見出し画像

長野出身の父が、富山の鰤(ブリ)に憧れていた話。

こんにちは。
トネガワ フミと申します。
東京から富山に移住して5年目の主婦です。
5歳と8歳の娘2人と、夫との4人で暮らしています。

今回は、長野出身の父がブリに憧れていたという話と、
富山のブリにまつわる色々について、書いてみたいと思います。


1. 長野出身の父。憧れのブリ

突然ですが、みなさんは大晦日の夜には、何を食べますか?
おそばを食べるよ、という方が多いでしょうか?
出身地によって異なるかもしれませんね。

私の実家では、
大晦日の夕飯は毎年「そば」、ではありませんでした。

私の父は長野県の出身で、母は東京都八王子市の出身です。
今でも仲の良い夫婦ですが、結婚当初どうしてもお互いにゆずれなかったことがあったようです。
それが、大晦日に食べるモノです。

そこで若かりし父と母は、こんな風に決めました。

奇数の年は東京方式、
偶数の年は長野方式。

東京方式というのは、「そば」を食べるというもの。
長野方式というのは「ブリと白飯」を食べるというものです。

12月へとカレンダーをめくる頃になると、
「今年はどっち方式だったかな?」と父が言い出します。
「わざわざ聞かなくても今年は偶数なんだから長野方式でしょう」なんて子ども心に思っていたのですが、
今思えば、父と母はそのやり取りを楽しんでいたのでしょう。

テレビや本などで見る年末の風景は決まって「大晦日には、そば」でしたので、長野方式の年は、母や私たち子どもは大抵ブツブツと文句を言ったものです。それでも父はニコニコと嬉しそうに、ブリと白いご飯がいかに素晴らしいかという話をしながら大晦日の夜を過ごすのでした。

父が生まれ育った長野県は山に囲まれているので、現在80歳になる父が子どもの頃は、海の幸は大変貴重だったようです。
農家に生まれた8人兄弟の末っ子の父にとって、ブリを家族で食べるということが、1年に一度の最高の贅沢であり、喜びだったことは間違いありません。

また、今でこそ人気の信州そばですが、
父曰く「米がとれないから、仕方なく、そばを食べていただけ」とのこと。
ですので、そばはわざわざ大切な日に食べるものじゃないという印象もあったようです。
もう昔の話ですが。

私が移住したことで、たまに父も新幹線に乗って富山まで来てくれるようになりました。
車窓から、海や田んぼや家々を見ては
「米に魚。やっぱり富山は豊かだなあ~。ほら、だから屋根の瓦も立派だ」と毎度つぶやいています(笑)

長野の方がこれを読んでくださっていたらスミマセン。
もちろん、長野も素敵なところがいっぱい! 大好きです!
ただ、長野出身の父から見て富山、そしてブリは、まるで豊さの象徴のような憧れなのです、という超個人的な話でした。


2. 富山のブリにまつわる話 

魚の獲れない地域からの憧れだけではなく、
富山においてもやはりブリは特別な存在のようです。
富山に来て、ブリにまつわる言葉や、習慣が沢山あることを知りました。


◆ブリ街道

そもそも、長野県では本当に大晦日にブリを食べているのか、
この機会に調べてみました。
(もしや、父の幻想ではないかと思いましたので (笑))

するとやはり、ブリを食べる風習はあるようです。
大晦日とお正月は「お年取り」と言われ、みなが一斉に年をとると考えられていた、めでたい日。その日のために、富山(特に氷見(ひみ))から長野まで、アルプスを人力で越えて、ブリが運ばれていたのだとか!
そのブリを「年取りブリ」とよぶのだそうです。
そして、ブリが運ばれた道は、今でも「ブリ街道」とよばれているそうです。

ブリは塩ブリに加工し運ばれ、到着した地では、焼いたり煮たりして食べられていたようです。父の年末の笑顔を思えば、当時、ブリがどれだけ歓迎され喜ばれていたかということが、目に浮かびます。


◆ひみ寒ぶり

「ひみ寒ぶり」というのは、ブリの中でもブランド認定されたもので、
寒ブリ宣言期間に氷見漁港で獲れた、6キロ以上のブリのことです。

「ひみ」というのは地名で「氷見」と書きます。
富山湾には16もの漁港がありますが、その中でも漁獲量も多く、地理的には石川の能登に近い位置にある「氷見漁港」。
昔からブリがよくとれる場所です。

ところで、この「ひみ寒ぶり」、
正直めちゃくちゃ高級品です。
「ひみ寒ぶり」のお刺身は、
脂がのりにのっているので、舌の上でホロリととろけます。
美味しいです。びっくりします。
テレビの食レポさんのように、もぐもぐしながら「ん~っ‼」と、悲鳴をあげるしかない美味しさです。
あまりに脂がのっているので、ちょっと炙ったり、大根おろしを添えて食べたりのもおすすすめです。
「他には何もいらないから日本酒を持ってきてください」という感じです。
お刺身ひと切れで、一週間頑張れる感じです。
伝わっていますでしょうか…?(笑)


◆寒ぶり宣言

富山に来て初めて知った言葉は数あれど、
なぜかワクワクと気持ちが高揚してしまう言葉がコレです。
「寒ぶり宣言」!!

11月の終わり~12月頃。
獲れるブリの大きさや形、数量などを総合的に見て、
本格的なブリのシーズンが到来したことを判定委員会が判断すると
「ひみ寒ぶり宣言」が出されます。

富山では、「ひみ寒ぶり宣言」は新聞が一面で報じ、
テレビでも大きく取り上げられる一大ニュースなのです。

パンパンで艶々で銀色に光るまるまると大きなブリが、
ブルーシートの上にずらりと並んでいる光景。

それを漁港の人たちが、指さしたり、叫んだり、
携帯電話で誰かと相談したりしながら
競り(せり)落としている活気あふれる風景です。

それはもう、画面越しで見ているだけでも、
ワクワクする光景なのです。
こんなにも心が躍ってしまうのは私だけでしょうか…
海とブリに憧れていた父の影響かもしれません(笑)

2016年は、ブリの体格や水揚げ量がかんばしくなく、「寒ぶり宣言」が出ないままシーズンを終えました。その年の沈んだ気持ちといったらありません。

今年2020年は、15キロ台のブリも続々と水揚げされ、数も多く、数年ぶりの豊漁のようです。スーパーの店頭でも、「ひみ寒ぶり」のお刺身が比較的手ごろな値段で手に入る、消費者にとって最高の年です(笑)


◆嫁ぶり
富山では、結婚した年の年末には、お嫁さんの実家から、嫁ぎ先の実家へとブリを一本贈る風習があり、それを「嫁ぶり」と言うのだそうです。
贈られたブリは、その半身(半分)をお嫁さんの実家にお返しするそうです。
ブリは大きいですから、それぞれの実家のご近所などにも配られるそうです。

若い2人の結婚を喜んで、両家で同じモノ、しかもめでたく美味しいものを食べましょうよ、ということなのかなと理解します。

ただ、今年のようにブリが豊漁の年でも、スーパーで1本3~5万円で売られている値段も立派なブリ。不漁の年だと、1本10万円程することもあるそうで…。
金額のことだけではなく、もらった方も大変だということもあり、今は「嫁ブリ」を贈らない家も多いと聞きます。


◆鰤(ブリ)起こし

富山では晩秋から初冬に雷が鳴ったり、天気が荒れたりすることがあります。
雪が降るころ、ブリが獲れる頃のこの雷鳴や荒天を、
「鰤(ブリ)起こし」というのだそうです。

お年寄りだけではなく、若い人もみな雷鳴を聞きながら空を見上げ、
「ああ、鰤起こしだね」と言い合います。

移住した当時は知らなかったこの言葉。
今では「ああ、美味しい季節がきたね」と私には聞こえるようになりました。


◆出世魚

ご存知の方も多いと思いますが、よく言われているのが、
「ブリと言えば出世魚」。

日本全国で色々な呼び名があるようですが、
富山ではこのように呼び名が変わっていくようです。

モジャコ → ツバイソ → コズクラ → フクラギ → ガンド
→ ニマイズル → ブリ 

お魚屋さんで見かけるのは、ツバイソ、コズクラ、フクラギ、ガンド、ブリあたりですかね。
モジャコと、ニマイズルは見たことがありませんでした。

ブリの寿命は7~8年だそうです。
出世の道は長いものですね…(笑)


3 フクラギ(福来魚)も好き

とにかくブリは、わたしたちの暮らしに深く根差していることが分かります。長野ルーツの父をもつ私は、火を通した切り身のブリしか知りませんでしたが。それはそれはありがたい代物として子どもの頃から刷り込まれてきました(笑)。

そんな私が富山に来て、
朝どれの「ひみ寒ぶり」のお刺身を、スーパーで手に入れることできる幸せといったらありません。

でも、ご馳走感のあるブリになる前のフクラギやコズクラも、実は好きです。小さい子どもには、ブリは脂が強すぎるようで、我が家の子どもたちはフクラギを好んで食べます。

富山では1歳くらいの赤ちゃんからお刺身を食べさせるも家庭もあると聞きます。
新鮮なお刺身が身近な証拠ですよね。
我が家も、3歳まで東京にいた上の娘(8歳)は今でもお刺身をあまり食べませんが。
生後3カ月で富山に来た下の娘(5歳)はフクラギのお刺身が大好きです。

それに、名前がなんともいいですよね?
フクラギは、漢字で書くと「福来魚」なのだそうです。
福が来る魚!
これを食べないわけにはいきません(笑)。

ご馳走のひみ寒ぶりはもとより、
富山では、毎日食べられる手頃なお魚が沢山あることに日々感動します。
「ああ、なんて豊かなんだろう。幸せだなあ」と思ってしまいます。
山育ちの父のDNAが細胞レベルでつぶやいているのかもしれません…(笑) 

【ライタープロフィール】
トネガワ フミ
2016年1月に夫の転勤について富山に移住。東京都出身。若い頃は金融機関勤務でまちづくりに従事。(金融機関がまちづくりをしている事例って意外とあります) 今、はまっているのは“子育て”と“富山の魚”。偶然性や未完成なものに惹かれるタイプ。子どもが育つ楽しみや資源をシェアする「子どもと暮らしの企画toyama」主宰。ママのためのお魚さばきサークル「ママ×おさかな」共同代表。
富山県呉西にて、夫と娘2人との4人暮らし。ライター、エッセイスト。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?