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【投機の流儀 セレクション】相場を的確に言い当てた本、大きくはずした本

筆者は毎年12月になると書棚から何十冊かの本を選んで、大学の図書館に寄付するか、ゴミとして処分するかのいずれかにしている。今それをしている最中だが処分する前にパラパラとめくってみる。
絶対処分しないのは所謂古典である。あるいは古典についての解説本である。これは毎年毎年書棚に残る。流行本の100冊から得るものよりも古典の1冊から得る方が大きい。
ところで今年処分する本をめくってみると、アベノミクス相場について言い当てていた本に下記のようなものがある。

【的確に言い当てていた本】
・『日本株 転機のシグナル』(前田昌孝)
サブタイトルは「底入れ、反転の展開を読む」である。
これは2012年7月の刊行である。アベノミクス相場始動3か月前だ。著者は日本経済研究センター(旧経済企画庁のアウトソーシング先のような機関)の研究員で東京大学を卒業し、日経新聞の経済部ワシントン支局デスク編集部員などを経てきた人である。
2012年7月と言えば、その年の11月14日をアベノミス始動点とする時だ。そして日本株転機のシグナルが見えるとして根拠をあげている。結果的にはこれは全部当たっていた。

・『「運用立国」で日本は大繁栄する』(澤上篤人)
彼はポジショントークで言っている面が多いと思う。それはそれで良いが、その発行が2008年9月である。リーマンショック発生の時である。
日経平均は小泉郵政改革相場の1万8000円台から1万1000円下がって半分以下になったそのプロセスである。大天井からサブプライム破裂で日経平均は5,000円幅を下がり、それがもとでリーマンが破綻したのは2008年9月だが、その2008年9月に発刊した「運用立国で日本は大繁栄する」というのだ。
そして、その論拠は一応もっともである。これも年末整理する書棚には処分しないで記念としてとってある。

・『「失われた20年」の終わり』(武者陵司)
彼については先々週号で述べた。副題は「地政学で診る日本経済」。これは大的中の大的中と言える。
彼は「失われた20年」を、ずぅっと主張し続け、リチャード・クー氏や植草一秀氏とは別の立場でドイツ証券会長として毎年弱気で、3万8,000円から7,000円まで言いで続けてきた。そして2011年3月に超強気に転じ日経平均が8,000円の頃に4万円になると言い出した。
4万円はともかくとして20年間弱気一貫してきて、そこには彼独特の理論もあり哲学もあり歴史観があったので筆者は注目していたが、いきなり超強気に転換した。それはアベノミクス相場の1年前である。「弱気で名を売ってきた武者が強気に転換したら相場はオシマイだ」と揶揄された。これは筆者が一目置いていた人間だったから年末整理の時に処分しないでとってある。
本が溜まってしまって、地下室の書斎に窓がないから三方は全て書棚であるが全部いっぱいになってしまっているので12月には出来るだけ多くを捨てるようにしているが古典とそれの解説は一切処分しない。それと一緒に処分しがたい記念の本が残るからどうしても溜まってしまって置き場所がなくなる。今処分するものから拾ってみると上記のようになる。

・『アメリカは日本経済の復活を知っている』(浜田宏一)
発刊が2012年12月だから安倍政権成立直後である。
その時彼は内閣官房参与の一人だった。だからもちろんポジショントークである。だが、さすがにノーベル経済学賞に最も近いと言われた経済学者の本であるから一応理路整然としている。これも内閣官房参与のポジショントークとしては内閣官房参与の安倍政権応援歌としては筋が通っているようなので処分しないでとってある。

・『2018年10月までに株と不動産を全て売りなさい!』(浅井隆)
今のところアベノミクスの大天井は2018年10月2日だったし、不動産価格のことはよく判らないが少なくとも株式については大局では当たっていた。この本は2017年の6月に出た本である。著者は浅井隆氏であり、その経歴は早稲田大学政経学部卒、「海外放浪」のあと毎日新聞社に入り写真記者などをしてきた人でよく判らない。タイトルで衝動買いした本だ。タイトルで衝動買いさせる本の表紙は真っ赤な本が多い。
*浅井隆の経歴
浅井隆(あさいたかし、1954年−)は、日本の経済評論家、株式会社第二海援隊社長。 東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中に環境問題研究会などを主宰する一方学習塾を経営。海外放浪の旅から帰国後、大学を中退し毎日新聞社に入社。1994年退社。1996年情報商社「第二海援隊」を設立、2005年日本の改革・再生をするための会社と謳う「再生日本21」を設立。日本経済が破綻するというデマを流す経済書を中心とした著書を執筆している。
この人の本は所謂「トンデモ本」として売っている人なのかもしれない。それがたまたま的中したのかもしれない。著書には「2020年までに世界大恐慌 その後、通貨は全て紙キレに〈上〉─ジム・ロジャース緊急警告!」(第二海援隊)などがある。
前述の「日本株 転機のシグナル」という本は内容も真面目だし、著者の経歴もしっかりしているし、たまたま的中したのではないような気がする。

・『いま持っている株は手放しなさい!』(塚澤健二)
2018年5月の発行であるから大天井の5ヶ月前である。著者は塚澤健二である。内容は極めてもっともな点もあるし、著者は理系出身の経済アナリストで、日本証券アナリスト協会で経歴もはっきりしている。この本の表紙も真っ赤である。衝動買いさせる本の表紙はおおむね真っ赤だ。

・『日本の決意』(安倍晋三)
2014年4月の刊行であるから、政権成立後1年半を経たときである。そこには原文通り掲載すると「わたしにとって最も大切な課題とは、日本経済をもう一度、力強い成長の道に乗せることであります」とある。要するに安倍首相は「日本を取り戻す、経済を取り戻す」というキャッチフレーズで成立した。
その意味では少なくとも金融経済において成果は出ているから、副作用も出ているが成果の方が大きいと思うから一応良しとするが、筆者なりに要約すると、日本には資本がある、技術もある。高齢化社会という点では世界のさきがけの国である。そういう経験も増えてきた。ないものは政策だった、という意味で「三本の矢」を決めた。

【大きくはずれた本】
次に大きくはずれた本を挙げよう。

・『大転換 : 長谷川慶太郎の大局を読む緊急版』(長谷川慶太郎)
彼ほど大きく的中し大きくはずれた人は少ない。出版は2017年1月、したがってアベノミクス相場の壮年期相場の直後である。この時に「2017年後半から大恐慌へ」「EU・中国・ロシアの崩壊が始まる」とある。的中しているのは「米中対立激化」である。
あとは筆者が時々触れる副島隆彦氏の本である。これは全部衝撃的なタイトルを付けて衝動買いさせる本である。全てがそうだと言って良い。

・『ドル亡き後の世界』(副島隆彦)
2009年11月に出た本だからリーマンショック直後日経平均が7,000円〜8,000円の時に出た本である。その時に「2年以内に日経平均は4,500円を割る」「1ドルは30円どころか10円台になってしまう」とある。
これは『「通貨」を知れば世界が読める』(浜矩子)にドルは50円になると力説しているからその本とともに12月の書棚整理の際に捨てないでとっておいた。

・『1ドル65円、日経平均9000円時代の到来』(江守哲)
これも表紙は真っ赤な表紙だ。これが今出たならば警告の書として読んでもいいが、2016年10月に出た本だ。壮年期相場の直後である。その時日経平均は2万900円から半値押しして戻り始めたところであり、18,000円〜19,000円の時代であり、そこから5,000円も上がった。
著者は江守哲氏。慶応義塾大学商学部卒業、後住友商事で商品相場を張り、筆者も会ったことがあるが、理論家であり特に商品相場、特に株式相場の先を行く銅相場を「銅の住友商事(銅の相場で大損して世界的な話題になったことがあるが江守哲氏の時代ではない)の住友商事」にいた人であるから、履歴は確かであるが、1ドル65円、日経平均9,000円というのは大ハズレだ。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況
(1)最近の市況の特色
(2)「2日シンポは荒れる」か?
(3)市場、波乱に備える動き強まる
(4)空売りファンドのマディ・ウォーターズが日本株の空売りを始めた
(5)経済対策26兆円、安倍政権時代で最大規模。建設大手株が3%〜6.5%上がった
(6)「管理された日経平均」であり、「大統領が株価操作するNY相場」
今は、「株価操作」されているNYと東京市場だとさえ言える
第2部 中長期の見方
(1)輸入制限を実施する方針を示した米国は徐々に貿易戦争の様相を強めていった、一方、日本市場は国を挙げて「株価操作」をしていることを世界が承知しているので、市場のダイナミズムは喪失する
(2)景気後退が一段と明確になった。これに対する日本経済新聞11月30日号が掲載した「エコノミストの見方」
(3)設備投資計画費が19年当初計画に比べ▲1.3%
(4)欧米から大きく遅れる日銀の出口戦略
(5)米景況感改善説で長期のデッサンが描きにくい
(6)「投資環境は良好でも守りの姿勢を継続する」(ピムコ)
第3部 長期投資の銘柄選択の一尺度
(1)成長株(グロース株)と割安株(バリュー株)
(2)「長期投資、同族企業が狙い目?」
(3)創業オーナー経営企業のリスク
(4)中長期の選び方
第4部 相場を的確に言い当てた本、大きくはずした本
第5部 「資産価格バブルの経済理論」

(1)「資産価格バブルの経済理論」「低格付け債バブル変調」という大見出し
(日本経済新聞12月1日号の第一面)
(2)旧経企庁以来、景気の「山」「谷」を、事後に振り返って決めることにしてきた、これは正しい
第6部 「国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか」 
第7部 読者との交信蘭


【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。

ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
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