マガジンのカバー画像

1人読み用

16
朗読用、1人読み用の短編、詩、セリフなど。
運営しているクリエイター

記事一覧

今、旅立つ君へ

君は今、何を思うのだろう 大きくなった翼を広げ 旅立ちの準備をする君は 君は今、何を感じるのだろう 輝く未来を目指し 一人で歩き出そうとする時に 目を閉じると 君が生まれた時 初めて笑った時 初めて寝返りを打った時 初めて言葉を言えた時 初めてハイハイをした時 初めて歩いた時 初めててんとう虫を見た時 初めて保育園に預けた時 初めて学校に行った時 怒られて不貞腐れた事も 半べそをかきながら宿題をした事も 好きな人ができた事も 自分の頑張りが認められた時の事も いろ

ひとひら

ひらり ひらり 目の前に舞い降りた ひとひら 深く積もった雪の中 太陽を浴びて プリズムに輝く まばゆい光の中 舞い降りてきた ひとひらは 触れれば壊れそうで しなやかに芯が強く 咲きこぼれる笑顔は 無邪気にキラキラと 輝いて 煌めいて あまりにも美しいひとひらは 手を伸ばすのを躊躇う僕の 手を取りそっと寄り添って ゆっくり 穏やかに 時は流れ 凍りついた僕の心を ゆっくり 辛抱強く 溶かして 暗闇の中にいた僕を 一歩ずつ 陽の当たる場所へ 連れ出し

雪花~せっか

冬はゆったり腰をかけ 寒さと眩(まばゆ)い白さで ぼくを包む 高い峰々は 雪と氷に閉ざされて 色のない世界に染まる うず高く積もった雪が ぼくの前に 立ちはだかる かきわけても かきわけても さらさらと崩れる粉雪は 息が上がるほど 肺にまで沁みて ぼくの心も凍らせていく 踏み出せば 沈み込む雪の柔らかさに そのまま倒れ込みたくなる キンと冷えた空気 枝についた樹氷は 長い尾を伸ばし 高く澄みきった空に踊る 白銀と氷の世界 熱くなった体の芯と 痛みを通り越して 感

拝啓、愛し子の君へ

拝啓、愛し子の君へ 寒気のきびしい日が続いていますが、お変わりありませんか。こちらでは昨夜から雪が降り続け、一面の銀世界に変わりました。 なーんてね。 ふふっ、堅苦しい挨拶は苦手なんだ。 雪が降ると思い出すよ。 天気予報で雪の予報が出ると君はいつもソワソワして、雪が積もったら何をしたいか、いっぱい話してくれた。 朝、雪が積もっているとお母さんの手を引っ張って大はしゃぎしていたね。顔も耳も手も真っ赤にして遊んでいた。わたしも君の投げた雪玉で真っ白にされたのを覚えているよ

最愛のあなたへ~Another Story

あなたの体温に包まれる心地よさに 重たいまぶたは開かないでいる 眠すぎて何も考えられないまま 顔中にキスの雨を受ける 小さなリップ音を奏でる あなたの優しくてやわらかい唇が気持ちいいの この時間がとても好き サイドボードのロックグラス 溶けてなくなった氷と スコッチの苦くて癖のある味 ハチミツのようで少し潮(しお)のようなふしぎな香り サラミソーセージのスパイシーな香り わたしと同じボディーソープの香りの中に やわらかく包み込んでくれる大好きなあなたの香り バレないよ

最愛のあなたへ

早朝午前3時 ふと目を覚まして 寝ぼけ眼(まなこ)で腕の中にいる貴女の寝顔を見る シパシパとまばたきをして ぐっすりと夢の世界にいる貴女の寝顔を眺める この時間がとても好きだ   サイドボードのロックグラス 溶けてなくなった氷と 年代物のBOWMORE(ボウモア)の スモーキーで甘いシェリーの香り サラミソーセージのスパイシーな香り 仄かなボディーソープの香りの中に ひときわ輝く貴女の芳(かぐわ)しい香り 首筋に顔を埋めて思い切り息を吸い込む   情事の残り香が混じった 脳

落葉(らくよう)

秋が足早に駆けてゆく なにをそんなに急ぐのだろう 高い峰々が薄く雪化粧して 薄氷(はくひょう)がパリパリと音を奏でる 唐松の紅葉が落ち水面を黄色く染め 真っ白な霜は足跡の形に溶け 地面を盛り上げて伸びた霜柱は しゃりしゃりと泣く かじかんでジンジンとする指先 チリチリと寒さで痛む頬を 白い吐息が撫でていく そう これは寒さと澄み切った青空のせい 泣いてなんかいない モミジも、カラマツも、ナナカマドも 色づいた葉が はらはらと落ちていく あなたのことが好きだと言った

Hell Sister

はじめに キャラクター設定と朗読される方向けの簡単な指示です。 ト書→[ ] 主人公は表の顔はシスター。裏では粛清人という仕事を請け負っています。 表の顔の時は穏やかで淑やか、誰にでも好かれる可愛らしい女の子です。裏の顔は神など信じていない、口の悪い殺し屋です。 [口調がガラッと変わります]の指示の前は、おっとり穏やかな話し方をしてください。 以下本文………………………………………… こんばんは、市長さん こんな月のない夜中にお出かけですか? わたしですか? お

海月の箱

「泡になって消えてしまいたい。」 ぽつりと呟いた。  『個』というか『自分』というものを持っていない私は、常に周りの顔色をうかがって、人の意見に左右されながら生きてきた。反感を買わないように、孤立してしまわないように。みんなの中に埋没して目立たないように、静かに、ひっそりと。  クラゲのように流れに身を任せて、人の意見に同調し、迎合し、多数決の多い方に賛成して。 ふうわり ふうわり ゆらゆら ゆらゆら 流れに任せ、揺蕩うように。 流れて流されて、理想の自分との乖離

雪形と渡り鳥

蒼い靄(もや)に包まれて 夜(よ)が明けてゆく 雫のピアスを纏(まと)い 深緑が黄金色に輝く 高く響き渡る郭公(カッコウ)の声に微笑み 低く響く山鳩の呟きに 「やぁ、おはよう」と声を掛ける 靄(もや)が溶けていくにつれて 澄み切った青空が広がっていく 農夫が今日も顔を上げて 遠くに望む雪山に 駒(こま)の雪形(ゆきがた)を探す 田植えの時を待ち侘びて 畦塗(あぜぬ)りをして整え、代(しろ)かきをし 水口(みなくち)の関(せき)を開け、水を張る 丁寧でリズムの良い仕事

夢を願う

あなたがここに居てくれるという事 それはただの奇跡なのだろう 夢のような幸せを 日々感じている 数多の苦しみや悲しみを 乗り越えてきたのは ただ君に会うためだけの 試練だとしたら 君と未来を紡ぐための 試練だとしたなら 僕はもう他には何も要らない 僕が欲しいのは ただ君だけ 君の心だけ 君が微笑んでくれるなら 君が喜んでくれるなら 僕はこの身を 心を 魂さえ捧げるだろう 君の声を聞きながら 未来に思いを馳せる 二人で他愛のない話をして 笑い合って 時に怒って 時

星降る夜に

星が降ってくるよ 無数の星が 音もなく キラキラと 寝転んだ草原に 星が降ってくるよ 無数の星が キラキラ しゃらしゃら 輝いて 星が降ってくるよ 無数の星が キラキラ しゃらしゃら 笑いながら 星が降ってくるよ 無数の星が ぼくのまわりに しゃらしゃらと 星が降ってくるよ 無数の星が 溺れそうになって 息ができなくなる 星はどんどん降り積もって ぼくのまわりにたくさんの 星の海が生まれたよ 星が降ってくるよ 無数の星が キラキラ しゃらしゃら キラキラ しゃ

空に溶ける

今日も陽が沈む 地上の星が瞬き始め 空が藍に染まり 水平線を 太陽の残り香が 朱(しゅ)に染める 呼吸を忘れて眺める 刻一刻と変わりゆく 色と世界を 只々(ただただ)美しい 頬を熱いものが流れてゆく やがて広がる漆黒に 空と海の境界が分からなくなる 波の音と 漆黒の海 飲み込まれそうな感覚を覚えて 身を震わせる 目を上げれば そこには億万の輝き 何億光年の時を超えて届く瞬き それを想うとき 「嗚呼、なんと矮小なのだ。」と 自分の存在のちっぼけさを思い知る

星屑の光とユニコーン

そのユニコーンは星を食べる 星から溢(こぼ)れた光の欠片 シャリシャリ シャリシャリ シャリシャリ シャリシャリ そのユニコーンは星を食べる 甘いあまい星屑の光 真珠色に輝いて そのユニコーンは歌い出す 空の煌(きら)めき詰め込んだ 深い青い夜の歌 星の光は導くよ 空の彼方の そのまた向こう 月の光の架け橋を そのユニコーンは駆けてゆく ダイヤモンドやエメラルド サファイア ルビー タンザナイト ありとあらゆる宝石を いっぺんにこぼした星空を そのユニコ