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きっと幸せになれるから、お前は不幸になってくれ(錠剤PV感想)

マイブームというのもあるが、チェンソーマンの楽曲はどれも素晴らしい。マキシマムザホルモンや米津玄師は元々大好きだったため、速攻で曲を聴いたのだが、それとは別に僕がハマったのが錠剤という曲である。
ただ、チェンソーマンの曲としても勿論だが、PVが非常に心を動かされるものだったからこそ、今ここまでこの曲にのめり込んでいると言っても良い。曲のPVでここまで心が動かされた経験があまり無いからこそ、アニメーションのクオリティの高さ、ストーリー性には引き込まれるものがある。是非、一度視聴してみてほしい。情緒がかき回されるので。

あまりにも苦しいストーリーと、切ない歌詞はアニメEDということを忘れる。曲がとにかく好きなのでずっと聞いているのだが、あまりにも心が乱される故に、アニメーションを見れない時すらある。アニメEDの方がパワーちゃん可愛いって感じのPVなので(こっちはこっちで好き)、余計に辛さが増している。

以下、PVを見ている前提で記述する。
PVで主役であるエテ(褐色のマフィア)はあまりにも「良い奴」だと思う。恋人にプレゼントに花束を選び、幹部の葬式では涙を堪えていて、下っ端がミスをすると目を小さくしてあまつさえ殴られている光景からは目を反らしてしまう。冷徹非道な描写ばかりのボスでさえ、彼の首を刎ねるのはPVの最後の瞬間であり、普段は傍に置いている辺り、彼を信頼しているように見える。平凡な感性を持っているから、たとえ兄貴分の仇だったとしても恋人を殺すことが出来ない。理不尽に抗う力があるわけでも無いから、組織を裏切っても、幸せを願っても何かを変えられるわけではない。そういう苦しみから、僕らだって抜け出せるわけではないからこそ、このPVは心に刺さる。

メズ(ヒロイン)にしたって、母親の仇を討ったところでその先に待ち受けるのは殺人という抗いようの無い業だけが残る。例え現実であってもその罪の清算を求められることに変わりは無く、幸せを手にしたとしても憐れな結末は避けられない。だからといって、彼を殺さずにいるのは人は無理だろう。登場人物たちはどうしたって積んでいると言ってもいい。現実だってそういう絶望と苦しみばかりで、皆自分が生きるために、何かを成す為に平気で他人を蹴落としている。

だが、ボスの肩には幹部が連れていた鳥(設定画を見る限りキジっぽい?)が乗っている。彼の視点からは、自分の信頼する仲間を殺され、その犯人の女は何食わぬ顔で暮らしていて、もう一人の信頼している部下はあまつさえその女を庇うために自分を裏切っている。僕たちがエテとメズに肩入れ出来るのはPVが彼らの視点で進むからこそであり、ボスにとっては到底許容できる状況では無い。彼もまた、苦しみの中を抗っている。

このPVにはどうしようもない人々の、どうしようも無い今を描いている。苦しくて辛くてどうしようも無い僕は、そんなこの悲しいお話に感情移入せずにはいられないのだ。

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