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"回る"世界で変わらないもの:特殊相対論/時計あわせ

前回は慣性系の相対性と光速度不変を原理(出発点)として新しい座標変換,Lorentz変換を作った.そこで相対速度"v"の慣性系に移る,boost変換が時間と空間を回す変換のように見えたのだった.

復習

まずはLorentz変換がどんなものだったか,おさらいしておこう.出発点は
・どの慣性系(一定の速度で運動する座標)から見ても物理法則は同じ
・どの慣性系からでも光速cは一定(光速度不変)
の二つ.これから作られる回転とboostは

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だった.(前回誤植があった.誤:t_赤>正:ct_赤) "y->ct","cosθ->γ","sinθ->βγ"と書き直すと,負号をのぞいてい二つが一致する.

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この似ているのを見て"回っている"と言ったのだった.

回転で変わらない長さと"長さ"の拡張

ものを回して,もしくはものを別の角度から見て変わらないものは何だろうか.その中の一つに長さがある.三次元空間での長さ"l"は

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で決まるから,回転変換の式を使って慣性系赤から回った慣性系青に行くと

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おぉ確かに”l_赤”と"l_青"は一致している.数式の上でもちゃんと不変なことが見て取れた.Lorentz変換の回転では,時間は変換されないからこの三次元の長さは不変だ.

ではboostで不変なものを作って,それを"長さ"と思おうではないか.光速度不変の関係からある時間"t"で進んだ光は進んだ変化(x,y,z)の間に

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の関係が成り立つ.お,ここに三次元の長さがあるじゃん.では四次元の長さτ(タウ:\tau)を次のように決めよう

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光の進んだ長さは"τ=0"だ.光より遅い速度の物体が時間”t”で進む長さをわちゃわちゃやると"τ^2>0"になるし,光より速く進まねば行けないところの長さは"τ^2<0"になる.二乗がマイナスって何だよいいのかと思うかもしれないけどいいのだ(世の中には虚数がある).

長さを拡張したので,これが本当にboost不変なことをみよう.

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おぉ〜確かに不変だ.

"τ^2"は正,0,負どの値でも取れるが,それは回転とboostのどちらでも値を変えることがない.やっぱりこれが拡張した"長さ"なのだ.boostも"長さ"を変えない回転の一種のようなものなのだなと思えるのではないか.

小まとめ
・回転は長さを変えない
・boostでも変わらないものを"長さ"と拡張して呼ぶ
・"長さ^2:τ^2"は正,0,負どの値でも取れる
・"長さ:τ"は回転とboostのどちらでも値が不変

お絵かき

"いやいや信じられんわ.数式でごちゃごちゃ言うなや."と思っただろうから絵を書こう.ただし,"τ"を使った長さの拡張の概念は受け入れてもらう.

空間部分の回転で,角度0度にいた棒が角度θ度になった時をお絵かきすると

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こんな感じだろう.横軸も縦軸も空間の軸だ.赤と青の棒はそのもの長さだし,確かに長さが変わらず回っている.当たり前だ.

では今度はboostをお絵かきしてみよう.速度0で止まっているものが,速度"v=cβ"で動いて見えるようになったとして,横軸時間,縦軸進んだ距離とすると

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こんな絵がかける.青と赤の長さが変わっているように見えるが,拡張した"長さ"は変わらない,計算して見てくれ.ほら,なんかさっきの回転と似てない?ちょっと違う部分はやっぱり"負号"からきている.

"同時"と言う概念の崩壊

相対論を受け入れると,同時と言う概念が意味をなさなくなる.あまりにも速度の違う二人が"せーの"で何かすることは基本的にできなくなる.

離れた所にいて互いに止まっている二人,AとBの時計を合わせれば同時に何かできるかもしれない.相対論の世界で便利な光を使って時計の同期を試みよう.Aから光を出してBに光を送る.Bは光を受け取ったらAに光を返す.Bが光を受け取った倍の時間でAが返ってきた光を受け取れば二人の時計は一致している.

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AとBの時間軸がそれぞれ書いてある.青線で指した時間は全部同じになっているから,時計あわせが可能だと言う主張だ.

でもこれは無意味だ.めちゃめちゃ速く動いているCと時計合わせしようとすると

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明らかに青線で指した長さが違う.こればCにとっての時間軸がAと比べて回っているからだ.

このように速度の違う二人では時計あわせができなくなってしまう.それは一見致命的な欠陥に見えるし改善したいと思ってしまうが,回っているのだからそんなのは当たり前なのだ.

当然だが,光の速さはものすごく速い.1秒で地球を7周半するほどだ.人間が地上で暮らしている範囲では相対論の効果は中々実感できない.互いの速度がめちゃめちゃ遅いし,近いから光速が気にならないのだ.たが人工衛星を使ったGPSなどには"同時"の概念が使えないほど相対論的効果が見えてくる.

まとめ

・回転は長さを変えない
・boostでも変わらないものを"長さ"と拡張して呼ぶ
・"長さ^2:τ^2"は正,0,負どの値でも取れる
・"長さ:τ"は回転とboostのどちらでも値が不変
・相対論的な世界では"同時"の概念がない


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