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【投機の流儀 セレクション】中国の「日本化」と聡明だった60年代の日本

この言葉は、しばらく前からの流行語のようになった。中国は、日本が「失われた20年」をたどってきた道と似たような現象をたどっているからだ。一点違うのは、中国は官製の不動産不況だ。ここがタチの悪いところだ。中国もバブル崩壊後の日本と同様、長期低迷する。必ずそうなる。類似点は多い。「失われた20年」の日本は大先輩である。したがって、何がどうなるかは目に見えている。

野村総研のリチャード・クー氏は「失われた13年」(1990年〜2003年)の不良債権不況の前に、ブッシュがつくった貸し渋り不況・不良債権不況をNY連銀(FRBの一部)に居て、その処理をやってから野村総研に来たという経験を活かして、バランスシートというミクロ面から出発して、バランスシート不況というマクロ経済学を打ち立てた。このように、自分がその最中に居た者は同じことが起こるとよく見えるものだと思う。我々から見ると、中国がそれである。

まず、潜在成長率が大きく下に屈折した。これは日本の1990年代から始まる。そして労働人口が減り始めた。これも日本と同じだ。そして、積極的な金融緩和の下で資産価格が大幅に上昇し、一方で巨額の貿易黒字で先行きの成長期待も高まった。これも日本と全く同じだ。
そして中長期の成長期待が高すぎたことを認識して、設備投資や新規雇用の抑制に一気に動いた。これも日本と全く同じだ。特に14億人という人口を強みに、人口は工業力にも、農業力にも、軍事力にもなる何よりの資源だから、これを強みに進んできた。

ところが、一人っ子政策はいずれ壁に突き当たることは目に見えていた。これが今、来たのだ。しかも、統計上の失業率よりも何倍も中国の失業率は大きい。この点は日本よりもかなり深刻である。
現在の中国の急速な潜在成長率の下方屈折に直面し、それが物価と資産価格の下落を伴うという大きな要因となっている。しかも、日本のたどってきた道をたどっている。

しかも、日本ではバブルの8合目ぐらいの時に国土庁が「東京を世界の金融センターにするためには、霞ヶ関ビルに相当するビルが都心に50本は必要だ」などというレポートを出し、これが都心の地価急騰の「お墨付き」となった。
中国の場合はもっとひどい。自ら計画し、自ら資金を出して、巨大なビルを林立させた。オルドスという内陸の大都市を北京・上海に次ぐ大都市にしようとして、50本を超える高層ビルを林立させたが、誰も入居者が居ない。入居する会社が一社もない。真っ昼間でも人っ子一人いないし、車も一台も走っていない。いくら日本の都心バブルの狂奔とは言っても、これほどのものはなかった。中国はそれを国家権力で作った。余計に大きい。

ここで自由主義経済と政府主導経済との違いを論じ、自由主義経済が専制主義経済に勝ったとする東西冷戦の打ち止めを真似たところで仕方がない。そんなことは分かり切っていることだ。 
リチャード・クー氏によれば、中国の権威主義の敗北などという大袈裟なことを言わなくても、必然的にこのバランスシート不況は読めていたであろう。

数年前に日本のメディアでは「かえって権威主義政権の方が個人に対する統制が徹底するから、コロナ感染対策も徹底する。成功は早い」という議論がまことしやかになされていた。
つまり、権威主義と民主主義を対比して色々と議論するという大袈裟なことが好きなのだ。そんなイデオロギーや価値観の問題ではない。そこまで行かないうちに、現実の経済の問題で決着がついてしまのだ。イデオロギーや価値観を持ち出すと政治的情緒に流されやすく、冷静な判断を鈍らせる可能性が高い。

その点について日本の現代史上最も賢明だったのは、岸政権によって国論が真っ二つに割れた姿を池田勇人は経済成長という一点に目を向けさせて、所得倍増計画という身近な自分の財布の問題に目を向けさせた。そして真っ二つに割れた国論を一つに統一し、その頃に偶然に起こった僥倖を全て我が物につかみ取り、「もはや戦後ではない」と経済白書が謳った13年後にはGDPで世界2位になっていた。あれはイデオロギーの勝利ではない。
価値観の勝利でもない。真っ二つに割れた国論を経済という一点に集中させた政治力であり、それに甘んじて乗じた国民の賢明さと真剣さであった。

今から考えて見ると、実に「20世紀の不可思議現象」というほどの十数年間であった。

【 今週号の目次 】
第1部;当面の市況
(1)市況コメント
(2)週末一日の売買代金5兆6000億の意味するところ
(3)時には、本稿や「動画」で取り上げてきた日本製鉄、及び「国策銘柄」としての東京電力
(4)投資主体別動向
(5)日本株は底堅いどころか、力強い。
(6)ようやく見えてきた岸田首相の抽象的な理念
(7)日銀のマイナス金利政策解除はいつなのか?
(8)信用取引の売り残が2ヶ月半ぶりの高水準(東証8日発表)
(9)NY株が30倍になった起点となる、401k法に例えられる日本のNISA新制度 

第2部;中長期の見方
(1)欧州の利上げの終着点は遠い。
(2)「国策銘柄」「世界的な著名株」「大通り銘柄」として、話題に挙げてきた東電と日本製鉄、及びあと一つ
(3)米国景気、ソフトランディングのシナリオと強行着陸のシナリオ
(4)米、インフレ再燃なら強行着陸の可能性
(5)「成長と分配の好循環」これを阻む壁
(6)中国の「日本化」と聡明だった60年代の日本
(7)9月13日(水)の内閣改造
(8)日本に財政破綻はない。

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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