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冲方塾 創作講座19 講評⑦解決する

※冲方塾の第八回講座の録音データがマシントラブルで消失したとのことで、今回の講座だけ当時の資料を参考にした書き下ろしとなります。
※サミット勢のデジタル力のなさよ。今後必ずや改善して参ります。

 前回の課題は、「解決」の具体例を探すことでした。
 実際に解決されたことがらを、「命題・反論・解決」の段落に分けて書く。
 当然ながら、「正しい命題」が「正しい反論」を受けて「正しい解決」が導かれる必要があります。なんだかよくわからないけど、どうにかなった、ではいけません。
 またもちろん、解決策であって、解決そのものでないものもあります。そうした試論、仮説、提言なのか、現実にもう解決されたのか、区別して書く必要があります。

 では課題の講評から参ります。

■1
背景説明 実業家である孫正義は、自らに『一日一つ、十五分で何か一つ発明をする』という課題を自分に課していた。

命題 一日一つ、十五分で何かを『発明』する。

反論 発明のアイデアが何も浮かばない。

解決 十五分で何かを発明するための『発明方法』を発明する。

解決説明 孫正義が発明した発明方法は、問題解決型発想法、逆転型発想法、複合連結型発想法の3つを五分ずつ行うというものであった。問題解決型発想法とは、日常の中で不便だな、困ったな、という問題点を解決するための発想

方法 逆転型発想法とは、例えば冷蔵庫を眺めた時に、『冷蔵庫で温めてみたら逆に面白いんじゃないかな?』という冷蔵庫に真逆の特徴を持たせてみるという発想方法。
複合連結型発想法とは、辞書などを適当に開いてみて、一見無関係な異なる単語同士の意味を接続してみるという発想方法。孫正義は複合連結型発想法で『関数電卓』『辞書』『スピーチ』の3つの単語から『音声付き多言語翻訳機』を発明し、特許を取得した。

■講評
 こんな課題を設けていたんですね。
 段落がはっきり分かれており、命題もぶれず、反論も解決も明らかです。
 ちなみに、この発明方法というのは、論理的な解決ではなく、習慣化だということに注意して下さい。とにかく何か思いつくため、必ずそうなるよう仕向ける。この発明方法はいずれも、労力を要しません。ルールがあり、材料は周囲にあるもの。問題はいつやるか。前回の講義でお話しした、ラジオ体操と同じです。
 みなさんにも出来ることですので、興味がおありの方はトライされてはいかがでしょう。
 さて次です。

■2
◇命題と反論
「鈴木会長、インド最大の自動車メーカーであるタタの会長が、インド版大衆車の構想を
発表しました。『1台のバイクに無理やり3~4人で乗るような危険運転をなくすため、10万ルピー(日本円で約28万円)で買える車を計画している』とのことですが、実現可能だと思われますか?」
ある経済誌記者の問いに、インドで圧倒的シェアを誇る自動車メーカーsuzukiの鈴木会
長は答えた。
「非現実的な話だと思います。ウチもギリギリまでコストカットをして安価で販売してい
ます。それでも一番安い車で、20万ルピーですから」
この鈴木会長の言葉から、「タタの新しい車は、エンジンもブレーキもオプション仕様
」というジョークまで生まれたが――

◇解決
2008年1月、デリー自動車EXPOで「タタ・ナノ」が発表された。助手席側のドアミラーなし、ワイパーは1本のみ、タイヤホイールを止めるナットは3本、ラジオやエアコンはオプション、ABSもエアバッグもなし、トランスミッションは4速MTのみという、あらゆるものを削り、節約した仕様だが、売価10万ルピーの、まぎれもない世界最安車だった。
しかもプロモーションには、先の鈴木会長の「10万ルピーの車は非現実的」という発言
を利用。鈴木会長も、「(少なくとも)外見は立派な車であり、相当に売れるであろう」とコメントせざると得ない結果となった。

◇以下余談(課題からそれますが、上記以降の話です)
「タタ・ナノ」はその後――
発表後の原材料価格の高騰により、生産コストが販売価格を上回ってしまい大赤字。ま
た、ガソリン価格の値上がり等の環境変化や、販売した車両が火災事故を起こしたことも
あり、販売台数は伸び悩み、初代「タタ・ナノ」は、2016年4月に販売を終了した。
フルモデルチェンジした二代目の販売価格は19万9000ルピーとなった。
一方のsuzukiは、順調にマーケットシェアを拡大中。

■講評
 こちらもビジネスの話題ですね。企業努力というのは、命題と解決の宝庫です。
 命題と反論が合体しているので、これをきちんと分けることで、筋道をはっきりさせることが重要です。
 命題は「危険運転をなくすため、10万ルピーの車を計画する必要がある」
 反論は「ギリギリまでコストカットしても20万ルピーまで下げるのが限界」
 解決は「コストカットの対象ではなかった部品さえもカットすることで10万ルピーにまで下げた」
 というふうに、段落を意識する。
 これらに詳説を加えるとして、まずは柱をもっとはっきりさせましょう。

■3
命題
「プロレスとはスポーツである」

反論
「プロレスは技をわざと受けたり、ロープを振った相手が都合よく戻ってきたり、とヤラセの節がある。またかつての所属選手が、試合の勝敗やおおよその流れを示した『ブック』と呼ばれるものが存在すると告発したこともある。そんなものがスポーツであるはずがない」

解決
「まず第一にプロレスとは興行であり、エンターテイメントショーでもある。プロレスラーは観客席の最後列の観客にまで見えるように、技を美しく、力強く、映えるように、魅せなければならない。そのために避けられる場面であったとしても真っ向から相手の技を受け止めなければならない場面があるし、リングを大きく使って技を披露するのである。
また、選手と選手が競い合い勝敗を決する競技において、その勝敗が『ブック』によって決められていると知った貴方は『騙されているのだ』と思い怒りを覚えてしまっただろう。
しかし、スポーツでも事前に行われる競技の流れが事前に決まっているものもある。
例を挙げれば、フィギュアスケートは行う演目を事前に決めてから演技を行うものもある。選手たちは事前に演目が決められているからといって、演目通りに演技できるとは限らないし、演目通りに演技をするために練習をするのである。
そしてフィギュアスケートはスポーツであると評価されている。プロレスもまた、事前に流れが決められている試合であっても、スポーツと言えよう。以上のことからプロレスはスポーツであると言える」

■講評
 ちょっとこれは「解決」ではないかな。
 反論に反論していて、解決になっていない。
 まず命題ですが、プロレスがスポーツでなければならない理由がふくまれていません。さらに反論でも、解決でも同様です。
 なぜプロレスがスポーツである必要があるか? 先の「危険運転をなくすため」というような理由がなければ、単にそれをスポーツと定義するかどうかという問題となり、解決ではなくなります。たとえば、
 命題 プロレスラーの地位向上のためにスポーツであると主張すべき
 反論 だが勝敗が演劇的でありスポーツの原則にそぐわない点がある
 解決 必ずしも勝敗が決まっていないトーナメントで、技のかけ合いをシビアなポイント制にした……云々。
 このような感じにすると解決になります。

■4
広告代理店のクリエイティブディレクター、リー・クロウとAppleのスティーブ・ジョブズの話
広告とは、限られた時間や空間の中で、印象に残すことが大切である。そのために伝える情報を絞ることで、狙った印象を正確に届けることができる。そうしなければ、記憶に残らなかったり、どの情報が届くかわからないものになってしまう。リー・クロウには、それが分かっていたが、ジョブズは「あれもこれも詰め込みたい」と言っていた。

命題
・リー・クロウが考える、伝えるべき情報を絞った広告をつくること

反論
・ジョブズは、わざわざ広告をつくるのだから、機能や思想など、出来るだけ多くの情
報を伝えたいと思っている

解決
・ジョブズに、情報が多過ぎる広告が何を意味するのか、代替する行為で体感しても
らい、伝えるべき情報を絞ることの大切さを、理解してもらう

・そこで、リー・クロウは、5枚の紙を丸め、ジョブズに向けて一度に投げた。
・ジョブズは、1つしか取ることができなかった。
・「広告とは、そういうものだ」と、リー・クロウは言った。
その後30年以上、リー・クロウとAppleの関係は続いた。

■講評
 何が命題で、どう解決されたかはわかりますが、これもちゃんと言葉を抽出し、段落に分けましょう。何のためにそうするのかといえば、みなさんの訓練のためです。
 命題 広告は、伝える情報が多すぎると何を意味しているかわからなくなる
 反論 広告に可能な限り情報を詰め込みたいクライアントがいる
 解決 そのクライアントに紙を丸めたものを五ついっぺんに投げて受け取らせることで、情報が多すぎるとはどういうことかを具体的に示し、理解を促した

 これらが柱ですね。
 反論というより、命題が理解できない人に、理解させる。その人自身に問題を自覚させる。感情的な論点による解決といえるでしょう。「広告費を出すんだから、なるべく多く効果を得たい」という反論に対し、「結局はそんなに伝わらないし、一つのことを確実に伝えるほうが大事」と理解させる。
 もっと段落を意識することで、それこそ大事な情報を抽出する癖をつけましょう。

■5
命題:毎日昼休みにシャワーを浴びたい
反論:社内にシャワールームが無いし、近隣に銭湯も無い
解決:近くのスポーツジムに通って、運動ついでにシャワーを浴びるようにした

■講評
 段落がしっかりしています。そして命題も反論も解決も明白。
 今回の課題では、これくらいシンプルに抽出してのち、詳しいことは後述するよう心がけましょう。
 なお、なぜシャワーを浴びる必要があるか、という点も書いてほしかったですね。
 またスポーツジムは仕事中に行くところではない、という考えをひっくり返してそうした、ということでしょうか。シャワーのためにずいぶんな出費である印象で、なおさらシャワーの重要性を命題に盛り込んでほしかった。

■6
暑くなってきたから扇風機を買わないと
でも家にはちいさい子供がいるから羽で手を切ったら大変!買えないな~
そうだ!ダイソンの扇風機なら羽がないから、子供が小さくても安心だ!
※ダイソンの広告みたいになってしまった。

■講評
 こちらは背景と命題に理由がしっかり盛り込まれています。暑い、子供がいる。
 そして解決してくれるものと出会う。
 広告みたいという、この方自身の指摘がありますが、それだけシンプルに命題から解決に至る筋道が明らかであるということです。
 小説を書くとき、あるいはエッセイや論文でもいいですが、まずこれくらいシンプルに筋道をつけてから書く癖をつけましょう。筋道がわかりやすいものほど、豊かな描写を添えても、先ほどの広告における情報の話ではありませんが、混乱させず伝えることが可能になります。

 他にも多くの課題提出がありましたが、ほぼビジネスに関する話題でした。
 重要なのは、段落に分けることと、要点を抽出することです。
 たとえば小説の登場人物の動機と行動を考えるとき、こうした訓練が生きてきますし、ご自身の日常生活においても同様です。
 なお質問がきていますので、ここで回答します。

■質問
冲方先生は普段どのようなところに情報にアンテナをはられているのでしょうか。前回の授業で、「1980年代の人質交渉の原則」「カジノのドン・ジョンソン」「ラジオ体操の起源」「ゴールデンウィークの成り立ち」「死のクレバスの話」「道化と王国の土」など、多岐の分野の話を具体例でしていただきました。とても興味深かったです。自分の知識や趣味が偏ってしまいがちな自覚があるので、先生が普段どこにアンテナをはられているのか、あんなに幅広い分野のことを知っているのか、不思議に思いました。

■回答
アンテナをはる、というのは、常に同じ媒体や人物に着目して、情報を漏らさず手に入れよう、ということでしょうか。
もしそうであるなら、特にアンテナははっていません。未知のもの、新しい考え、意外な話題は、どこにあるかわかりませんので、常にうろうろ探し回りますし、目の前にいる人間にはなるべく多く質問をします。
アンテナというと、個人的には、主体がどっしり腰を据えて動かず、面白いもののほうからやって来るのを待つイメージがあります。
漂流物が何か来ないかと波打ち際で突っ立っているイメージというか。むしろそういう停止した状態を避け、さっさと自分から海に飛び込んでいくことを第一に考えています。


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