メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第171号「斑龍丹」─「虚労」章の通し読み 番外号─

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  第171号

    ○ 「斑龍丹」─「虚労」章の通し読み 番外号─

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。前号で読んだ斑龍丹の具体的な解説を読むべく、指定された
 参照先を読みます。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)

 (「斑龍丸」 p78 下段・内景篇 身形)


 斑龍丸

    常服延年益壽鹿角膠鹿角霜兎絲子柏子
    仁熟地黄各八兩白茯苓破故紙各四兩右
  磨爲細末酒煮米糊和丸或以鹿角膠入好酒〓(火羊)
  化和丸梧子大薑塩湯下五十丸昔蜀中有一老
  人貨此藥於市自云壽三百八十歳矣毎歌曰尾
  閭不禁滄海竭九轉金丹都謾説惟有斑龍頂上
  珠能補玉堂關下血有學其道者傳得此
  方彼老人化爲白鶴飛去不知所終正傳

    
 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 斑龍丸

  常服延年益壽。鹿角膠、鹿角霜、兎絲子、柏子仁、

  熟地黄各八兩。白茯苓、破故紙各四兩。

  右磨爲細末、酒煮米糊和丸、或以鹿角膠入好酒〓(火羊)化

  和丸梧子大。薑塩湯下五十丸。

  昔蜀中有一老人、貨此藥於市、自云、壽三百八十歳矣。

  毎歌曰、尾閭不禁滄海竭、九轉金丹都謾説。

  惟有斑龍頂上珠、能補玉堂關下血。

  有學其道者、傳得此方、彼老人化爲白鶴飛去、

  不知所終。『正傳』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  謾 マン、バン でたらめ、いいかげんなさま


 ▲訓読▲(読み下し)


 斑龍丸(はんりゅうがん)

  常(つね)に服(ふく)すれば年(とし)を延(のば)し

  壽(じゅ)を益(ま)す。

  鹿角膠(ろっかくきょう)、鹿角霜(ろっかくそう)、

  兎絲子(としし)、柏子仁(はくしにん)、

  熟地黄(じゅくぢおう)各八兩(かくはちりょう)。

  白茯苓(びゃくぶくりょう、破故紙(ほごし)各四兩(かくよんりょう)。

  右(みぎ)磨(ま)して細末(さいまつ)と爲(な)し、

  酒(さけ)にて米糊(べいこ)を煮(に)て和(わ)して丸(まる)め、

  或(ある)ひは鹿角膠(ろっかくきょう)を以(もっ)て

  好(よ)き酒(さけ)に入(い)れ〓(火羊)化(ようか)し和(わ)して

  梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、

  薑塩湯(きょうえんゆ)にて五十丸(ごじゅうがん)を下(くだ)す。

  昔(むかし)蜀中(しょくちゅう)に一老人(いちろうじん)有(あ)り、

  此(こ)の藥(くすり)を市(いち)にて貨(う)りて、

  自(みずか)ら云(い)ふ、壽三百八十歳(じゅさんびゃくはちじゅっさい)なりと。

  毎(つね)に歌(うたっ)て曰(いは)く、

  尾閭(びろ)を禁(きん)ぜずんば滄海(そうかい)も竭(つ)き、

  九轉(きゅうてん)の金丹(きんたん)都(すべて)謾説(まんせつ)なり。

  惟(た)だ斑龍(はんりゅう)頂上(ちょうじょう)の

  珠(たま)のみ有(あ)りて、能(よ)く玉堂(ぎょくどう)

  關下(かんか)の血(ち)を補(おぎな)ふ。

  其(そ)の道(みち)を學(まな)ぶ者(もの)の有(あ)り、

  此(こ)の方(ほう)を傳(つた)へ得(う)れば、

  彼(か)の老人(ろうじん)化(か)して白鶴(はっかく)と爲(な)りて
 
  飛(と)び去(さ)り、終(お)はる所(ところ)を

  知(し)らざるなり。『正傳(せいでん)』


 ■現代語訳■


 斑龍丸(はんりゅうがん)

  常服すれば寿命を延ばすことができる。

  鹿角膠、鹿角霜、兎絲子、柏子仁、熟地黄各八両。

  白茯苓、破故紙各四両。

  以上を磨って粉末にし、酒にて米糊をにて混ぜて丸め、

  または鹿角膠を良質の酒に入れて溶かし、梧桐の種の大きさに丸め、

  姜塩湯にて五十丸を服用する。

  昔、蜀の国に一人の老人がいて、この薬を市で売っていた。

  老人が言うには年齢が三百八十歳であると。

  日頃歌うには、

 「尾閭関を封じざれば滄海は竭き、

  九転の金丹も全て不毛である。

  ただ斑龍の頭上の珠のみが、

  玉堂関下の血を補う。」と。

  その道を学び得た者があり、この方を伝承し終わると、

  かの老人は白鶴に変化して飛び去り、

  行方もわからなくなってしまった『正伝』

 ★ 解説★

 前号の二つ目に登場した「斑龍丹」の具体的な解説です。本文にあったように参照先は「身形」、つまり東医宝鑑でも冒頭部分にある処方です。

 導入部は腎虚薬解説と同じで、使用生薬と補説がこちらに詳説してあることがわかります。

 末尾に物語が挿入されていて、蜀の国の老人がこの薬を伝えたことが説かれています。歌の部分は歌ですので細かく訳さず、歌の雰囲気を残した訳にしてあります。

 もともとこのような歌、詩はわかるものだけにわかるような謎めいた内容になっているのが常なので、詳細な訳は野暮、というよりしたくてもできないようなものなのですね。

 そして要は内丹・外丹の要訣を歌っていると言え、さらにこの処方がその成就に関わるというのがこの歌とこの処方、解説の趣旨です。

 つまり流れとしては、

  この処方は内丹・外丹の要薬である

    ↓

  これを飲むことで内・外丹的な修行が成就する

    ↓

  ゆえに長寿を達成することができる


 という流れになっていることが読み取れますね。


 この伝説の部分が製法と同様に重要なこの処方を理解運用するための要と言え、前号部分からここに立ち返ってさまざまなことが腑に落ちるという仕組みなのです。


 この補説部分を先行訳はこう記しています。


 「昔、蜀の老人がこの薬を飲んで三八〇才まで生きたという伝説がある。」


 これだけ読めば意味はわかりますが、上の原文を読んでからこれを読むと、「はぁ!?」と言いたくなるような省略ですよね。

 趣旨から言えば「伝説がある」には違いないですが、これを売っていたことから上に書いたようなこの処方の要である点、また物語としての筋、面白さ、そして図式した流れの意味などまで完膚なきまでに省略していることになります。いつもながら編者さんの意図、原文の趣旨を全く無視しており、これも絶対に削ってはいけない部分でしょう。先行訳をお持ちの方は補足してくださればと思います。


 ◆ 編集後記

 相変わらずパソコンは不調のままでこの号もXPパソコンで執筆配信をしています。通常以上に執筆や調べものに手間と時間がかかるのですが、なんとか配信までこぎつけることができました。

 次号で腎虚薬を読み終わる予定ですので、その次は別の部分を読んで息抜きをしたいと考えています。
                     (2016.06.11.第171号)
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