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その①海外富裕層の調査レポートから学ぶ「お金のリテラシー」

アジアの富裕層やファミリーオフィス※にサービスを提供するロンバー・オディエ社の調査レポートが2023年11月に出ていました。同社は香港、シンガポール、東京にオフィスがあり220年の歴史があるプライベート・バンク※です。https://asia.lombardodier.com/ja/home.html

※ファミリーオフィス:富裕層の資産管理目的の会社法人を指します。通常、何億~何百億円の資産を保有しています。
※プライベート・バンク:富裕層向けの資産運用アドバイスを行うプロ集団をさします。

60ページのホワイトペーパー(白書)ですが、タイトルは

"The long game: Understanding APAC HNWI's real goals"
訳:「長期ゲーム:アジアの超富裕層の真のゴールを理解する」

です。真のゴールを理解するとは、おお、惹かれるタイトルですね。460名の富裕層を対象として、コロナ禍での混乱と回復を経て、資産運用について何が課題なのかをまとめています。ちなみに、HNWI'sは、high net worth individuals、つまり富裕層の略です(これにUのUltraが付くUHNWI'sは超富裕層となります)。僕も前職時代にこの手の調査レポートの作り手の立場であったことがあるのですが、まあ作るのは大変ですし、このようなレポートを世に出すこと自体は心よりリスペクトします。

主な内容は・・・

ゴールは達成できているのか?

・調査対象の富裕層の、7割が現在のライフスタイルを基本的に維持したいと思っている。ただし、7割がより自分にあったスタイルを探したいとのこと。そして、2割が金銭的なゴールに達している、5割が概ね達している、と答えています。若い世代はより達していないと感じています。
金銭ゴールについて、5割もの人が「達している、概ね達している」と答えているのは、興味深かったです。足るを知るという言葉がありますが、人の欲望は無限ではないのかもしれません。

サステイナビリティと投資について

・6割がサステイナビリティを意識して投資案件を選んでいるとのこと。そして2割がサステイナビリティに関連する投資を増やしたいと思っており、サステイナビリティ―への投資がリターンを確実に高めると答えたのは2割のみでした。
⇒ESGという用語に疑問が投げかけられているなど、サステイナビリティと投資については渦中にありますね。

非上場株への投資

・非上場の株に投資をしたいと6割が答えているが、実際に投資しているのは3割のみ。2割しか非上場株の投資ゴールへの効果を理解していない。
⇒ 創業や個人事業の株もあるし、付き合いもあると思います。スタートアップ投資は玉石混合なので、なかなか難しいところかも。

家族とのお金の話
・8割が家族とお金に関するゴールやビジョンなどを共有するべき、7割が世代間での対話が大切と答えている。しかし、5割以下しか家族でのお金に関するゴールの共有できていない、6割が適切な資産管理のツールを保有していない。
⇒ここが一番目を引きました。お金持ちやファミリーオフィスでも、家族や世代間でのコミュニケーションは乏しいようです。


となっています。さて、レポートによると今後10年で、APACのUHNWIの7万人が、USD2.5tn(300兆円程)の資産を次の世代へ移転していくとのこと。このような中で富裕層は、家族や世代間で資産運用の共通のビジョンを持ち、家族の富について正しく扱っていくことが大切である、という内容を説いていますね。家族の中で実際に意思決定者をするものの個人的なゴールと、家族全体でのビジョンとの話し合いが大切としています。

この考え方は富裕層へのアドバイスとしてだけではなく、フツーの個人の家庭でもとても大切な事だと思いました。例えば、

・資産や家計について家族や世代間でシェアをする
・家族で、お金について共通のビジョンやゴールについて話し合いをする
・個人(特に意思決定者)のゴールと家族全体のゴールについての調整をする

なかなか痺れますね。非常に良い教訓ではないでしょうか。新NISAが始まりお金の話が盛り上がっていますが、お金の増殖を主軸にする考え方や議論、つまり「結局、何をすれば一番儲かるの?」という話は、資産運用においては薄っぺらい低レベルの話で、そのような思考では、大凡、幸せにはなれないと思います。

お金とは、自分らしい人生を生きるという「目的」に対しての、あくまで「手段」であるということす。この主従が逆転すると、本当によく無い。そしてアジアでも欧米でも、多くの国で不変的な社会単位は「家族(Family)」であります。お金についての共通のVisionを家族として持つ、これは「家族として何にお金を使っていくのか」という哲学を持つことにつながりそうです(消費だけでなくボランティアなども含まれるでしょう)。

今後、何回かに渡ってレポートの詳細を書いていきますが、こういう貴重な調査から、お金のリテラシーの幹の部分をしっかり勉強したいと思います。

続く・・・。

<英単語メモ>
grapple   v.      人と取っ組み合う、問題に取り組む
flux         n.      変動
powder keg  n. 火薬ダル
thorny   adj. とげの多い

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