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Forget Me Not(第5章)

これは何?
 絵を描けなくなった画家である日向理仁を中心に、湖畔で起きた失踪事件の解明を試みるお話。


第5章
「ココアを作ろうか」
「私たちのには牛乳とお砂糖たっぷりでお願い。あと、クリームもね」
「ああ、とっても美味しくするよ。持っていくから、テラスで待ってて」

そう言って私は、冷蔵庫から牛乳とクリームを取り出した。クリームは奥に押し込まれていて気が付かなかったが、消費期限が今日までだった。今夜のカクテルにも使おうかと思った。妻が喜ぶような。

「今日は良いお天気でいいわね。こんな日がもっとあればいいのに」
「そうだね。またそのうちにきっと、晴れが続く日が来るさ」

 数年前。家族の団欒。英国風の仕立ての良いスーツに身を包んだ墓守が巡回を怠らない、それはそれはきちんとした、しかるべき場所に眠らせたはずの記憶。どこから漏れ出してきたのだ?いつだって良いようにしてきたのに、何て恥知らずな。朝の光に弱く、夜の暗さには溶け込みやすい性質は亡霊と同じなのだと、だから夜には気を付けなさいと、あれほど言い付けておいたのに。

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