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読書記録『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 下』

引き続き『ファスト&スロー』の感想。今度は下巻。前回の記事はこちら。

・内部情報に基づくアプローチ…自分たちのプロジェクトの状況だけで判断する
→「見たものがすべて」の状態になっている。
・計画の錯誤…プロジェクトの成り行きを過度に楽観的に見積もる

「多くの人は過去の分布に関する情報を軽視または無視しがちであり、この傾向がおそらく予測エラーの主因だと考えられる。したがって計画立案者は、入手可能なすべての分布情報が十分に活用できるように、予測問題の枠組みを整える努力をしなければならない」

ダニエル・カーネマン著・村井章子訳『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 下』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2014年)、44頁

・楽観主義を克服するためには~死亡前死因分析~…システム1の自信過剰を完全に支配することはできない。しかし、手がないわけではなさそうだ。

やり方は簡単で、何か重要な決定に立ち至ったとき、まだそれを正式に公表しないうちに、その決定をよく知っている人たちに集まってもらう。そして、「いまが一年後だと想像してください。私たちは、さきほど決めた計画を実行しました。すると大失敗に終わりました。どんなふうに失敗したのか、5~10分でその経過を簡単にまとめてください」と頼む。クラインはこの方法を「死亡前死因分析(premortem)」と名付けている。

前掲書、67頁

この方法は日常の業務でもかなり有効ではないだろうか。多用すると疲れてしまうが、失敗してから嘆くよりもずっとましだ。

・保有効果…手に入れる喜びと手放す苦痛は同じではない

ワインを持っている場合には、それを手放す苦痛があり、持っていない場合には、手に入れる喜びがある。そして損失回避が働くので、両者の価値は同じではない。よいワインを手放す苦痛は、同等によいワインを手に入れる喜びを上回るのである。

前掲書、117頁

商売の話でいえば、他社に先駆けて商品を顧客に保有してもらうことが重要になりそうだ。そうすれば、同等の他社製品があらわれても、すぐには乗り換えられないということになる。

・分母の無視…私たちは%で表現されるよりも、何人に何人と表現された方が過大にその効果を見積もってしまう。

致死性の伝染病から子供を守るワクチンについて「永久麻痺のリスクが0.001%ある」という文章を読んだとき、あなたはきっと、リスクは小さいと感じるだろう。では同じワクチンについて「接種した子供の10万人に1人は永久麻痺になる恐れがある」という文章ならどうだろうか。この場合、最初の文章では起きなかった何かがあなたの頭なの中で起きる。ワクチン接種によって生涯麻痺の残った子供のイメージが浮かびあがるのである。そして、無事だった9万9999人は霞んでしまう。分母の無視から予想できるように、相対的な頻度(〇〇人に〇人、〇〇回に〇回など)で表現する方が、抽象的な「確率」「可能性」「リスク」などの言葉を使ったときより、確率の低い事象が過大に重みづけされる。

前掲書、177-178頁

・最後に人々が「今」感じる苦痛とそれを振り返ったときに感じる苦痛に違いがあることを受けて、どのような政策を実行すべきかについて筆者が述べたことを確認しよう。

予算配分は、人々がそれらを恐れる度合いに応じて決めるべきだろうか。それとも、患者が実際に感じる苦痛に応じて決めるべきだろうか。それとも、そこから逃れたいと願う患者の願望の強さや、逃れるために払ってもいいと考える犠牲の大きさに応じて決めるべきだろうか。視力や聴力の障害と、人工肛門や透析との順位付けは、苦痛をどの尺度で計測するかによって大きくちがってくるだろう。この問題の解決はすぐには見当たらないが、かといって無視するにはあまりに重大である。

前掲書、318頁

ここまで行くと、これは哲学の問題になってくる。結局、多くの学問を背景に皆で唸りながら合意形成をしていくことが大事になるのだろう。

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