見出し画像

詩集『錬銀術』ができるまで

 こんにちは。塔野夏子です。
 先月26日、自分の誕生日に私家版詩集『錬銀術』を出しました。今日はその作成過程についての話です。自分がとにかく作りたくて作った本の内輪話ですが、お気が向かれましたらどうぞ。

*******

1.本は作りたいときが作りどき

 詩集『透明塔より』を出版して22年。第二詩集をいつか出したいなあという願望はずっとあった(その間、手製の薄い冊子詩集『ラボラトリ』を作りはしたが)。しかし出版するとなるとそれなりにお金もかかる。『透明塔より』を出したときは大学院生だったが、会社員時代の貯金がある程度あったのと、その当時はまだ自分が、いずれそれなりにお金を稼ぐようになるだろうという希望的観測もあったので、思い切って出費したのだった。その後、2015年に南野薔子の筆名で『硝子離宮』を出したときは、しがない非正規雇用の身になっていて、しかも「これから先自分が安定した定職につけるような気はしない」状況になっていた。ただ「出すなら今だな」感があった。もう少ししたら、親の老いに伴う問題などでエネルギーを食われてそれどころじゃなくなる予感があったからだ。なので「この判型でこのくらいの金額で出せるなら出そう」というめどを決めて、見積もりをとったら予定金額内で出せそうだったので出した。『透明塔より』の時よりはずいぶん安く出せた。
 さて、予想通り、2017年から2018年にかけて、親の老いをめぐる諸問題でかなり消耗することになり、また私の仕事や生活にも変化があったりした。しがない非正規雇用の身であることには変わりないが。ただ、諸問題が一段落して、変化した状況にも慣れて精神状態もだんだんと落ち着いてきた。それで、今年に入ってむくむくと「詩集作りたい」気分が湧いてきたのである。
 で、作りたいったって、今はちょっと出版費用を出せる感じじゃないぞ、と思ったが、そこで「出版をしたい」のか「本を作りたい」のか考えてみた。それで結局「本を作りたい」のだなということに落ち着いた。出版をしたいという夢は自費出版とはいえ二度叶えているのでもういいや、今の自分にできる方法で本を作ろう、と思ったのだった。

2.作る方法を決める

 とても安くてISBNがとれてオンデマンドで作る、という方法と、同人誌印刷で作る、という方法と二つのあいだで若干迷ったが、後者にすることにした。紙の種類を選びたかったのと、在庫を抱えて頭を抱える、というほど大量に作らなければいいや、と思ったのだった。
 同人誌系の印刷会社をそれほどたくさん見比べたわけではないのだが、西岡総合印刷Dメイトさんにした。全部自分でデータを作って校正なしの一発勝負だが、まあそこは気を引き締めてやればなんとかなるだろうと。本文用紙は淡クリームキンマリ、表紙はマット紙がいいかなとほぼ決めていたが、用紙サンプルを取り寄せて確認したりもした。判型はA5で150ページにすることを決め、1ページあたりの行数も決め、部数は予算と、在庫を抱えてもたいへんじゃないくらいの量、と考えて40部とする。

3.編集作業

 上記2.と並行してだが、中身の編集にも入っていた。
 私は年に一度、一年分の自分の詩をまとめてプリントアウトしている(最初に作るときはノートに手書きだが、それをPCで入力して一年に一つのファイルを作る)。それをファイリングしたものを読んで、詩集に入れる候補の作品に付箋をつけてゆく。まずは『透明塔より』より後の作品から読んでいったが『透明塔より』の時に入れなかった作品にも目を通し、若干の付箋をつけた。
 『透明塔より』を出してから数年間くらい、なんだか知らないが湯水のように詩をたくさん書いていた時期があった。しかし読み返すと、結構同じような表現で同じような内容を書いているものが多かった。というか、自分で読んでいても「目が滑る」感じであった。しかし、それはそれで必要な時期だったのかもしれないとも思う。自分の中の、未分化な表現衝動をある程度濾過するみたいな。
 2002年に自分のサイト「Tower117」を立ち上げ、また2005年からサイト「現代詩フォーラム」に投稿するようになって、それまでよりは「人から読まれる」ものを書くという意識が強くなったせいか、書く量は減ったが「同じような表現の同じような作品ばかりで目が滑る」状態はいくぶんましになったと思う。
 結果的に付箋をつけたものは現代詩フォーラムに投稿したものが大部分になった。自サイトに載せたもの、未発表のものにも若干ついたが。あと『透明塔より』の今はなき出版社新風舎が8号だけ出した『TILL』という投稿誌で「黄昏詞華館」という耽美詩歌のコーナーがあって、そこに毎号投稿していたのだが、1号と8号で佳作掲載になったので、その二作は入れることにした。
 で、付箋をつけた作品について、完成品のレイアウトと同じ1ページの行数に設定したワードファイルに書き出してゆく。作品一つごとに改ページ。上記にあるように一年に一度自分の作品をプリントアウトしているのでそのときのファイルからコピペすることもできるが、現代詩フォーラムに投稿している作品はそちらからコピペした。その方が作品が探しやすいので。アーカイブとしても優秀な現代詩フォーラムに感謝。
 そうやってできた掲載候補作だけのファイルをまたプリントアウトする。やはり紙で確認したい私。で、そのプリントアウトを読みながら、完成品をイメージして並べ替えながら、載せる作品を絞り込んでゆく。目次やあとがき、奥付を加えても150ページになるところまで絞り込んでゆく。掲載候補作の大部分が現代詩フォーラム投稿作で、そこでは他の方から「ポイント」がもらえたりするのだが、掲載作の絞り込みに当たっては、そのポイントの多寡より、自分が入れたい作品かどうかを優先した。正確にはわからないが、プリントアウトした作品の半分くらいは外したかと思う。
 並べる順番については、まあ感覚的に。いつからか、最初の作品と最後の作品をどれにするかは決めていて、あとはなんとなく「これは最後の方だな」「これは前半だな」とか「これとこれを並べるといいんじゃないか」とか。だいたい真ん中辺に四行連詩関係を持ってくることにして、季節の順に作品が並んだところが三箇所できて(春→夏→九月もしくは冬→春→夏→九月というパターン。秋らしい秋の詩でこれを入れようと思えるものがなかった)、あとストーリー性のあるものが固まったところもできたりして、章立てしようかなともちょっと思ったが、その分ページ数を食うよりは作品を入れたかったので章立てはなしにした。

画像1

 この、選ぶ、並べる、という作業が私は非常に好きで。これをやりたいがために本を作ったといっても過言ではないほど。その選び方と並べ方を客観的に他の人が評価したらどうかというのはわからないが、とにかくそこを好きにやりたかった。ちなみに『透明塔より』も南野薔子名で出した五行歌集『硝子離宮』もそこは好きにやっている。
 選んで、配列も決めて、そして実際に入稿するためのワードファイルに選んだ作品を決めた順番にコピペし、レイアウトを整える。そしてプリントアウトして確認。校正もこの段階でしたのだが、だいたい、現代詩フォーラムに投稿する時点や、一年分ずつまとめてプリントアウトする段階で誤字脱字関係はチェックしている(はず)ので、あまりここは手がかからなかった。現代詩フォーラムからコピペした時点で、二文字分のダッシュにしたいところが一文字分ダッシュ二つになっているのを修正したり、同じく現代詩フォーラムからコピペした時点でふりがなが反映されなくなっているのを直したり、というのが校正の主な内容だった。
 ちなみに、タイトル『錬銀術』もかなり前から決めていた。正確にいつかは憶えていないが、詩「錬銀術」を現代詩フォーラムに投稿したのが2005年だから、多分そのあたりから考えていたのだろう。
 あとがきを書いたり奥付や目次を作って最終確認したりして、ワードファイルをPDF化して入稿できる形にする。

4.表紙作成

 表紙は、パワーポイントで作ったのをPDF化して入稿することが可能だったのでそうした。もとより凝ったデザインにする気もなかったし、イラレもフォトショも持っていない(ちょっとだけ使ったことはあるけれど)ので、パワーポイントで作れるということ自体がありがたかった。
 まあ理想を云えば、出版というようなことができて、お金に余裕があれば、表紙タイトルの文字は銀色にしたかったのだが、でもまあ、絶対にそうじゃなきゃいやだというほどの話ではなかったのでそこは薄めのグレイにした(心の目で銀色にしてやってくださると幸いです)。
 表紙の写真は、1年半くらい前に、ひょんなことからネットで見つけて衝動買いした古代硝子(ローマングラス)の欠片。幅1cmくらい長さ2cmくらいのもの。端に穴があけてあるものだったので丸カンとチェーンを買ってペンダントにした。
 古代硝子は何らかの条件のもとで長い年月地中に埋まっていると銀化という現象を起こして、銀色やいろいろな色が見えるようになったりする。私の持っている欠片の銀化は本当に微妙なもので、黒いものの上において光のあたる角度によっては色彩が見える、という感じなのだが、あるときアップで撮った写真に思いのほか色がよく出ていた。
 で、詩集を出すときの表紙にこれを使おう、と決めたのだった。錬銀術というタイトルとも「銀」のところでつながるし。
 印刷所サイトの説明に従って背表紙の厚さの計算をして、周囲3mmの塗り足しを加えたサイズにパワーポイントファイルのサイズを指定して、全体を黒くして写真と文字をレイアウト。写真のdpiとかいうものの計算も初めてしたが問題なかったのでそのまま貼りつけた。

5.本ができた!

 で、えいやっと入稿。わりとすぐに「確認しました。印刷に入ります」という連絡が来た。とりあえず入稿データ作成に不備がなくてほっとした。表表紙の次と裏表紙の前には「遊び紙」を無料で入れられたので「銀ねず」色の紙を入れてもらう。
 数日後、できあがった本が届いた。開けるときはちょっとどきどきした。表紙写真、画面で見た感じよりは色が沈むのを覚悟していたが、予想以上にきれいに出ていてよかった。他も、まあだいたいイメージ通りにできたかなと思う。もっとうまいひとが作ればもっと洗練できる箇所は多々あるだろうけれど、まあ素人の自分が初めて全部自分でやったならこれで上等じゃん、と思っている。あとから一箇所レイアウトミスがあることに気づいたけれど……まあいいや。

 以上、私が作りたい本を好きに作った話である。まあ要するに本当に自己満足なのだが、しかし私がずっと大切に繰り返し読んでいる井坂洋子さんの、詩作をめぐる文章を集めた本『ことばはホウキ星』(ちくま文庫)にこんな言葉がある。
-------------
そして不思議なことに自分が面白がって、ミエをはって言うのではなく、心底面白がって書いたものなら、必ず誰かが面白いよー、と遠くからでも声を掛けてくれます。
-------------
 別に内容的にいわゆる面白いものを書いているわけじゃないけれど、私は本を作ることだけでなく、詩を書くこと自体も「面白がって」書いている。少なくとも、本におさめた作品は自分で面白がって書けたものだと思う。で、実際に『透明塔より』のときも『硝子離宮』のときも数は少ないけれど「遠くから声を掛けてくれる」方がいた。それまで交流のまったくなかった方で「よかった」とわざわざ伝えてくれた方がいた。
 それで図々しくも、今回も一応値段をつけて、買ってくださる方がいらしたらいいなあ……とも思っている次第。まあほとんどの作品は現代詩フォーラムかTower117サイトで読めるのだが、一応未発表作も少しは入ってるし、まあ私自身のセレクト、配列で紙の本になっているというところにメリットを感じる方が……いらしたらいいなあ。広く好まれる作風でないことは自分が一番よく知ってはいるが。110篇入り150ページ、送料込み1400円。ちなみにこちらからいくつかの詩が試し読みできます。もし買ってやろうという方がいらっしゃいましたらTower117サイトトップページのContactよりお名前、メールアドレス、送り先ご住所をお知らせください(いただいた情報は当該注文にのみ使用いたします)。何卒よろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?