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【投機の流儀 セレクション】「地殻変動」の芽吹きか?─預金に安住してきた日本の個人マネーが、投資に目覚め始めた。物価上昇は投資利回りの追求を促す。バブル経済崩壊後の低迷相場を知らない若い世代の投資家も増えてきた

標題として掲載したこの文言は、日経新聞紙12月18日号の13面「個人投資家に芽吹く『順張り投資』」の記事の書き出しの文言である。副題が「世代交代で変わる意識」とある。

筆者が常々言ってきたところの「個人金融資産の地殻変動」の兆候かもしれない。なにしろ、日本は2100兆円の個人金融資産を持っている類まれな国である。しかも、先進国でただ一国だけだというのは、そのうちの1100兆円が現預金であって、その現預金のうちの証券類に向いているのはわずか14〜15%である。アメリカは50%、欧州は35%ぐらいだ。この一部分でも証券市場に向かったら、大変な地殻変動を起こす。

何度も言うが、日経平均が2.8倍になったアベノミクス大相場でさえ、結局は海外投資家からの買い越し金額は25兆円に過ぎなかった。したがって、1100兆円ある現預金のうちの1割でも株式投資に入れば、その4倍の買い越し金額となる。これを「地殻変動」と言ってきた(地震でもプレートの移動によって起きる地震が最も大きい)。長い目で見ると、これの予兆かもしれない。

しかし、筆者は超長期で見ている。日経平均が6万円になる前に大きな暴落は何度もあるだろう。アベノミクス相場で日経平均が2.8倍になる期間においてさえ、青春期相場で8000円上がったうちの4000円は、いわゆるバーナンキショックで一気に下がった。また、壮年期相場の最中にブレグジットショックやトランプショックなどでの大幅暴落もあった。3000〜4000円下がることは、いつでもあり得る。だからこそ、弾みがついて長期に株が上がるのだ。 
そういう波乱が途中で生ずる時にこそ、目先筋は振り落とされる。だからこそ、上がる時に売る玉が少なく、勢いがつくのだ。

ネット証券の口座開設が勢いづいているという。楽天証券は、12月に入ってから総合口座数が1000万台の大台に乗せたという。1000万人というのは大きい。一人が仮に平均100万円を証券につぎ込んだら、1000万の総合口座は10兆円の買い越しとなる。それだけで、アベノミクス大相場での7年間の海外投資家の買い越しの4割が1年間で出ることになる。1100兆円ある現預金のうちのわずか100万円ずつを買い越しただけで、である。

1100兆円ある個人現預金のうちの100兆円を買い越せば、アベノミクス時代の海外投資家の買い越しの4倍に相当する。これを「地殻変動」と本稿では言ってきた。何度も言うが、その間に日経平均の4000〜5000円安という揺さぶりは何度もかかる。だからこそ、長期的にうねりを持って上がるのだ。

NISAは制度が始まった2014年から2022年までで、累計購入額が上場株で11兆円になった。売り越しになった年は一回もない。東証への関心が高まり、口座開設数が年間150万口座で、一口座の買い付け金額が100万円に伸びたと仮定すれば、5年間の買い越し金額は7.5兆円近くになる。

個人投資家は市場の流れに逆らう、いわゆる逆張りが主力であった。相場の下降局面では買い、上昇局面では売るというのが今までは合理的な行動だった。ところが、長期上昇が前提ならばそれは変わる。恒常的に「買い目線」で見ていなければならなくなるだろう。「それは順張りに転換してくる可能性がある」(日興証券のチーフ株式ストラテジストの言)。

地殻変動の芽吹きだと考えてもいい。但し、これは超長期に見ての話しだ。目先には3000〜4000円下がることは、いつだってあり得る。だからこそ、長期的にうねりを持って上がるのだ。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)市況コメント
(2)先週の市況から言えること
(3)米、金利低下が米ヘッジファンドなどに追い風
(4)海外勢が日本株買い越し
(5)日銀は「物価の基調の高まりに手応え」「日銀は賃上げを重視」
(6)「日本のミニ政変」
(7)「地殻変動」の芽吹きか?─預金に安住してきた日本の個人マネーが、投資に目覚め始めた。物価上昇は投資利回りの追求を促す。バブル経済崩壊後の低迷相場を知らない若い世代の投資家も増えてきた。
(8)「・・・と分配」の好循環は、こんなところにも見え始めた。
(9)「処理水」の問題は片付き、東電株の第一幕は降りた。しかし、本幕は柏崎原発稼働である。
(10)東電株の第一幕は終わったが・・・
(11)「東電」と日本製鉄

第2部;中長期の見方
(1)辰年縁起
(2)来春の注目点は、日銀政策修正と春闘である。
(3)マイナス金利解除後の政策の枠組み
(4)賃上げ継続のためには、生産性向上のための設備投資が要る。
(5)円高に進むのか、否か?
(6)円高と円安、どちらに振れるか?
(7)151円の円安が一瞬141円まで来ても、相場は崩れなかった。
(8)「排出権価格9割安」

第3部;新NISA開始直前にあたって
(1)新NISA開始直前、2000本の投資信託からどう選ぶか?
(2)成長投資枠対象投信の運用成績ランキング
(3)選ぶならば独立系か、大手系か?
(4)NISAの投信の10年間の成績

第4部;12月17日(日)のリアル+オンライン・セミナーで話題に出た参考銘柄
株価は、17日リアル+オンライン・セミナー前日の株価
日本製鉄(5401)・野村証券(8604)・王子HD(3861)・東電(9501)

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
https://amzn.to/2AebYBH
『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
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『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
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『会社員から大学教授に転身する方法』(電子書籍)
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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