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#6 ゆめちゃん、手術する

2023年3月16日、一部編集しました。


このお話を書くのは正直迷っていました。

私にとっては少々辛い思い出でして。

それでも、命あるものをお迎えしたからには避けては通れない話だと思いますので、やはり書くことにしました。


***

ブリーディングなどの目的がある場合以外は、猫の避妊は必要不可欠と、本にはありました。
現代の室内で人間と生活を共にする家族猫と野生動物とを同じ基準で考えることは無理があるようです。
それに、避妊をするときとしないときの猫の心身への影響を比べたら、避妊した方がはるかに負担が小さいとも書かれていました。

じゃあ、手術しようということになったのですが、複数の猫と暮らすことのメリットについても本には書かれていました。
近年の研究で、猫は社会性に富み、複数で暮らす方が感情豊かになり賢くもなるとわかっていると。
そのため1回だけ出産させて、親子で暮らすお宅もあるのだとか。

では、ウチはどうする?

もし1回出産させるとなると、お見合いということになるの?
ゆめちゃんはミックス(血統書はない)のだけどできるの?
外に出てゆめちゃん自身が探す? 交通量の多いこの住宅街で?

それにきっと複数生まれるから仔猫は受け入れてくれる人を探さないと。
それも私たちの責任だから。

など話し合っていたのですが・・・盲点でした・・・

「ゆめが産んだ子どもは全部ウチで飼う。もらい手を探す必要はない」 と弟が言いだしました!
『うちの娘は嫁にはやらん』なんて昭和のドラマで見たような気がしますが、まさかこの場面でそんなセリフを聞こうとは!

でも・・・ゆめちゃんにベタ惚れの弟なら無理からぬことでした・・・(私には予想できませんでしたが)
そうは言っても、やはりここは引けません。

いや、猫は多ければ一度に4~5匹は産むのだから、それを全部ウチで、というのはムリだよ。それで本当にちゃんと世話できるの? 責任は果たせるの? 

何度か話し合って、出産は諦めることになりました。


猫は性別を問わず、早ければ生後6ヶ月くらいで発情期を迎えるので、避妊の時期は生後6~10ヶ月がよいそうです。

ゆめちゃんをお迎えした時点で生後7ヶ月くらいでした。
時期としては丁度いい頃なのでしょうが、お迎えしてから2ヶ月足らずということが気になりました。

環境の変化に弱い猫に、次から次へとストレスを与えるのはどうなの? 
この家の生活に十分慣れてからの方がよくない?

もう少し様子を見ようか? と話した矢先・・・

突然その日が来てしまいました。

あれ? 何か、様子が変。ソワソワというか部屋中をウロウロするというか。
なんだろう・・・と思っていると、鳴き声がどんどんおかしくなっていきました。
普段と全く違う鳴き方も気になりましたが、何より驚いたのは、とにかく声が大きい! ということでした。

『恋鳴き』と言うそうですが、名前のようにきれいなものではありません。断末魔の悲鳴とでも言いたいくらい大音量で苦痛に満ちた声。聞いていて胸が痛むほどでした。

それに動き方も変でした。私に擦り寄って来たのですが、普段の、甘えて足にスリスリする様子とは明らかに違います。
窓の方を見る、その目も全く違いました。

『発情した猫にパートナーをあたえないのは空腹の猫に食事を与えないのと同じくらい残酷な行為』
『発情期の度に、激しい苦痛に耐えなくてはいけない』と本にありましたがそれを目の当たりにしました。

発情はまさに種の保存、動物の本能なのだと思い知らされました。

もう生後9ヶ月・・・避妊の時期は6~10ヶ月がいいとあったのに。
これは本能なのだ。待ってはくれないのだ。
慣れてからとか、自分たちの都合の良い日に予約をとか、言ってる場合ではなかった・・・!

ゆめちゃんの背中から腰にかけて、さすったりトントンと軽く叩いてみると少しは落ち着くようでしたが、すぐにまた鳴き始めます。
何度も何度も繰り返しました。
こんなに辛そうなのに、パートナーが現れないとこれが最低でも2週間は続くのか・・・そんなに長引いて大丈夫なの?!

すがるような気持ちで病院に連絡すると、幸い空きがあり、早いうちに手術できることになりホッとしました。


弟が病院に連れて行ったので詳しい様子はわかりませんが、手術は無事終了とのことでした。が、雌猫は経過観察のため入院が必要です。
漠然とした不安が消えませんでした。

退院時に迎えに行ったのも弟で、私は家でゆめちゃんと再会です。
ゆめちゃんは傷口を固定するため、そして舐めたりしないよう、サポーターをしていました。お腹を切っているのだから当然ですよね。

でも私はそのサポーター姿に驚きました。
細い! ふわふわの毛が押さえられるとゆめちゃんはこんなに細いの・・・

ブランケットの側にキャリーバッグを置くとゆっくりゆめちゃんが出てきました。
普段ならすぐ出てきますが、この時は足に力が入らない様子で、ヨロヨロしながらゆっくりとブランケットの中央に向かいました。

やっとブランケットに四肢を投げ出すように横たわると、目を閉じぐったりしています。
あんなに元気なゆめちゃんが・・・ショックでした。

どうすればいいのかわからず、でもなんとか励ましたくて、頭を撫でようとしたらフイと頭を振って拒否されました。
全身から「触らないで」オーラ・・・ヨロヨロと立ち上がり、私から離れようとします。

「ごめん! もう触らないから。私が向こうへ行くから」
私が離れるのを見てからブランケットに座り直しました。

これまでは順調に打ち解けて、仲良くなれていただけにこたえました。
胸が痛み、ひしひしと感じる罪悪感。

ごめんね、ごめんね。痛かったよね。辛かったよね。
人間の勝手な都合でこんな目に遭わせて。でも今回だけ許して。
もう絶対ゆめちゃんを傷つけるような事はしないから。気持ちよく、安心して暮らせるようにするから。絶対に幸せにするから。

本当は、ブランケットを掛けてあげたかったのですがそれすらもできず・・・

部屋を温めるくらいしかできないことを歯痒はがゆく思いながら、それでも少し離れた場所からできるだけゆめちゃんを見ていました。

やがてごはんの時間になって。食べられるかわからないのでいつもの缶詰ではなく、おかゆのようにドロッとしたごはんをあげてみました。
ゆっくり、ゆっくりペロペロと舐めています。
よかった、食べてくれた。

次の日にはいつものごはんも少しあげてみました。食べる量はいつもと同じというわけにはいきませんでしたが、大丈夫、食べてる!
ゆっくりとですが、日ごとに元気になっているのがわかりました。


ようやく抜糸の日が来て、今度は私が連れて行きました。

先生とナースを覚えていたのか部屋の様子を覚えていたのか逃げ出しそうに。ナースに押さえられても無言で体をひねったり向きを変えたり、人の手から逃げだそうとじっとしないのでなかなか抜糸ができません。

自分より何倍も大きな人間が複数周りを取り囲んでいるのです。
恐怖で声も出ないほどだったのでしょう。それでも必死に抵抗します。

「こっち見て。私はここにいるよ。これが終わったら帰るからね。もうちょっとだけ我慢してね」とかなんとか・・・そんなことしか言えない自分が情けなかったです・・・


なんとか無事に抜糸を終えて、私は再び心に誓っていました。
絶対幸せにすると。
一緒に遊んでたくさん撫でて、グルーミングに爪切りや歯磨き、トイレのチェックや掃除もがんばる。
ウチに来たことを後悔させないよう、信頼を取り戻せるようにがんばる!!


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


参考書籍:イラスト図解 室内ねこ くらす&育てる  日東書院
監修 松原ペットクリニック院長 岩富俊樹   著者 たまき みけ
(敬称略)




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