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「漢字心理診断」ができるまで

数年前のことです。書き方講座ワークショップでの講師を務めました。
10人ぐらい、集まったと思います。
机の上には白紙の原稿用紙数枚と鉛筆だけを準備しました。

最初に軽く自分の自己紹介をして、本題に入りました。
「今日のお題は「あなたについて教えてください。」です。
仕事のことでも活動のことでも構いません。
今日、初めてお会いする方たちもいるでしょう。
自分のことを紹介するつもりで書いてください。」
そのときにアドバイスしたことは、ただ一つ。
「文章は、現在、過去、未来の流れで考えると書きやすいですよ。」
そして、講座の後半では一人ひとりに書いたものを発表することにしていました。

ところが、いざ発表で読み始めると、ほとんどの人がまだ書いていないことを語りはじめました。
今やっていることの馴れ初めや、これまでの自分、どういうことがあったのかということを一生懸命に語るのです。
どうやら聞いて欲しかった思いは言語化されていなかったようでした。
その語りを聞いているうちに、まだその下に新しい思いが起こってもいるように感じました。

それで、一人ひとりに「何故でしょうね。」や「理由はわかりますか。」などの言葉掛けしていきました。
なんとか答えを絞り出し理由づけする人もいました。
中には「理由はわかりません。」と答えた人もいました。
そして全員の話を聞き終わったあと、同じテーマで今みなさんが語られたことを書いてください。
そしてもう一度発表してくださいと伝えました。

参加者の表情は一変、全集中で原稿用紙に向かっていました。
5分きっかりで終了。書き終えた人はいませんでしたが鉛筆を置いてもらい、今度はそのままを読み上げてもらいました。

文章は激変、それぞれがやっとの思いで吐き出せた一文はなんて心を打つのだろう、今でもあのときのことを思い出すと、鳥肌が立ちます。

この日をきっかけに、わたし自身言葉に対する見方や考え方が変わりました。
私たちは常に誰かの言葉によって一喜一憂しています。
だとしたら、まず目にする自分の言葉が心に作用しないはずはありません。また私たちは、それぞれの環境や状況で言葉を習得しながら生きてきています。誰一人同じ環境で生きてきた人はいません。

言葉から受け取るイメージもそれぞれです。
それを読み解くことが出来たら、人となりや背景がわかるかもしれない、また、どんな気持ちで何を伝えようとしているのかが見えてくるかもしれない。
そう考えるようになりました。

それで思いついたのが、言葉リーディングです。
人はどれだけ自分の言葉を意識しているのだろうと思い、数人に試してみました。

まず、日常的によく使われている言葉とその人がよく使っている言葉をカードにして広げてみました。そして気になる言葉はありますか?と聞きました。
ある人はその中から好きな言葉と嫌いな言葉を選び出しました。
そして、嫌いな言葉が、その人の書いているブログによく出てくる言葉だったのです。
嫌いな言葉なのによく使っているよね。書くのが嫌にならない?そう訊ねると、彼女は気づいていないようでびっくりしていました。

また、別の人は、選びきれないと言っていました。
全てが繋がっているから、というのが理由でした。
ちなみにその彼女が一番好きな言葉は柔軟、多様性だそうです。
それは、わたしにはない言葉でした。

思考も言葉遣いも一番気づいていないのは、どうやら自分たち自身のようです。

自分の思いや思考を言葉にできると、心は軽くなります。
また、自分の思考を可視化できると、行動も気持ちもスッキリします。
しかし、カードを使って自分の言葉を読むという効果に手応えを感じつつも、限界も感じていました先ほども述べたように、わたしたちは、それぞれの環境や状況で言葉を習得しながら生きてきています。

また感性や性格も一人ひとり違うので、言葉から想起しているイメージは、それぞれです。だとしたら、当然解釈する側にも違うイメージで伝わっています。

それにものごとに対する感じ方もそれぞれ。
思いや心情などの基準を解釈も数も無限にある言葉で推測するなんて到底無理な話です。

それに、一人ひとりに合った言葉カードを作るというのも、あまりにも非現実的。
実際作ったカードは千枚を超えました。誰にでも適用できる、言葉を使った心の動きを読み解く、もっとシンプルな診断方法はないものかと、ずっと探していました。
そう、できればトランプのように、ただの数字が組み合わさることによって意味をなすように。またタロットカードのように、そこに書かれている絵柄が物事の象徴であるように。

そこで思いついたのが漢字でした。
漢字は表形文字です。
その形から、そのものをイメージします。
また、漢字は音があります。

それは意味とは異なった響きを持っています。
そして漢字は言葉です、1文字にそれぞれ意味があります。
何気に使っている漢字。
当たり前すぎて、すっと読み通してしまう漢字。

漢字を知らなくても、書けなくても意味がわかる漢字。
これは私たちの心にどんな作用をするのだろう。
でも、現存する漢字の数は数万語。
どうやって選べばいいのか検討もつきませんでした。
そこで思い出したのが、もう一つのわたしのコンテンツ、問いかけて書く書き方講座です。

以前の書き方講座から派生した講座で、それぞれイメージしやすい問いかけを作っておくのです。
作文の鉄則、いつ、誰が、どこで、何を、に加えて、あなたはそのときどう感じたのか、とか、何故そう思ったのか、最初の書き方講座で問いかけた内容を盛り込んでおくというものでした。
それになぞって書けば気持ちが少し整理できるようにしてありました。

その問いかけを、漢字1文字で表せないかと思ったのです。
また、問いかけて書く書き方講座では、何故始めたのかの理由をたくさん書く人、今後どうしたいのかのビジョンをメインに書く人、さまざまでした。

それを思い出して当てまる言葉を「場」「時」など漢字を拾っていきました。
わたしたちは、自分の感情をどう表現しているのだろう、とも考えました。楽しいことも、嬉しいことも、感じ方はそれぞれのはず。
心地良いと感じる人は「快」、天にも「昇」る心地という言葉もある。
基本感情やそれを表す言葉、楽しい過去を思い出す言葉、辛い過去を思い出す言葉、何を望むのか、そこにどんな価値観が加わって、何を描いているのか、それを縦横上下に並べていくと、117文字の漢字一覧表になりました。

また、そこにある漢字は、固有名詞や両方の意味にとれる漢字は極力省きました。
誰にでも読めて、おそらく誰でも同じようなイメージだろうと思われる漢字を選びましたが、それでも誰一人同じ読み方をしている人はいません。

一人ひとりの心に触れたとき、初めてその漢字はその人の思いに意味を成した言葉となるのです。これは、一人ひとりに語りかける心の声であるとも思います。

今、心は自分に何を語りかけているのか、何を伝えようとしているのか、
117の漢字たちが語ってくれるあなた自身の物語に、ぜひ耳を傾けてみてください。

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