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【投機の流儀 セレクション】五輪を損切りできない日本に晴れない霧――埋没費用(サンクコスト)の呪縛

「サンクコストの呪縛」というのは、ある目的のために資金や努力を投ずると途中で止めるべきだと判っていても止められなくなることを言う。ある銘柄を本気で研究し、財務内容を分析し、工場見学までして調べた結果これは買わない方がいいと判断しても、「今まで費やした時間や労力がもったいないから買わないという決断ができず買ってしまう」、というようなことをサンクコストの呪縛と言う。日本の五輪にかけてきた今までの期待や経費や労力から見ると、今さら止められないのが「サンクコストの呪縛」である。

過去の五輪で圧倒的な強さを誇ってきたアメリカでさえ国民や政府が東京都の五輪開催は熱望してはいないというし、実際に数十年前に比べると五輪に対するアメリカ人の関心は大幅に低下している最中の東京のコロナ禍の五輪だという(出典はNewsweek日本版5月25日号)。

アメリカでは2016年の世論調査では51%が五輪中継を熱心に見るつもりはないとこたえ、開催国は日本の東京だと知っている者は半分以下だったという(前掲誌による)。
競技面で最も成功を収めてきた国があまり興味を示さなくなっているのであれば、大会が中止になってもたいした騒ぎにはならないかもしれない。女子テニスの四大大会で4度の優勝経験を持つ大坂なおみは東京大会での金メダル獲得が最有力視されている代表選手だが、この夏に大会は開催できるとは確信できないでいるという。五輪に参加するほとんどのアスリートは大坂なおみのような億万長者ではなく、大半はキャリアの頂点を五輪に置くアマチュアが多い。そうすると五輪に出なければキャリアとレガシーが台無しになる。
日本の権力者たちの立場も失われることになる。
WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスのパンデミックを認定したのは昨年3月である。五輪を中止するとその後1年4ヶ月間にわたって感染拡大を防げなかったことを公認することになる。したがって、中止できない。また、この大会のために何年も取り組んできた努力が水の泡になるという人間心理の面から見てサンクコストの呪縛が起こる。

八ッ場ダムが工事中止にしたくないのはサンクコストの呪縛によるものだという誤った説があった。あれは違う。八ッ場ダムと言えば、治山治水の必要からできてきたのだ。洪水が起きて人が死ぬことが時々あった。その必要でできたのだ。筆者は高崎支店に在任中にその工事にかかわっていた中堅ゼネコンの社長が顧客で親しかったので、その事情は昔から熟知していたつもりだ。人が死ぬほどの洪水が起こるからそのための治山治水の必要から八ッ場ダムが必要だったのに実情を知らない人々は、無駄な工事だから止めるなどという物分かり良さげな言い分が多かった。いま工事を止めるわけにはいかないと言うとそれは「サンクコストの呪縛」にかかっているからだという謬論が起こった。サンクコストの呪縛はこういう時にも悪用される。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

(1)週明けは買い先行で始まろうが、先週の市況の意味するところは複雑だ
(2)当面の市況のレベル
(3)先週末の様相から見えること
(4)当面の市況と中期的見方―5月13日に日経平均が10線転換法で陰転した
(5)来週に開かれるFOMC(米ERBの政策決定会合)で金融政策が変化する可能性
(6)2月以降のバリュー株とグロース株
(7)五輪開催の賛否が揺れているが結局は決行する
(8)五輪を損切りできない日本に晴れない霧――埋没費用(サンクコスト)の呪縛
第2部 中長期の見方
(1)第2次大戦と同じで、止めるべきが正論だがそれを説く者が誰も居なければ結局は決行する五輪。そして予想通りの失敗をする。第2次大戦と同じだ。これが日本人の意志決定の伝統である
(2)オリンピックを決行した場合のリスク
(3)米株に高所恐怖症が居座る
(4)PERから見た日経平均
(5)原子力利用の話し――私見「核廃棄物を宇宙へ捨てろ」
(6)目先の利益よりライフプラン「ファンダメンタルズを分析。長期保有が大事」「短気は疲れる。長期のメンタルは安定」
第3部 株価の景気先行性を読んで危機を逃れた10事例の続き


【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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