メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第170号「玄兎固本丸」他 ─「虚労」章の通し読み ─



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  第170号

    ○ 「玄兎固本丸」他
      ─「虚労」章の通し読み ─

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。1週お休みをいただいてしまいましたが、腎虚薬の処方の続きです。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)

 (「玄兎固本丸」 p451 上段・雜病篇 虚勞)


 玄兎固本丸

      治虚勞下元衰弱能滋陰助陽兎絲子
      一斤酒製取淨末八兩熟地黄生乾地
  黄天門冬麥門冬五味子茯神各四兩山藥微炒
  三兩蓮肉人參枸杞子各二兩右爲末蜜丸梧子
  大温酒或塩湯
  下八九十丸丹心


 斑龍丹

    治虚勞補腎蔵氣血精
    延年益壽方見身形○正傳

    
 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 玄兎固本丸

  治虚勞、下元衰弱、能滋陰助陽。

  兎絲子一斤、酒製、取淨末八兩。熟地黄、生乾地黄、

  天門冬、麥門冬、五味子、茯神各四兩。山藥微炒三兩。

  蓮肉、人參、枸杞子各二兩。右爲末、蜜丸梧子大、

  温酒或塩湯下八九十丸。『丹心』


 斑龍丹

  治虚勞、補腎蔵氣血精、延年益壽。方見身形。『正傳』
 

 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  特になし


 ▲訓読▲(読み下し)


 玄兎固本丸(げんとこほんがん)

  虚勞(きょろう)、下元衰弱(かげんすいじゃく)を治(ち)し、

  能(よ)く陰(いん)を滋(じ)し陽(よう)を助(たす)く。

  兎絲子一斤(とししいっきん)、酒製(しゅせい)し、

  淨末(じょうまつ)八兩(はちりょう)を取(と)る。

  熟地黄(じゅくぢおう)、生乾地黄(しょうかんぢおう)、

  天門冬(てんもんどう)、麥門冬(ばくもんどう)、

  五味子(ごみし)、茯神(ぶくしん)各四兩(かくよんりょう)。

  山藥微炒(さんやくびしゃ)三兩(さんりょう)。

  蓮肉(れんにく)、人參(にんじん)、

  枸杞子(くこし)各二兩(かくにりょう)。

  右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、

  蜜(みつ)にて梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、

  温酒(おんしゅ)或(ある)ひは塩湯(しおゆ)にて下(くだ)すこと

  八九十丸(はちくじゅうがん)。『丹心(たんしん)』


 斑龍丹(はんりゅうたん)

  虚勞(きょろう)を治(ち)し、

  腎(じん)の蔵(ぞう)の氣血精(きけつせい)を補(おぎな)ひ、

  年(とし)を延(のば)し壽(じゅ)を益(えき)す。

  方(ほう)は身形(しんけい)に見(み)ゆ。『正傳(せいでん)』


 ■現代語訳■


 玄兎固本丸(げんとこほんがん)

  虚労による下焦の衰弱を治し、陰を滋し陽を補う。

  兎絲子一斤(酒製)清浄なものを選び八両を粉末にする。

  熟地黄、生乾地黄、天門冬、麦門冬、五味子、茯神各四両。

  山薬(微炒)三両。蓮肉、人参、枸杞子各二両。

  以上を粉末にし、蜜にて梧桐の種の大きさに丸め、温酒または塩湯にて

  80から90丸を服用する。『丹心』


 斑龍丹(はんりゅうたん)

  虚労を治し、腎臓の気・血・精を補い寿命を延ばす。

  処方は「身形」参照。『正伝』


 ★ 解説★

 腎虚薬の具体的な処方の続きです。ここでは長さの都合で見ることできませんが、二つ目の「斑龍丹」は「身形」に解説があるとしてここで具体的な解説を省略しています。

 「身形」の章は既にいくつか項目を読んだように、東医宝鑑の冒頭の章ですね。この章は生命力全体を高めて寿命を延ばすような内容の項目が主でしたよね。それだけこの処方がその役目が高いということで、またこの腎虚薬にこれが入れられていることからすると、腎を補することが生命力を高めることにも繋がるという認識であることも読み取れます。

 なぜ「斑龍丹」と呼ばれるのか、その由来が参照先に書いてあり、なかなかおもしろいですので次号ではそちらに飛んで読んでみたいと思います。

 興味深いことに、ひとつめの「玄兎固本丸」も実は身形の章に、斑龍丹のすぐ近くに解説があるのです。なぜこちらは同様に「身形参照」と記さずに解説を書いたのか、まさか編者さんが忘れたわけではないでしょうが、理由を考えるのもおもしろいと思います。

 先行訳は「玄兎固本丸」では「陰を滋し陽を補う」の部分を省略してしまっています。

 また「斑龍丹」では、以前にもあったように参照先を「処方は前記参照」としてしまっています。「前記」だけで処方がどこに出ていたかがわかる方はよっぽど記憶力の良い方で、またいつも書くように東医宝鑑ははじめから読むだけでなく相互参照によって読むべき書でもあり、どこから読んでもよい書き方をしており、こちらを先に読む方もいるはずで、「前記」では探すのが非常に手間です。

 原文が親切に「身形を見よ」と言ってくれているのに、なぜ「前記」と変えてしまうのか、理解に苦しみます。これが逆ならわかります。原文が「前記」となっていて探しにくいから「身形参照」とするなら内容の進歩ですが、詳細な指定があるものを「前記」としてしまったら探しにくくなる点で改悪になって退歩でしょう。

 新たに何かを発表することはこれまでの業績に進歩を加えてしかるべきで、退歩させるのでは意味がありません。これも先行訳をお持ちの方は、原文ではきちんと参照先を指定してあることを認識してくださればと思います。


 ◆ 編集後記

 前号の配信後にパソコンが不調になって起動しなくなり、一週間配信ができませんでした。いまだ復調せず、古いOSがXPのパソコンで執筆配信をしています。

 年末年始にもパソコンの不調があったと書いたと思いますが、普段と違う環境だと資料の閲覧にも、また文字の打ち込みや変換にもそれぞれ時間がかかり、多大な時間と労力を要します。

 それでも当たり前になってしまった環境をたまには、意図的にしろそうでないにしろ、離れてみることもまた日常を見つめなおすよい機会になると、思いたいです。

 パソコンが復調するかどうかまだわかりませんが、メルマガは次週からは間をあけずに配信したく思っています。
                    (2016.06.04.第170号)
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