」と云うんや。自分の組織に帰ったらそんな話は口に出せんって(笑)。その通りやと思う、そうでないと右翼は勝てない、とも思うらしいけど、でも組織の中では云えん、と。普段の右翼の仲間同士では、最初から結論が決まってるような議論しかしてなくて、それじゃアカンと思うから、この勉強会に来てるんやけど、ここで聞いた話はやっぱり仲間内では云えんと云うてアタマ抱えとるんや(笑)。でもそれでええと思う。

外山 コチコチの右翼団体のあちこちにそういう“悩める若者”を配置してるわけですね。

千坂 いくらかでも問題意識があれば、どこの組織であれ、「今のままでええんかなあ」という疑問は出てくると思う。だって現状では何もできないわけやんか。そこに違う発想を提示してやることが大事で、その人間の心の中にだけでも残ればええと思う。


 外山の「教養強化合宿」

外山 ぼくもこないだ、全国から若者を10人集めて合宿をしましたけどね(後註.現在まで年2回ペースで続けている学生限定の「教養強化合宿」の第1回目を、この対談の直前の2014年8月におこなった)。

千坂 うん。どうやった? インターネットでも誰か参加者が長い感想を書いてたのを読んだけど、なかなか良かったみたいやね。

外山 10人の中に1人2人はちょっとトンチンカンな人もいたけど、まあそれは想定内ですからね。でも大半は、こっちが想定してた以上にマジメな、優秀な学生たちで、インテリ君も2、3人混じってて、千坂さんが読んだというその長いレポートを書いてた人なんかが、まあ参加者の平均的な水準じゃないかな。

千坂 あれで平均やったら、かなりの水準やんか。やっぱり有意義やったんやな。

外山 たぶん彼だったと思うけど、合宿が終わって最寄り駅まで車で送った別れ際に、「たしかに偏差値がだいぶ上がったような気がします」って云ってました(笑)。

千坂 ファシズム界の東進ゼミナールや、と云うたったらええ。

外山 ファシズムについては合宿ではあまり扱ってませんけどね。

マスター 講義形式だったんですか?

外山 読書会だね。ぼくの読書会の方式は、テキストを人数分用意して、その場でまず10ページなり15ページなり各自黙読させて、理解できなかった箇所とかを挙げてもらう。

千坂 みんなでそれを話し合うんや。

外山 まあ「話し合う」ような感じにはあまりならないけど。ぼくが解説を加えながら整理して、全員がおよそ理解したら次の10ページなり15ページなりに進んで同じことを繰り返す。
 例えば『中核vs革マル』を一人で読んだとしたら、まずたいてい中核派の側に感情移入すると思うんですよ。ところがぼくの解説つきの読書会では、そりゃ人情としては中核派の方が好感が持てるけれども、マルクス・レーニン主義としては革マル派の方が正しい、ということを理解してもらうことになる。これだからマルクス主義はイカンのだ、と(笑)。

千坂 昔、講談で『天保水滸伝』というのがあって、飯岡助五郎と笹川繁蔵がケンカをしとる。あれの新左翼版やな。平手造酒がどっちかにつくんやけど、そっちが中核派みたいな感じで、聴いとる方はみな、そっちにシンパシーを持つ。

外山 敵側は冷静で非情な感じで……。

千坂 そうそう、策略に長けていてね。もう一方の側はどっか抜けてるとこがあって、そっちにシンパシーを持つんやな。

外山 人情としてはそうなりますよね。

千坂 中核派にはどこか抜けたとこがあって、革マルは、なんか策略ばっかり練って、抜け目なしに卑劣にやってるという、いやらしいイメージがある。だけど政治党派である以上は革マル派のようでなくてはいかんわけやんか。

外山 そうなんですよ(笑)。

千坂 政治党派にとっては、現場の運動より組織の温存の方が大事や。現場の運動なんかどうだっていい(笑)。中核派は現場の運動での玉砕主義やからな。

外山 だけどその中核派も含めてそもそもは革共同で、ブントに対して「あれは玉砕主義だからダメだ」と批判してたはずなのに……。

千坂 ブントは完全に「現場の運動」主義で、中核派は要するに革マル派とブントの中間なんやな。

外山 批判はしつつもブントに一定のシンパシーも持ってたような部分が中核派になる。

千坂 そうやな。


 新左翼運動史の入門書

千坂 でもまあ、そういう勉強会合宿みたいなもんを今後もやっていったらええんとちゃうの?

外山 そのつもりです。大学は年に2回、長期の休みがあるんでしょ? だから8月と、2月か3月あたりに今回みたいな合宿をやっていこうかなと。

千坂 それに「外山ゼミ」とか名前を付けたったらええねん。

外山 ええ、まだ名前を思いついてないんですけど。

千坂 「外山ゼミ」でええやん。個人名を入れとくことが重要なんや。一水会の木村三浩も「木村ゼミ」をやってるやんか。それをやり続けてればネーム・バリューがついてくる。だから「外山ゼミ」と称して年に1回でも2回でも全国から若者を集めて、続けていったらいいと思う。

外山 ぼくとしては参加者たちがその後、活動家になっても研究者になってもいいし、ならなくてもいい。ただあちこちで「コイツは優秀だ」という学生が共通して外山ゼミ出身者だということになれば、それでいいんです。

千坂 別個に動いてる人たちには「外山賞」を授与して、向学心のある若者たちは「外山ゼミ」に参加させて、外山君自身も新しい若者を探し求めて「全国ツアー」を毎年やるという、そういう3本柱でやっていったらええんよ。

外山 合宿を年に2回やれば毎年20人ぐらいずつ各地の大学に「優秀な学生」を送り込めるわけだから。
 合宿ではほんとに基本的なことだけを詰め込んでるんだけど、いいテキストがないんですよね。『中核vs革マル』は初心者にも分かりやすくていいんだけど、ノンセクト中心の記述じゃないでしょ? あくまで両派の抗争を軸にした、諸党派中心の歴史記述だから、ちょっと扱われてる領域に偏りがあるんですよね。

千坂 絓(秀実)の『革命的な、あまりに革命的な』があるやんか。あれはやっぱり難しいの?

外山 初心者には難しいですね。

千坂 『革命的な…』はあの時代の思想の流れを当時の文学とか芸術とも関連づけて捉えてるから、かなりええんやけど、そうやな、やっぱり初学者には難しいかもしれんな。

外山 むしろあれを読むのに必要な基礎知識を身につけるための合宿みたいなもので(笑)。

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