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冲方丁 実作集

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ここでは実作例として、過去に発表した作品のうち、書籍等に掲載されていないものを主に公開します。ルビなどの表現については検討中のため、しばしば修正を加えるかもしれませんが、どうかご…
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記事一覧

マイクラ紀行小説 あの小さいやつ

 彼はとうとう全てを掘り終えると、半日ほどかけて山の高台に戻り、自分がなしとげたものを見渡した。壁に囲まれた四角い穴であり、階段であり、井戸であるものだった。夜になっていたが、昼のように輝いていた。  光が多すぎるな。彼は口に出して言った。暗いほうが綺麗だ。やっぱり壁の中は暗いままのほうがよかった。  だがいたるところに光がなければならないことはわかっていた。それがルールだった。彼自身が決めたルール。本当にそうなのか、ときどきわからなくなるが、守ることに意味があると信じること

XY ランジェリー・コラボ企画

 ランジェリーで物語を、という試みのもとで書かれた二つの掌編です。  デザイナーからランジェリーのコンセプトを詳しく伺い、ある女性の姿が浮かび上がるような文章作りを心がけました。  実際にランジェリーを購入していただいた方に向けての掌編でしたが、ここで改めて掲載させていただきます。  前編 オンリー・ワン    有名なジャズクラブに入って記名し、受付にご祝儀袋を渡した。席次表は楽譜に重ねて印刷してあり、洒落ている分、ちょっと見にくい。楽譜の曲はナット・キング・コールの『L-

実作集につきまして

こちらのマガジンでは過去にムックやタイアップ用に書いた掌編や短編などのうち、主に本としてまとめていないものなどを、実作例としてご紹介しつつ、のちのちメイキングや自己批評などを付記したいと思っております。 noteにおける小説の掲載はまだ試行錯誤中であり、ルビや傍点などの処理もまだ検討中です。 本来の表記の形態に比べ、どのように読み味が変わるのかを確かめつつ、細々と修正を繰り返していくことになるかと思いますが、ご了承のほどよろしくお願いいたします。

未来世界遺産展について

世界的なコンセプトアーティスト富安健一郎さんの企画に、ストーリーと設定で参加したときの作品です。 未来に存在する世界遺産というコンセプトのもと、十メートルを超える巨大な絵が展示されました。 2018年の2月に依頼があり、翌月には公開という超特急スケジュールでしたが、三つの絵と向き合っての執筆は非常にスムーズでした。 三つの絵に描かれた、朝・夕・夜の三つの時間を意識しつつ、旅人が求めるものが徐々に明らかになっていく、という構成になっています。 どうぞお楽しみ下さい。 【明星

NTムック 蒼穹のファフナー短編

 こちらはニュータイプ誌の副読本『Newtype Library』が刊行された際に書き下ろしたものです。  当時は、劇場『蒼穹のファフナー HEAVEN&EARTH』の公開前後であったため、作品世界や、人物の紹介を主とする意図のもと書かれています。  また、物語上の大きな起伏をあるのではなく、主人公がある状態から別の状態へ移り変わろうとしつつも、そうはならない、というブーメラン構造にすることで、作中で主題が完結する構造になっていることが特徴といえるでしょう。  『Prefa