見えないもの「尊厳」。の第十七首

短歌を始めた頃から『見えないもの』について探究するようになりました。

例えば「愛」や「情」といったような主に精神的領域に関わる事柄で、哲学的な側面をもつような人の在り様についてです。
「憎しみ」や「悲しみ」もその一例です。

空気も目には見えませんが確かに存在しています。殆どの人が言葉は違えど本質や正体を言い表せると思います。
ですが精神的領域の『見えないもの』は概念的に捉えられがちで、上手くその本質や正体を説明できないのではないでしょうか。

短歌を始める前から、そういった『見えないもの』の本質・正体を知りたかったのですが、丁度短歌を始めた頃から自分なりのアプローチや思考実験をするようになりました。

最も探究(=理解と認識の確立)に役立ったのは、『見えないもの』を言い表す言葉(単語や漢字)の成り立ちを知ることでした。
〈古の人々が人間が有する『見えないもの』を、どの様な言葉で定義づけたのか〉が大変役立ちました。それこそが「愛」「情」「憎」「悲」など『見えないもの』を表す言葉の元々の姿だからです。
漢字の成り立ちから知った元の姿を、私自身の内面にある「愛」や「悲」などと照らし合わせて、理解と認識を深めていきました。

ある出来事がきっかけで、期せずして触れた『見えないもの』があります。

「尊厳」です。

法や倫理・人道の観点からニュースや記事で使われ、憶えのある言葉です。
言葉と漠然とした意味は知っていますが、自分のなかに明確に感じる事ができずにいた『見えないもの』のひとつでした。

尊厳は誇りや矜持に似ていますが、内包している性質が全く違います。生じている根本も全く異なります。

誇りや矜持は境遇や経験により影響を受けますが、尊厳はその影響を受けません。
尊厳は存在そのものが抱く性質で、身分境遇を問わず万人万物が持っているものです。

自我や個性とも異なる『存在そのものの価値』『在ることそのものの価値』。
万象の源です。

故に “何者にも侵されず、自他から尊ばれて厳かであるべきもの” なのです。
そして ”何者の尊厳も侵してはならない“ 。
それが尊厳の揺らがぬ姿です。

自らの尊厳に触れる事は自他を大切にするきっかけになります。
尊厳という言葉の意味を知るよりも、更に実感して身につく契機になるのです。


第十七首
頼りなきこの身の奥の魂座で
不変で不動
無垢の根元
─── 音無桜花

2023.03.22.
確信の到達点で

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