1988年の反原発運動・全史(その13)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その12」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 単行本版『全共闘以後』の「第3章・第3節 反原発ニューウェーブと札幌ほっけの会」(原稿用紙換算42枚分)にあたる部分の〝オリジナル全長版〟(原稿用紙換算約290枚分)である。
 紙版『人民の敵』第3839号に掲載された。
 単行本版ですでに読んだという諸君も、あんなに面白い話だったのに、本当はもっと面白い話だったのかと衝撃を受けるはずだ。

 第13部は原稿用紙換算19枚分、うち冒頭5枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその5枚分も含む。

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 試運転まで四日となった十月十三日、「STOP!泊原発情報センター」の音頭で、ほっけの会も含めた〝無党派市民運動〟部分の二十数名が集まって、会議が開かれたという。その様子を鹿島は、「とにかく何か最終的な抗議の意思表示をやらなくちゃいけないという話をして、それはもう〝ゲート突入〟しかないだろうって、オバサンたちが云い始めたんだよ。それに対して宮沢さんがすごく怒ってさ。『そういう玉砕的な、敗北主義的な突入なんかできない。そういう突入をやって、オレたちはそれで満足できるかもしれないけど、現地では今後もずっと、原発が動き始めた後も闘いは続くんであって、それをここで玉砕的な突入をやることによって潰してはならない』って」と証言している。
 おそらくこの宮沢発言について、古賀も、それがこの会議の延長で翌日に開催された〝非暴力トレーニング〟についての発言だったという記憶違い、あるいはその〝非暴力トレーニング〟の際の宮沢ではなく鹿島の言動と記憶を合体・混同させた上でだが、「会のなかには、そういう『敗北主義』を軽蔑し、警察や電力会社に対して『戦闘的』に振る舞うべきだと主張する左翼的な人もいた。そういう人は『逮捕』されること自体が自らの抵抗の証なのだとして、むしろ自ら機動隊や公安警察の登場とその暴力を待ち望んでいるかのように私には思われた」などと書いている。
 鹿島は宮沢の発言の真意を、「ほっけの会の行動というのは、どんなに今この時点で少数派であっても、それが大衆的な行動に向けて開かれているって側面を重要視してるんだよ。突入するのが今は5人、10人であっても、それが突破口となって、ことによっては群衆が百人、2百人とそれに続くかもしれないっていう、そういう〝開かれた〟ものでなくてはいけないと考えてる。(略)しかしこの時のように、ちゃんとした〝トレーニング〟を受けた人が、象徴的な行為として何人か直接行動に踏み切るというようなのは、もはや〝大衆運動〟的ではないじゃん。自足した運動でしかないよね。そういうことへの反発が、ほっけにもオレにもあったと思う」と解釈し、整理している。
 会議は荒れる。

 オバサンたちもかなり感情的になってて、話し合いがどんどん「やはり突入やむなし」って雰囲気になると、宮沢さんが「いや、ほっけの会としては、やらない」って云ったのを捉えて、「〝ほっけの会〟、〝ほっけの会〟って云うけど、それはあなた個人の意見じゃないの。そんな云い方だと、〝ほっけの会〟ってまるで軍隊みたい」って批判されてさ(笑)。「そんなことはない。ほっけの会は集まってちゃんと会議をやってるんだ。よし、ほっけの会、ちょっと集まれ!」とか云って、「そういうことやめなさいよ。もっと1人1人の判断に任せなさいよ」ってますます宮沢さんはオバサンたちに反発される(笑)。

 結局、〝突入やむなし〟の流れは宮沢らにも抑えがたく、しかしやるからにはやはり〝非暴力直接行動〟の理念や心構えを体得する〝トレーニング〟を事前に受けておいたほうが良かろうと、翌十四日の夜、情報センターのメンバーの一人が〝日本一の非暴力の先生〟と太鼓判を押す、阿木幸男が札幌に招かれた。
 阿木は四七年生まれの全共闘世代で、七一年から〝非暴力トレーニング〟を提唱・主導し、現代書館の〝フォー・ビギナーズ〟シリーズの『非暴力』(87年)の著者でもある。成蹊大学や河合塾で講師を務めていたこともあるようだ。
 〝トレーニング〟は北大恵迪寮でおこなわれた。参加者は二十名ほどで、鹿島も半ば興味本位で参加していた。
 〝日本一の非暴力の先生〟阿木が、最初に「この中で、ゲート内に入るという方は何人いるんですか? 手を挙げてください」と尋ねた。しかし誰も手を挙げない。鹿島は、「オバサンたちは実は、〝突入、突入〟って云ってれば、ほっけの会が突入してくれるだろうと思ってるだけなんだよ(笑)。もしかしたら宮沢さんはそれがイヤだったというのもあるのかもしれないね。鉄砲玉みたいに使われるのがイヤだったのかもしれない」と言っている。

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