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【投機の流儀 セレクション】ウクライナの士気と西側諸国の経済制裁の強さとを読み間違えたプーチンだが、終始一貫して合理的思考に基づく

旧ソ連の軍産複合体は西側の圧倒的な経済力と技術力にはとても太刀打ちできないことをゴルバチョフ元大統領は判っていた。米国とEUを足した西側諸国の経済力は20分の1以下だということをもゴルバチョフは判っていた。
古代から現代まで、大国の興亡は戦争や革命によるものよりも当該国家の経済力による。古代ローマ帝国、古代~中世にかけての中国王朝、中世のヨーロッパの王朝、全て基本的には経済の衰退が大国の衰退をもたらしてきた。ところで、現代はGDPに占める国防費の割合が明らかであるから、軍事力の概ねの見当は付く。
GDPとの比率で見れば、米国の国防費はベトナム戦争中はGDPの11%ぐらい、冷戦終結時には6%に低下、現在では3.5%強ということになっている。ベトナム戦争時代の国防費がGDPの11%以上を占めていたら社会保障支出よりも大きくなり、国内がもたなくなっていた。一方、欧州では国防費は米国の水準を大幅に下回る状態が続き、フランスはGDPの2%、ドイツ・イタリアは1.5%、日本は1%強である。
ところが、ロシアは原油の生産力はサウジと並ぶかサウジの次、天然ガスは圧倒的に世界一、だから始末が悪い。ドイツはエネルギーの自給率が極めて低い。そこで2月末に国防費はGDPの2%に増額すると発表、天然ガスの5割以上をロシアに依存しているドイツは2011年の福島原発事故を見て、2022年までに原発全廃に動くという、(筆者が見れば)大きな間違いを決定した。
一方、フランスは電力の75%を原子力でつくっている。したがって、フランスとドイツとはロシアに対する脅威が全く異なる。
ロシアのウクライナ侵攻は将来予想される中国による台湾有事の格好の土台になる。よってウクライナ侵攻のロシア敗北を中国は認めたくないであろう。プーチンに対する相応の懲罰が厳しく科されることになるだろう。
中国はロシアと一体となってアメリカに対抗する姿勢を持っている。それは2月初旬の共同声明にも現れている。「中国に対する下位の同盟国」という立場でロシアは承知している。そこで中露の国家間関係は冷戦時代の政治同盟よりも強い絆となっていくことを両国は確認している。NATOのさらなる拡大は絶対に阻止すると中露は決意し宣言している。プーチンはウクライナ侵攻では実質的には敗北するが、習近平の中国が窮地に立たされるわけではない。「新冷戦」の時代はエネルギーや安全保障の重要性とウクライナ侵攻の教訓は大きなエネルギー問題となっていくだろう。ゴルバチョフで終止符を打った、45年続いた冷戦はロシアを世界一の天然ガスをエネルギー源とする西側の事情はなかった。現在は、ドイツなどは50%をロシアにエネルギー源を頼っている。
グローバル化した現在、「新冷戦」は「旧冷戦」よりも何層倍も複雑である。また、この新冷戦は東西ともに受ける経済的マイナスは旧冷戦とは比較にならない。あの時代はグローバリズムというものはなかった。エネルギー源をソ連に頼ることもなかったし、中国が最大の輸出相手で最大の顧客だという状態もなかった。 中国が経済大国となった今、ロシアは経済小国ではあるが、中国は当時の何百倍にもなった経済大国だから日米ともに輸出の最大顧客であり、非常に問題は複雑である。鄧小平が存命ならば「政冷経熱」(政治的軍事的には冷えた関係であっても経済だけは熱い関係を保持しよう)という知恵を出すだろうが、今や世界経済の覇権をアメリカとともに担う中国は鄧小平時代のような思考はない。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

(1)連休明けの日本市況
(2)先週の市況
(3)激震の2週間、先々週の海外勢の売り越し額は6年ぶりの高水準だったが一転して期間限定ながら戻り相場へ
(4)個人金融資産、2000兆円台乗せ
(5)ポーランドの国債、日本人が最大に保有
(6)昔、「銃声を聞いたら買え」と言われたが、最悪状態を織り込み終わることでリバウンドした
(7)先週の市況の意味するところ
(8)先進諸国から見て日本株の出遅れが見立つ――「世界一の景気敏感株」である日本株の命運
(9)原発専門家の想定する最悪シナリオ
(10)米JPモルガンのストラテジスト「年金基金と政府系ファンドが再構築の態勢で世界の株式相場を最大10%押し上げる可能性あり」
(11)下値の目途の一つは「PER11倍」か
(12)「小型成長株は売りの最終局面か?」楽天証券チーフストラテジストの言い分
第2部 中長期の見方
(1)W・バフェット氏は「街に血が流れている時に株を買え」と言う
(2)先進諸国でエネルギー自給率が最低の日本の命運――日本の自給率の向上には原子力発電の再評価が必要
(3)ウクライナの士気と西側諸国の経済制裁の強さとを読み間違えたプーチンだが、終始一貫して合理的思考に基づく
(4)プーチンは狂っているか、筆者は狂ってはいないと思う
(5)プーチンの計算違い、ウクライナの士気の高さと経済制裁の厳しさ
(6)我々は今、第二次冷戦の中にいる
(7)森羅万象を対立的に見るか融合的に見るか
(8)「第三次オイルショック」の到来か
(9)トルコ・リラ建て資産を保有する読者諸氏へ(イスタンプール発のニュース)
第3部 読者との交信欄
(1)大分のK様からのご質問
(2)先週号での読者との交信欄のH様との交信の④⑤⑥について

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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