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日本の中高生へのお金の教育を考える②

続き記事です。前回記事はこちら。

さて、学生向けのお金の教育といっても、その範囲はとても広いです。

先行する英米などを見ても、ポンドやドルなどのお金の単位や価値について、お金を得る方法(仕事など)や使い道について、家計の収支の記録や計画の大切さについて、クレジットカードの役割、銀行や複利などの仕組みについて、老後資金や金融商品など、様々です。

では、何を教えるべきなのか。ここでお金の本、経済・金融の教科書、資格試験の教材などを開いてみて、何を教えるか選びにいっても、絶対に迷子になります(笑)

遠回りのようでも、世界の教育の潮流について考えるところから始めてみましょう。

<世界の教育の潮流について>


ここ数十年、21世紀における子供の教育で力を入れ始められたことをいくつか挙げてみましょう。

まず、何を教育するかという点では、STEAM教育、英語教育(非英語圏では特に)、そしてお金の教育(ファイナンス教育)、の3つは新たに出てきたように思います。さらに、それらの教育のゴールとしては、ウェルビーイング、自己肯定感、というキーワードが挙げられるでしょうか。SDGs、キャリア教育なども、過去には無かったワードに思います。

STEAM、英語、ファイナンス。多くの親御さんも、卒業学歴や医師などの職業資格をつけさせる目的以外の、実質的な教育の中身としては、これらを意識されている方は多いのではないでしょうか。そして企業の人事部などの方も、よく似ているはずです。社員の、ITリテラシー、国際リテラシー、財務リテラシーや資産形成などは、共通の課題でしょう。

まず、STEAM。これはScience, Technology, Enginering, Arts, Mathの略ですが、「科学技術を使って、世の中の問題をいかに解決をしていくか」というゴールに向けての教育です。この内の4つ、STEMは所謂、理系っぽい教育でして、アメリカでオバマ大統領が提唱して有名になりました。Artsは少し毛色が違いますが、「新しいことを表現する」「自分の考えを表現する」というアートやデザインの点で、そして文理融合という点でも大切な概念です。米国はIT分野で非常に強い国でありながら、国民全体の理系教育が非常に弱い(移民に極端に頼っている)という矛盾を抱えていて、教育者から被教育者までのレベルを高めようという課題から定着しました。この考えは、他の英語圏の国でもとても受け入れられました。日本においては、もともと算数力は強いし、多くの人が小中学校で基本的な理科を学び、国際的な標準テストにおける点数も相当に高いので、社会的に大きな話題にはなりませんでしたね。ただし、その日本がIT分野のイノベーションで、水を開けられているのはなんとも皮肉ですが。

STEAM教育の考え方は、机上や決められた実験で科学を学ばせるのではなく、「社会課題解決と一緒に、実学としての科学を学ばせる」というものです。分かりやすい例でいうと、ゴミ問題や被災地支援のためにプログラミングで動くロボットを作る、など。教科書の1ページ目から理科を学ぶのではなく、科学は今の世の中の役に立つものだということを教える、そこから科学の基礎を学んでいく、という組み立てです。歴史などの教え方もそうですが、欧米の教育っぽいですね。そして、日本では、高専などの学校は、まさにそういう教育主体だと思いますし、ロボコンなどは昔からありますよね。そして、社会課題の発見と技術連携を目指すNPO法人などは日本でも多く登場してきています。いずれにしても、コーディング(プログラミング)を土台にした、ITやAI技術と、ロボット・ドローンの社会実装などがSTEAMの文脈で注目されています。

2つ目。英語教育です。米国の冷戦の勝利、インターネット技術の普及で、世界経済の距離が縮まり、英語ができないことは何かを学ぶにもビジネスをするにも、かなり大きなハンディになりました。100年前と今を比較して、英語の重要度が低くなっていると答える人は少ないと思います。とにかく英語ができないと、得られる情報の量と質でハンディキャップが出てしまう。一説にはインターネット上の95%は英語で書かれていますので。私にも息子がいますが、大学はともかく、大学院や博士課程で何かを本気で勉強したくなった時、世界最先端の景色を見たいと思った時には、ごく一部の分野や先生を除いて、日本の学校が希望進学先になることはないと思っています。

そして、話す力も大切と思います。一方的に読んだり音声を聞くのではなく、五感を使って目の前にいる人と議論して得るアクティブな学びは、圧倒的に効率が良く、長い人生において取り出せる知識として定着するからです。これからAI技術で、言語の壁は取り払われていく、ドラえもんの「翻訳こんにゃく」のようなものが出るかもしれませんし、英語が母国語である人は羨ましくもありますが、彼らは多言語を覚えるインセンティブがないため、自分の価値観を打ちのめされたりされたり、異文化を吸収して自己成長する機会に恵まれていません。また世界で英語ネイティブな人は1割ぐらいなもので、21世紀を生きる人たちは道具として英語に付き合っていくことは大事でしょう。

そして、お金の教育です。ファイナンス教育ですね。簿記や会計などのコーポレートファイナスも、個人の資産運用とかのパーソナルファイナスもあると思います。

このお金教育の重要性は、今に始まったことではないと思います。貨幣経済は何千年も続いてきているし、お金の知識や知恵は誰にとってもそれなりに大事です。一方で、近年の変化としては、20世紀の社会イノベーションであった社会福祉、特に公的な年金制度が行き詰まりを見せたことは、大きな背景でしょう。少子化と高齢化で人口ピラミッドが変わってしまった。

またソ連の崩壊で自由経済陣営が勝利して、市場経済や金融技術が急速に発達しました。お金のリテラシーがないと、自分の人生がお金に振り回されやすくなっています。目的としての人生、道具や手段としてのお金。この主従を取り違えないためにも、お金の知識が大事でしょう。

長々と書きましたが、STEAMで触れた「社会課題の解決」、英語で触れた「世界の距離」、そしてファイナンスで触れた「市場経済の拡大」。

この3つの社会情勢の変化にこそ、21世紀の中高生に教えるべくお金の教育のエッセンスが入っていると思います。

次回に続く。

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