知床周回シーカヤックの旅 第3章

知床半島周回シーカヤック2日目が始まった。知床岬を超え半島の反対側に行く日だ。

朝食を食べ(何を食べたか覚えてない)、ツェルトを撤収し、また海にでる。

半島を常に右手に眺めながら、漕ぎ進む。

漕いでいて感じることがある。船がスイスイ進む時と進まない時があるのだ。

先輩もこれを感じていたらしく、話していたら、潮の流れのせいじゃなないか。という結論に至った。

潮の流れに沿って進んでいるときは緩やかな下り坂を自転車で進むような感覚で簡単に進んでいく。しかし、潮の流れが変わり、逆向きに進むようになると、船が急に重たくなる。
本当に重たいので、船が浸水しているのではないかと思って、船内を点検するほどだった。

サバイバル旅なので、この日も食料を確保しなくてはならない。魚が集まっているところがあれば、竿を出す。 魚が集まるところというのは熊も集まるところであるので、かなり警戒しなくてはいけない。

上陸する前に大声を出し、人間二人がいるから来ないでねと熊たちに伝える。(知床の上陸禁止エリアには侵入していません。)

無事本日の食料を得てどんどん漕ぎ進む。

ついに知床半島周回の醍醐味、知床岬越えだ。

だんだんと右手に見える半島の山が低くなっていく。半島の先端に立っている赤と白の灯台が近づいてくる。
地の果て感がすごい。右手に見えていた長く続く半島は急に短くなり、灯台が立っている小さい島のようになる。半島の頂点から陸側を見ているので当然のことではあるが、ついにここまで来たという感じだ。

知床岬を無事超え羅臼側へ入った。羅臼側へ入ると、水深が浅くなった。水深の浅い岩場が水路でできた迷路のようになっていて、その中をさまよいながら漕ぎ進む。

しかし、ついに水路でも船の底がつき、シーカヤックから降りて、船を持ち上げて進むことになった。引っ張る船はとても重い。シーカヤックだけでも、30kg近くある上にそれにキャンプ道具や、食料の魚などが積んであるので、一人で持ち上げるのは不可能だ。

そのため、2人で1艇ずつ運ぶ。

浅い岩場を進んでいると、足元にプチプチした海藻があった。海ぶどうの類なのだろうか。食べてみたら、プチプチして塩味で美味しい。食べて大丈夫だったかどうかは不明。でもまだ生きてるから大丈夫。

知床岬越えを果たし、ついに羅臼側へ出た。急いで漕いでしまうとゴールについてしまうので、岬越えをしてしばらくしたところでキャンプすることになった。

海岸の奥まったところに砂地の平坦な場所があったので、そこをキャンプ地とする。

前日のごとく、ツェルトを立てて寝床を用意する。テントのフライなどは出番はなくシーカヤックに格納されたままだ。

先輩は相当釣りを楽しみにしていたらしく、宿泊地についてからも、魚を探して釣りをしに行っていた。僕の竿で。初日に僕が先輩の竿を折ってしまったばっかりに、思うように釣りを楽しめていなかったようだ。僕はテント場で留守番をし、先輩は釣りに出かけるスタイルになった。

釣りを十分に楽しんだ先輩がテント場に帰ってきた。僕のルアーのついた仕掛けをなくしたそうだ。マスがヒットしたが糸が切れたらしい。僕は先輩の竿を折っているので、ルアーを無くされたくらいで怒る立場にない。

一服した後、先輩が、海岸に落ちている木の棒を地面に向かって投げる練習をしだした。「これで魚獲れないかな」と言っていた。釣りだけでは飽き足らず、ついには魚を突こうというのだ。残念ながらこれは実現しなかった。

先輩と2人で、テント場(正確にはツェルト場)で夕食の準備をしたりしてまどろんでいると、岩場の陰に動く影が見えた。

知床半島は人より熊の方が多い。熊に出くわす可能性の方が高いのだ。

その影はどんどんこちらに近づいてくる。熊かとドキッとしたがどうやら違う。
「人」だった。

安心しすぎたのか、人であることにびっくりしたのか結構なボリュームで「あ、人だ」と言ってしまった。このフレーズを口にすることは今後ないかもしれない。

一人で現れたその人の見た目は長髪で細身で女性かと思ったが、違った。長髪で細身で裸足でビニール袋に食パンだけ持った、アメリカ人の男性だった。

残念ながらその人の名前は忘れた。マークだったか、ジョンだったか、ポールだったか、結構ありがちな名前だった気かする。マークだったと思うので、ここからはその人のことをマークと呼ぶ。

それにしてもツッコミどころが満載だ。

まずなぜ裸足なのか。マークはアメリカから来たらしい。東京に飛行機で降り立ち、そこからヒッチハイクで知床まできたというのだ。どこから裸足なのかと聞いたら、東京かららしい。アメリカからの飛行機の中は靴かサンダルは履いていたということだ。東京がマークに何を思わせたのかわからないが、インスピレーションというやつなんだろうか。
それにしても、海岸を裸足で歩くなんて、危険すぎるだろう。

なぜ、食パンの入ったビニール袋一つぶら下げて海岸沿いを歩いているのか。
マークはいわゆるバックパッカーでバックパックは持っているらしい。海岸を歩いていたらそのバックパックが重く感じたので、途中で置いてきたというのだ。

食パンを入れていたのは単に食料が必要だかららしい。なぜ食パンが食料なのか聞いたら一番コスパがいいかららしい。どうりで細身?なわけだ。

荷物を持たずに知床を裸足で歩くなんてイカれた外人だ。

移動にもお金をかけたくないらしく、基本ヒッチハイクで移動しているらしい。しかし、本州から北海道に来るにはどうしても海を渡らなきゃ行けない。
お金をかけずに北海道に行くにはどうしたらいいかマークは考えた結果、青森の漁船に声をかけて北海道まで連れてってほしいと頼んだそうだ。
そもそも青森の漁船は北海道で漁をしないだろう。
仕方なくフェリーに乗ったらしい。

マークはお金がないので、日本に来てから食パンしか食べていないらしい。ちょうど晩飯にマスを焼いていたので、あげたら全部食べやがった。半身全て。先輩と私はマスを食べ飽きていたのでちょうどよかったけど。

小一時間マークとおしゃべりした後、マークはありがとうと言って知床岬の方へ歩いて行った。裸足で。

謎の外人が現れて、一瞬3人になったが、すぐ2人になった。

明日も朝早いので、ほぼ外のツェルトで寝ることになった。
今晩は蚊の量が半端ない。

イかれた外人も現れた知床の旅も明日で終わる予定だ。

この旅がすんなり終わるはずもなく、クセの強い終わり方を迎えることになる。

続く。

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