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環論入門part2 イデアル、部分環、整域

※part3を投稿するかどうかはわかりません
※前回の記事はこちら
※間違いがあれば教えてください

2.1.定義

この節では、イデアル部分環整域の定義を一気に述べる。これらの定義はすこし似ているため、それぞれを比較しながら学習してほしい。

前回の記事でも述べたが、環Rは零環でないとする

定義1
集合Rは演算+と×に関して環をなしているとする。+に関してアーベル群であり、かつ×で交換法則が成り立つとき、Rを可換環という。

定義2(イデアル)
①環Rとその部分集合Iに対し、次の2条件が成り立つときIを左イデアルという。
(i)a,b∈I⇒a+b∈I
(ii)a∈I, r∈R⇒ra∈I
②環Rとその部分集合Iに対し、次の2条件が成り立つときIを右イデアルという。
(i)a,b∈I⇒a+b∈I
(iii)a∈I, r∈R⇒ar∈I
③環Rとその部分集合Iに対し、上記の条件(i)-(iii)が成り立つときIを両側イデアルという。

Rem
Rが可換環であれば、すべての左(右)イデアルは両側イデアルになる。これより右や左の区別が不要となるため、単にイデアルと呼ぶ。

定義3(部分環)
環Rとその部分集合Sに対し、次が成り立つときSを部分環という。
(i)a,b∈S⇒a+(-b)∈S,ab∈S
(ii)1∈S(ただし1はRの乗法における単位元とする)

Rem
部分環の定義(i)から、環Rを加法+についてのアーベル群とみなすと、Rの部分環Sは+に関してRの部分群であることがわかる。(これより、0∈Sだとわかる)

Rem
イデアルの定義から、イデアルには0が必ず含まれることがわかる。対して、部分環の定義から、部分環には0,1が必ず含まれることがわかる。

定義4(整域)
可換環Rに対し、次の条件を満たすときRは整域であるという。
(i)a,b∈Rに対し、ab=0⇒a=0またはb=0

Rem
環Rとa∈R\{0}に対し、ab=0となる元b∈Rを右零因子という。同様に、ba=0となる元b∈Rを左零因子という。Rが可換環なら右零因子と左零因子は一致するから、単に零因子という。この言葉を使うと、定義4の整域の定義は次のように書き換えられる;
「可換環R上の零因子は0のみ」

体の定義も述べておく。

定義5(体)
(零環でない)環Rに対し、次が成り立つときRをという。
(i)0と異なる任意の元a∈Rに対し、ab=ba=1となる元b∈Rが存在する。

Rem
定義5に出てきたbを(×に関する)aの逆元と言い、a⁻¹と表す。


2.2.イデアルの性質

命題1
可換環Rの2つのイデアルI,Jに対し、I∩J, I+J, IJはいずれもRのイデアルである。ただし、I+J:={i+j|i∈I,j∈J}、
IJ:={i₁j₁+i₂j₂+...+iₙjₙ|i₁,i₂,...,iₙ∈I, j₁,j₂,...,jₙ∈J}である。

証明
(i)I∩Jはイデアルである
∵a,b∈I∩Jとおくと、a,b∈Iかつa,b∈Jであり、I,JはRのイデアルであるからa+b∈Iかつa+b∈J。よってa+b∈I∩J。また、r∈Rに対しar∈Iかつar∈Jとなるため、ar∈I∩Jが成り立つ。

(ii)I+Jはイデアルである。
∵a,b∈I+Jとおくと、a=i+j, b=i'+j'となる元i,i'∈Iとj,j'∈Jが存在する。I,Jはイデアルであるからi+i'∈I, j+j'∈Jとなるため、a+b=(i+j)+(i'+j')=(i+i')+(j+j')∈I+J。さらにr∈Rのとき、ir∈I、jr∈Jとなるからar=(i+j)r=ir+jr∈I+J。

(iii)IJはイデアルである。
∵a,b∈IJとおくと、a=i₁j₁+i₂j₂+...+iₙjₙ, b=i'₁j'₁+i'₂j'₂+...+i'ₘj'ₘとなる元i₁,i₂,...,iₙ,i'₁,i'₂,...,i'ₘ∈I、j₁,j₂,...,jₙ,j'₁,j'₂,...,j'ₘ∈Jが存在する。これより、a+b=i₁j₁+i₂j₂+...+iₙjₙ+i'₁j'₁+i'₂j'₂+...+i'ₘj'ₘ∈IJ。また、Jはイデアルであるから、j₁r,j₂r,...,jₙr∈Jが成り立つので、ar=(i₁j₁+i₂j₂+...+iₙjₙ)r=i₁j₁r+i₂j₂r+...+iₙjₙr∈IJ。▢

問1
(1)命題1に関して、I∩JはIとJに含まれるイデアルのうち最大のものである
(2)命題1に関して、I+JはIとJを含むイデアルのうち最小のものである
(3)IとJが可換環Rのイデアルであるが、I∪Jがイデアルとならない例を挙げよ


命題2
可換環RのイデアルIについて次が成り立つ;
「I=R⇔1∈I」

証明
1∈RよりI=R⇒1∈Iは明らか。また、イデアルIはRの部分群であるからI⊂Rは常に成り立つ。よって、1∈I⇒I⊃Rを示せばよい
任意の元r∈Rに対し、Iはイデアルであるからa∈I⇒ar∈I。仮定より1∈Iだからa=1を代入すると、1×r=r∈I。まとめると、r∈R⇒r∈Iが導かれたため、I⊃R ▢

命題2から次のことがわかる;

命題2の系
可換環RのイデアルSがRの部分環でもあるとき、S=Rとなる。

証明
SはRの部分環であるので、1∈S。よって、命題2よりS=R。▢


命題3(単項イデアル)
可換環Rと元a∈Rに対し、(a):={ar|r∈R}はRのイデアルである。

証明
(a)の任意の元をb,cとすると、ある元r,r'∈Rを用いてb=ar、c=ar'が成り立つ。r+r'∈Rのため、b+c=ar+ar'=a(r+r')∈(a)。また、s∈Rに対しrs∈Rとなるためbs=(ar)s=a(rs)∈(a)となる。▢

定義6
命題3で定義されたイデアル(a)を単項イデアルという。

Rem
(0)={0}、(1)=Rである。

命題4
有理整数環ℤの任意のイデアルは、単項イデアルで表される。

証明
ℤ上の任意のイデアルをZとする。(a∈Z⇒-a∈Zであることを考慮したうえで)Z上で最も小さな正の整数をaとする。すると、Z上の任意の元bはある整数qと0≦r≦a-1を満たす整数rを用いてb=aq+rと表される。
ここで、a∈Z、q∈ℤだからaq∈Zとなることから、b-aq∈Zだとわかる。すなわちr∈Z。rの定義からrは非負整数であり、仮にrが正の整数ならばaの定義(Z上で最も小さな正の整数)に反するため不適。すなわちr=0だとわかる。以上から任意のZの元bはb=aqと表されるので、Z=(a)が導かれた。▢

定義7
可換環Rの任意のイデアルが単項イデアルで表されるとき、Rを単項イデアル環という。さらに、Rが整域でもあるとき、単項イデアル整域といい、PIDと略記される。

Rem
有理整数環ℤはPIDである。


2.3.整域の性質

命題5
Rが体ならばRは整域である。

証明
a,b∈Rでab=0かつa≠0の場合を考える。Rは体であるのでaの乗法×に関する逆元a⁻¹が存在し、a⁻¹a=1が成り立つ。これよりab=0の両辺の左側からa⁻¹をかけるとa⁻¹ab=a⁻¹×0、すなわちb=0を得る。▢


命題6
Rが整域でSがRの部分環ならば、Sも整域である。

(証明は問2として各自にゆだねる。厳密に議論をしたい方は、部分環が環であることから証明せよ)


命題7
Rが整域ならば、R[x]も整域である
※多項式環R[x]の定義はこちらの記事を参照

証明
F(x),G(x)∈R[x]\{0}に対しdegF(x)=m, degG(x)=n(m,nは非負整数)とする。言い換えると、F(x)のm次の係数a∈RとG(x)のn次の係数b∈Rはどちらも0ではない。
ここでRは整域である、つまりR上の零因子は0だけであるから、a,bはいずれもRの零因子でなはいことがわかる。よって環論入門part1.1の命題5(ii)からdeg(F(x)×G(x))=m+nだとわかり、F(x)×G(x)≠0を得る。▢

以上

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