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【投機の流儀 セレクション】4ヶ月に及ぶ香港デモと市場

筆者は約4ヶ月前に香港大型デモが市場に及ぼす影響を読者の質問を受けて恒例によってこれを公開し、私見を述べたことがある。それを、ひとことで要約すれば、民主化のための動きであり結構なことであるが、ローカルな運動であり、世界金融市場全体の神経機能を揺るがす問題ではないという旨を答えた。

今、「勘定」を「感情」と切り離して敢て述べると次のようになると思う。年初来上昇率を見れば、一番は上海総合株指数で年初来上昇指数19%、二番はNYダウで年初来上昇15%、三番が日経平均で年初来12%。これに対して香港のハンセン指数は年初来3.9%の上昇にとどまっている。民主化のための動きとはいえ、株式市場は変化を嫌う。よって香港そのものに限れば株式市場に好影響を与えるはずがない。しかし、香港市場に上場する2300社の中で半分は中国企業である。時価総額で言えば中国企業は7割に相当する。したがって株式市場に限って言えば、大規模デモの影響は限定的である。全体的に見れば、香港株は中国本土株よりも割安感がある。したがって、香港株は下値を探る展開となり、その下降には限界がると思う。

次には市場を離れた私人としての私見である。
ベルリンの壁を破壊して東西が合体したのは天安門騒動の5ヶ月後だった。ベルリンの壁を破壊したのは戦車でもミサイルでもない。西側から入ってくる情報である。そして民主化を求め、西側陣営との合体を求めた市民がハンマーで打ち壊したのだ。これこそ、さすがゲルマン民族だと筆者は畏敬の念を持って見たし、その直後に東西ベルリンの境界地へ敢て行って2泊して破壊の後をつぶさに見て「ベルリンの壁」の破片を二片拾って持って帰った。自由への象徴として今は書斎に安置してある。一つはリベラリストの友人にあげたらことのほか大喜びだった。
一方、中国ではその年の6月に天安門事件が起こり、「8964」という数字は中国内部のいかなる番号からも抹殺されて使ってはならない数字となっているらしい。89年6月4日の天安門事件を思い出させるからだ。
ドイツがヒットラーの山荘を破壊した。今もナチズム礼賛者がいて、彼らが聖地として結集したりすることを防ぐためだ。ドイツは日本のように総懺悔、総反省という「腰の低さ」ではなく「ナチス政権の〇年から○年の間に限り」としてその間のことに区切っては深く詫びている。他のことに関しては自虐傾向に陥らず、その期間のことに限って深く反省し深く詫びている。他のことに関しては決して卑屈になっていない。これが日独の差である。

香港の大デモこそは「ベルリンの壁」に匹敵し、西側からの情報が入る玄関であり、長い目で見れば中国のためには大変良い情報取り入れ口であり通風孔であろう。だが、これが台湾に飛び火することを習近平は恐れている。太平洋側の海岸線を持たない中国としては、台湾は重要な基地だ。「不動の戦艦」としての台湾を睨んでいるに違いない。筆者が個人的に願うのは香港大デモは台湾に飛び火し、習近平を慌てさせることだ。

中国を国際市場で現在のようにノサバラセた原因は日米にある。元はニクソン政権が当時は勢いがあったソ連と中国が組むことを恐れて、アメリカ側に引き付けようとしたことから始まる。この時、中国は単なる人口大国の後進国だった。

この前車の轍を踏んだのは、平成に入ってからの最初の海部内閣である。円借款で経済的に苦しんでいる中国を援助した。その翌年、宮澤内閣が天皇陛下を中国に連れて行き、中国は「氷を溶かす旅」として大歓迎した。
平成元年6月に天安門事件で独裁国の内容がバレバレになってしまって、国際的仲間から排除される中国を海部・宮澤両内閣が国際交流の仲間に引っ張り込む援助をしてしまった。
これからの日本の政権が気を付けなければならないのは、香港デモに対する迂闊な牽制や、最も悩んでいる習近平政権を支援したりするような言辞を軽率に採らないことだ。前車の轍を踏んではならない。

香港の大型デモの収束は見通せない状態が続くであろう。長い間英国風に染まり、今でも西側からの情報の入り口となっている香港が簡単に習近平の強権圧力に負けるとは思わないし、そう願いたい。「8964(89年6月4日)」が中国で30年以上経っても禁句となっているほど習近平は香港デモを我々が想像する以上に恐れているはずだ。
習近平の内心は日米貿易戦争よりも香港大デモを恐れているであろう。

近代・現代になって一党独裁政権が最も長く続いたのは1917年のレーニン革命から1991年のソ連崩壊までの、ソビエト社会主義共和国連邦の「74年間」であった。毛沢東が中華人民共和国を創立してから74年目というのは2023年に相当する。そのことは政治家も評論家も誰も言わないが、習近平の内心にはあるはずだ。


【今週号の目次】
第1部 当面の市況
(1)週明けは強含みで始まろうが内部要因に問題あり
(2)日経平均は5日続伸して今年最高値を5日連続示現し、昨年10月最高値を指呼の間に迫ったが、それとTOPIXと単純平均株価、それらは全く別の様相を呈している
(3)「需給に勝る材料はない」、先物主導で動いている日経平均、しかも空売りの買い戻しで動いていると見られる日経平均
 〇日銀のETF買いと企業の自社株買いによって3000円押し上げられている日経平均
 〇「需給に勝る材料はない」ところの内部要因――信用買い建てと空売りとの比率
 〇個人投資家の一部に変化
(4)日経新聞、「海外投資家に聞く」の要点を要約する
 〇ドイツ銀行資産運用部門責任者の見方。
 〇インベスコ・アセットマネジメントのマーケットストラテジスト
 〇モルガンスタンレーのグローバル債券運用部門の最高責任者の見方
(5)200日線と25日移動平均との乖離が大きくなれば、当然高値警戒感や高所恐怖症が出てくる
(6)PERを金科玉条とする見方に対して
(7)PERで測る株価の跛行性
(8)重視されているクリスマス商戦と「一時休戦」
(9)衆院解散総選挙の可能性
第2部 中長期の見

(1)「バラマキ」の悪口を封じた国土強靭化政策。アベノミクスの「第2の矢」たる「機動的な財政出動」が出やすくなった
(2)「FRBの大幅利下げ=深刻なリセッション」を意味する
(3)再びBREXIT問題について考える
(4)4ヶ月に及ぶ香港デモと市場
 〇再び香港の問題と金融市場の神経機能の関係
(5)トランプの再選があるか、3回目
第3部 中国の問題
(1)「米中もし戦わば――戦争の地政学」
(2)中国が引き起こすかもしれない問題について
(3)1992年以降の27年間で最低となったGDP四半期
(4)中国本土における香港の経済的重要性
(5)マカオ証券取引所の構想
 追加・マカオのこと
(6)ロンドン取引所と香港と上海
第4部 「ビッグミステイク」


【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。

ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
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『会社員から大学教授に転身する方法』(電子書籍)
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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