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走り梅雨。の第二十七首

節気は小満。
麦が金色に色づいて麦秋を迎えようとしています。

穀雨の後、爽やかに広がりを見せていた青空もそろそろお仕舞い。梅雨を前に不安定な空模様になってきました。
走り梅雨の頃合いでしょうか。

初夏に花開いた薔薇や牡丹・石楠花、私たちを楽しませてくれた他の花々も、雨に打たれ季節の巡りのなかに移ろおうとしています。

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若い頃、雨に打たれて萎れ、茶色く様変わりする花々が苦手でした。
昨日まで瑞々しく整った輪郭を見せていた花が、ひと降りの雨で姿を変えてしまいます。


同じように、道で車に轢かれた小動物の死体にも複雑な思いを抱いていました。
嫌悪感、憐憫、悲しみ、やるせなさ………。

生命が終わりをむかえて朽ちてゆく姿に、醜さと恐怖を感じていたように思います。

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いつの頃からでしょう。
死に対する感じ方が変わりました。

朽ちた花弁や、道端で生命を終えた昆虫や小動物の死体を見ても、「あぁ生命の後先だな」と思うようになりました。
主観的な感情が抜け落ちて、客観的な自然の営みとして見るようになったような感覚です。


この変化は、年齢とともに実際の『死』に接する数が増えたからかもしれませんし、加齢とともに潔癖さが薄れたのかもしれません。
私自身の死が現実味を帯びる年齢に差しかかって、無意識に『死の恐怖』を遠ざけているのかもしれません。

理由ははっきりと判りませんが、死をことわりのひとつとして深い所で認識したように思います。

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さて、初夏の花たちは役割を終えて次の営みへ。
梅雨の花・夏の花が、それを追って開く準備をしています。

季節を眺めている私自身が、ことわりと共にある存在である事に安心しています。


第二十七首
この星が尽きぬ生命の熱量に
雨を降らせて息を入れてる
─── 音無桜花

2023.05.22. 深更詠
梅雨を前に、花と空の顔色に

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