メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第172号「茸珠丸」他 ─「虚労」章の通し読み ─

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  第172号

    ○ 「茸珠丸」他
           ─「虚労」章の通し読み ─

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。いよいよ腎虚薬の最後の項目になりました。最後の締めくくりの薬は・・・


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)

 (「茸珠丸」 p451 上段・雜病篇 虚勞)


 茸珠丸

    治虚勞腎損兼補命門陽衰鹿茸鹿角霜鹿
    角膠熟地黄當歸各一兩半肉〓蓉酸棗仁(〓(くさかんむり従)
  黄〓柏子仁各七錢陽起石煆附子炮辰砂水飛(〓くさかんむり氏)
  各三錢右爲末以酒麪糊和丸梧子大以温酒或
  塩湯下七九十丸丹心


 陰陽煉秋石丹

       治虚勞陰陽倶虚取陽煉陰煉朝夕
       各一服服法見上須二藥相兼服得效

    
 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 茸珠丸

  治虚勞腎損、兼補命門陽衰。

  鹿茸、鹿角霜、鹿角膠、熟地黄、當歸各一兩半。

  肉〓(くさかんむり従)蓉、酸棗仁、黄〓(くさかんむり氏)、

  柏子仁各七錢。陽起石煆、附子炮、辰砂、水飛各三錢。

  右爲末、以酒麪糊和丸梧子大、以温酒或塩湯下七九十丸。『丹心』


 陰陽煉秋石丹

  治虚勞、陰陽倶虚。取陽煉、陰煉朝夕各一服。

  服法見上。須二藥相兼服。『得效』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  兼(茸珠丸の1行目)(か-ねて)そのうえ、しかも、~と、および

  須(すべか-らく~べし)必ず~しなければならない

  兼(陰陽煉秋石丹の2行目)か-ねる、かぬ 同時にいくつかの事柄を行う副詞 すべて、一括して


 ▲訓読▲(読み下し)


 茸珠丸(じょうしゅがん)

  虚勞腎損(きょろうじんそん)を治(ち)し、

  兼(かね)て命門陽衰(めいもんようすい)するを補(おぎな)ふ。

  鹿茸(ろくじょう)、鹿角霜(ろっかくそう)、

  鹿角膠(ろっかくきょう)、熟地黄(じゅくぢおう)、

  當歸(とうき)各一兩半(かくいちりょうはん)。

  肉〓(くさかんむり従)蓉(にくじゅうよう)、酸棗仁(さんそうにん)、

  黄〓(くさかんむり氏)(おうぎ)、

  柏子仁(はくしにん)各七錢(かくしちせん)。

  陽起石煆(ようきせきか)、附子炮(ぶしほう)、辰砂(しんしゃ)、

  水飛(すいひ)各三錢(かくさんせん)。

  右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、

  酒麪糊(しゅめんこ)を以(もっ)和(わ)して

  梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、

  温酒(おんしゅ)或(ある)いは塩湯(しおゆ)を

  以(もっ)て下(くだ)すこと七九十丸(しちくじゅうがん)。

  『丹心(たんしん)』


 陰陽煉秋石丹(いんようれんしゅうせきたん)

  虚勞(きょろう)、陰陽倶(いんようとも)に

  虚(きょ)するを治(ち)す。

  陽煉(ようれん)、陰煉(いんれん)を取(と)りて

  朝夕各一服(あさゆうかくいっぷく)す。

  服法(ふくほう)は上(うえ)に見(み)ゆ。

  須(すべか)らく二藥相(にやくあ)ひ兼(か)ね服(ふく)すべし。

  『得效(とくこう)』


 ■現代語訳■


 茸珠丸(じょうしゅがん)

  虚労による腎損を治し、さらに命門の陽衰を補う。

  鹿茸、鹿角霜、鹿角膠、熟地黄、当帰各一両半。

  肉〓(くさかんむり従)蓉、酸棗仁、黄〓(くさかんむり氏)、

  柏子仁各七銭。陽起石(煆)、附子(炮)、辰砂、

  水飛各三銭。以上を粉末にし、酒麺糊と共に混ぜ、

  梧桐の種の大きさに丸め、温酒または塩湯にて

  70から90丸を服用する。『丹心』


 陰陽煉秋石丹(いんようれんしゅうせきたん)

  虚労により、陰陽が共に虚する者を治す。

  陽煉と陰煉とを朝夕に一服ずつ服用する。

  服法は前述参照。

  必ず二薬を一緒に服用する。『得效』


 ★ 解説★

 腎虚薬の処方解説の最後です。ようやくここまでたどり着きました。

 前号で前の処方、斑龍丹の参照先を読んで生薬などを見ましたが、茸珠丸はそれに似た生薬が登場しており、似た系統の処方であることがわかります。そもそも初めに読んだ腎虚薬の概説には


  腎と命門と倶に虚するは、宜しく玄砺固本丸、
  斑龍丹、陰陽煉秋石丹、茸珠丸を用ゆべし。


 とあって、これらがひとつのカテゴリーに入れられていたので、構成生薬が似ているのも当然と言えば当然かもしれません。

 ふたつめの「陰陽煉秋石丹」は、ここまで読まれた方には自明でしょう、
 「陰煉秋石丹」と「陽煉秋石丹」とを同時に服用することで「陰陽」ともに補ってしまおうという発想であることもわかります。

 原文には「須(すべか-らく~べし)」という、かつて漢文の授業で習ったであろう、お馴染みのいわゆる再読文字が登場しています。これは上に挙げたように「必ず~するべきである」を意味します。
 
 ではこの文章で何を「必ずするべき」なのかと言うと、「二藥相ひ兼ね服すべし」、つまり「陰煉秋石丹」と「陽煉秋石丹」との二者を同時に飲まなければいけない、という点ですね。この点を強調するためにこの語句を使っているのです。

 なぜ同時に飲まなければいけないのかについて解説はありません。
 これについてもまた考察の範疇ですが、それはここでは措き、つまりこの薬の眼目は「陰煉秋石丹」と「陽煉秋石丹」とを一緒に服用するという点にあり、それによって狙った効果が十全に発揮されることを期しているわけです。


 これを先行訳は


  陽煉と陰煉を朝夕にそれぞれ一服ずつ服用する


 と記してはいるものの、この重要な注意書き「須らく二藥相ひ兼ね服すべし」つまり「必ず同時に服用する」の部分を省略しています。

 この文ですと、朝に陽煉を飲んで夕に陰煉を飲むという感じにも読めてしまい、原文が強調している「必ず同時に」という点が曖昧になってしまっています。

 現在の薬でも、いつどのように飲むのか、細かく指定されることがありますよね。それは薬効をより引き出すため、また誤った飲み方による危険を減らすためなど薬によって、飲み方によって違いはあるでしょうが、これによりその薬が作用を万全にきたすようにという配慮であるはずで、この陰陽煉秋石丹の記載も現在の薬の注意書きと同じと考えてもよく、原文の趣旨を正確に伝える意味でも、また実際の誤治を避ける意味でも、やはりこれは省略してはいけない部分でしょう。


 ◆ 編集後記

 パソコンは不調のまだ続いていますがXPパソコンでの執筆配信も少し慣れてき、週一配信ができています。

 ようやく腎虚薬の処方を全て読むことができました。
 次号は少し閑話休題的に、どこか別の部分を読む予定です。しばらく処方解説が続いて同じような文章を読んできたので、定型を使わないような文を読んでみたいと考えています。
                     (2016.06.18.第172号)
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