九州ファシスト党〈我々団〉座談会「現代美術シーンという“原子力ムラ”」(その3)
〈「その2」から続いて、これで完結〉
〈全体の構成は「もくじ」参照〉
「九州ファシスト党〈我々団〉」の党員3名(外山、山本桜子、東野大地)による座談会である。2014年11月18日におこなわれ、紙版『人民の敵』第3号に掲載された。
山本と東野は党内の「芸術部門」を称して、その機関誌『メインストリーム』の発行を2011年9月に開始した。彼らがとりあえず攻撃対象として設定したのが、「地域アート」などと総称される、行政などからの助成金に依存し、市街地活性化など“街おこし”“地域おこし”に貢献することを謳う全国各地の大小の芸術(とくに“現代美術”)イベントであり、その旗振り役とされる東京芸大教授・中村政人氏である。
第3部は原稿用紙換算29枚分、うち冒頭12枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその12枚分も含む。
※ ※ ※
『メインストリーム』派の友好団体?、「新・方法」
外山 桜子ちゃんが東京で仲良くしてる人たちも“作品”を作ったりしてるの?
桜子 そういう人もいるし、“作品がないこと自体が作品だ”みたいな人もいるし、あと“宣言文”をひたすら作ってる人もいる。
外山 “新・方法”ってグループは昔からあるの?
東野 まず“方法”ってグループが先にあった。97年ぐらいからかな(註.「方法主義第一宣言」の発表は00年)。
外山 それはグループ名から想像するに、方法論を再構築しなきゃダメだっていう問題意識の人たちなの?
東野 いや、ポストモダニズム的な多元主義への批判的意識を持った人たちですね。「還元主義」という、絵画は平面に還元されるっていう考え方があって、グリーンバーグ(アメリカの美術批評家)的なモダニズム擁護の還元主義が影響力を失ったからといってモダニズム自体が失効したわけではない、“方法”に還元することでモダニズムは持続しうるとかなんとか、まあ難しいことを云ってる人たちなんですけれども(笑)。
外山 中ザワヒデキって人もその“方法”の時期からいるの?
東野 いるというか、“方法”を始めた人。中ザワヒデキ自体はそれ以前の80年代から活動してる。
外山 それが“新・方法”になるのは、何が変わったの?
桜子 当初のメンバーが徐々に抜けて入れ替わって、今は完全に入れ替わってる。
外山 単にメンバーが違うだけなの?
東野 “方法”はマジメなんだけど、“新・方法”は“方法”の論理を徹底することでマジメさがバカバカしさに反転してしまった、みたいな感じです。アーティストとして絶対にやっちゃいけないことでも、このコンセプトならやれる、みたいな。“やってはいけないこと”というのは、例えば“社会貢献”とかですね(笑)、要は(下記の“相関図”を指して)こういう人たちが恥ずかしげもなくやってるようなことですよ(笑)。そういうコンセプトの上で街の清掃ボランティアに参加したり、まあダダっぽい感じ。
外山 あ、つまり結果としては彼らと同じようなことを、“ベタ”ではなく“ネタ”としてやる、と。
東野 そういうことかな。とにかくすごく説明しづらい人たち(笑)。
桜子 百科事典みたいなものを作ったりもしてた。例えば「A」という項目には「AとはAである」としか書いてない、要するに徹底的に不毛な事典(笑)。それを“宣言文”として発表したり。
外山 君たちも作ったら? 薄めの美術用語辞典の項目だけ全部抜き出して、それを君たち流にイヤミったらしく定義づける。
桜子 『悪魔の辞典』みたいなやつ?
外山 それでもいいし、もっと大真面目に徹底批判的にやってもいいし、あるいはウロ覚えの用語についてはウロ覚えに定義したり(笑)。
桜子 やろうとしたことはある。
東野 そういう案もありましたね。何となく流れちゃったけど。
桜子 言及する価値もないものについては、そもそも項目自体が存在しないような(笑)。
行政に補助金カットを求める運動!?
外山 ところで例の“原子力ムラ”(後註.「その2」で指摘された、“原子力ムラ”をどうこう云う資格もないほどの、行政や企業とのタイアップ=助成金依存などによる、現代美術シーンの諸々の利権構造のこと)に頼ってない人たちはどうやって生活してるの?
東野 フツーにバイトしたり。
桜子 (“相関図”を指して)この人たちも大半はバイトしてるはず。
東野 食えてる人はほんの一握りだと思う。
桜子 中村政人さんは食えてるのかな。
東野 そりゃ食えてるでしょう。
外山 中村政人って人は大学(東京芸大)の先生なんでしょ。本人はこういうシステムがあろうがなかろうがそれで食えるだろうけど、こういうシステムを作ることで、この人の周りの人たちまでかなり食えるようになってる可能性はあるよね。
桜子 このシステムを芸術論みたいな理屈でいくら批判してもどうにもならないし、空しいから、もっと即物的に補助金を切るような方向でやれないかな(笑)。
外山 うん。ぼくもそっちの方がいいと思う。まあそれこそ熊本の亀井君(註.亀井純太郎。紙版『人民の敵』第2号で対談した、「第2回外山恒一賞」も受賞しているとても優秀な演劇人)も補助金で食ってるみたいだし、亀井君が路頭に迷う結果になるのは偲びないけれども……(笑)。
とにかく美術だの演劇だの、企業がカネを出すのは私企業のやることだから放っとくしかないけど、“公金”で支援することについては批判的な機運を大衆的に盛り上げていくべきではないだろうか(笑)。こんなものに税金が浪費されていいのかって。
東野 それはやりたくないな。
外山 あっちこっちに敵を作る(笑)。
桜子 どうすれば行政から補助金を出してもらえるかっていう、いわゆる“意識高い系”のワークショップとかあるけど、逆に何をすれば補助金をカットされちゃうかってマニュアルを……。
外山 いや、それはもう単純に、実際に補助金が出てる美術や演劇のイベントを徹底的に調査して、「こんなことに税金が使われています」って広く世間に知らしめれば、批判の声は上がると思うよ、自動的に(笑)。
桜子 調査結果を街頭で通行人に呼びかけるの?
外山 ポスティングして回ってもいい。かなり現実的な“反芸術”運動だ(笑)。
東野 やりたくない……。
桜子 すごくレベルの低い“反芸術”運動だね(笑)。
外山 アタマの悪い保守系の市議会議員とかに陳情して(笑)。
桜子 そのぐらいやってもいいかも。
外山 もう、在特会か『メインストリーム』派かってぐらい嫌われるね(笑)。
東野 イヤだなあ。
外山 愛のムチだよ、愛のムチ。芸術復興のためにはまず補助金をカットさせなきゃ。
東野 そんなことやるぐらいなら復興しなくていい。
外山 行政とかが補助金を出して美術や演劇やその他を保護していくってことに関して、そもそも『メインストリーム』の両先生はいかがお考えですか?
それこそ明治の時代なら、欧米列強に伍していける“近代国家”を実現するためには“近代国家”にふさわしい芸術・文化を興していかなければいけないっていう、それで実際に政府がカネを出して、むしろ政府が率先する形で“近代芸術”を育成していったわけでしょ。そのことが批判的に検証されたりもしてるけど、明治ならともかく、この現代においてまだそんなことする必要があるのか。
東野 ぼくがカネを出す政府の側の人間なら話は別だけど、今の政府が支援するような“芸術”はすべてくだらない。大衆民主主義だからロクなところにカネが使われないのは当然で、ファシスト党の独裁政権ならもっとカネにならないような、ナチスが作った戦争映画を翻訳して上映するような文化事業とかを支援したいけど……。ナチス云々はともかくとしても、本来はそもそもカネにならないような文化をこそ政治が支援しなきゃいけない。
外山 つまり世間一般の人々が求めてないような、だからカネになるわけないんだけど重要な文化というものがあって……。
東野 だけどその重要さを理解できない人たちの声が大きいのが民主主義社会なんですよ。
外山 “アートによる社会貢献”みたいなフレーズに何の疑問も抱かないような人たちがカネを出したり受け取ったりすることになる。
東野 補助金申請が通るような書類を作らなきゃいけないし。
外山 そういうシステムのもとで実際に支援されるような“芸術”は、まずたいていゴミだよね。ということは、そんな補助金システムなんか、ない方がいい。
前衛芸術を徹底弾圧する最も前衛的な前衛芸術運動
外山 で、芸術に対する行政の支援をやめさせる運動それ自体を芸術運動として展開することも可能なんじゃないの? 我々団的にも『メインストリーム』的にも“反芸術”運動の系譜を意識してるんだし、「前衛芸術を徹底的に弾圧するという最も前衛的な前衛芸術」というコンセプトを持ってるんだから。表面的には単に“税金の無駄遣い”を糾弾する散文的な“市民運動”であっても、それ自体を前衛芸術的なパフォーマンスだと云い張ることはできるはず。
桜子 できるんだけど、それでいいのかなあ。
東野 ちょっとダサい気がする。
外山 ダサいかどうかはやり方による。批判のロジックの出来不出来にもよるし、もっと表層的にビラのデザインをはじめプロパガンダのスタイルによる。とにかく行政に芸術に対する支援をやめさせる、という行為そのものを現代美術のパフォーマンスとして展開することは、理論的には可能でしょ。
桜子 それは可能。
外山 これは我ながらすごいコンセプトだという気がしてきた。つまり芸術に理解のない方々を味方にする(笑)。芸術から最も遠い人々を扇動し、動員して、最も前衛的な芸術パフォーマンスを敢行するってことなんだから。
桜子 うん(笑)。
外山 “クール・ジャパン戦略”みたいなものへの批判ともリンクさせられる。シニシズムのオタク文化なんか諸外国に広めてほしくないし(笑)。いずれにせよ君たちを不快にさせてるような“地域アート”的なもののキーマンたちを不快にさせることはできるよ。……東野先生はちょっと及び腰?(笑)
東野 うーん……。
外山 芸術にまったく理解のない人々を“物量”として超前衛的な芸術パフォーマンスの“材料”みたいに利用しちゃうってのは、つくづく画期的だ。「あんなくだらないものに税金をつぎ込んでていいんですか!」って、自民党のゴリゴリの保守派のオッサンとかを巻き込んでさ(笑)。
桜子 ごく平凡な住民運動みたいに装って始めたらいいのかな。
外山 それはどっちでもいいんじゃない? 保守派の一般大衆向けと、美術シーン内部のラジカルな人向けと、ロジックを使い分けてもいいし。でもまあ、全体的に革マル派の手口だけどね(笑)。革マル派というか、POSSE派。都立大から民青系自治会を追放する運動を、“一般学生”を装って、保守派の都議なんかとも結託して展開したっていう(後註.『全共闘以後』第6章第5節参照)。もちろんめでたく民青を追放した暁には、自分たちが後釜にすわるんだ(笑)。悪質きわまりない(笑)。
東野 せめてそんなふうに利権がこっちに回ってくるんならモチベーションも上がるんだけどなあ(笑)。
外山 利権は回ってこないと思うけど、少なくとも美術シーンにおける存在感は圧倒的に高まるよ。芸術を抑圧する運動の指導者であると同時に、「むしろ我こそ真の前衛美術の実践者である」って立場を公言してていいんだし。
東野 ただそういうことを単に面白がる人たちじゃなくて、もっとちゃんと分かってる人たちとつながりたい。
外山 いや、そことつながるための実践なんだよ。芸術に理解のない大衆をダシにして、実際には美術シーンの現状に批判的な美術シーン内部の人たちに問題提起してるんだから。
桜子 むしろ芸術を称さないでやるのは?
外山 称さないとただの民主主義運動になっちゃう。
桜子 そうか。
外山 もちろんこの運動が前衛芸術パフォーマンスであることは、運動の参加者たちには理解されてなくていいんだ。自分も芸術家だけども、今の芸術状況は税金を投入して支えるに値しないものだと憂いている、自省の念の強い良心的な芸術家なんだとでも思わせとけばいい。
運動が大きくなって、美術シーンから警戒されたり、非難されたりした時に、待ってましたとばかりに積極的に討論の場を提起して、論戦の過程で、美術シーン内部にもいるはずの“原子力ムラ”的現状に批判や違和感を持っている人たちを味方につけられるかどうかが勝負どころだね。
……金友(隆幸)君のスタンスにも似てるのかもしれない。どうしようもない差別者たちを煽って組織して、だけど金友君の目的は“乱世を到来させる”ことで、組織された人たちとはまったく別の次元にあるっていう。金友君ほどじゃないにしても、“文化予算削減要求運動”もかなり極悪な運動だけど、くだらないシステムをせめて動揺させるために手を染めたっていいと思うけどね。
敵に具体的な打撃を与えるべきである
桜子 中村政人が敵だとして、中村政人が一番イヤがるのは批判されたりすることじゃなくて補助金を切られることだとは思う。
ここから先は
¥ 290
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?