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【投機の流儀 セレクション】日本市場を絶好の狩り場と見た、海外筋の動き

日本株式市場全体の「護送船団方式」が終わって、日本の株式市場はいよいよ外界の荒波にさらされる状態になった。日銀の株価下支え操作が終了し、企業間の株式持ち合いという互助システムが急スピードで解消に向かっている。

いよいよ、日本株式市場は護送船団でなくなって、海外の投機家から見れば絶好の狩り場となった。円安を味方にして日本株を買い攻勢に転じ、あるいは日経平均インデックスを売りまくり、夏休みで市場参加者が少ないこともあって、市場の変動性(ボラティリティ)を高くてして儲ける投機筋にとっては追い風となった。彼らは上るか下がるかよりも、ボラティリティ(変動制)に賭ける。日経平均が「史上最大の急落」(8月5日)と「史上最大の上昇幅」(8月6日)は日本市場を絶好の狩り場と見た海外筋の動きがほとんどを占めるだろう。

資本主義発展の原理としてシュンペーターはイノベーション(「新機軸」と訳されたが「新結合」と訳されたものもある)と説いたが、ケインズは「アニマル・スピリットだ」と説いた。つまり、企業家や投資家の「やる気」「動物的闘争本能」などと訳され、これが資本主義発展の原理だと説いた。

今こそ、ケインズのアニマル・スピリットが株式市場ではっきりと表れていると思う。それを日銀の下値買い支えと企業同士の政策関連持ち合いという護送船団方式で守られてきた。この二つがなくなるので、アニマル・スピリットに富んだ外国投機家には絶好の狩り場となる。ましてや、夏休みで投機家が少なくなったところを狙い撃ちしてきた頃にモロにさらされたのが8月の第1週・第2週である。

以上は「メガトレンドの変化を買う相場」(本稿)・「パラダイム転換を買う相場」(武者陵司氏)の背景にある市場現象の根本を要約した。問題はこれからだ。

米国の雇用統計は利下げ議論そのものの「ちゃぶ台返し」(★註1)を引き起こす可能性を秘めている。9月のFOMCでブレーキとアクセルのどちらを踏むかによって、今年最大級の株価変動が起こる可能性があった。株式市場の株価どころか、自国通貨の「円」まで海外の荒波にさらされている日本市場は、アニマル・スピリットに富んだ海外投機家に振り回されている面が多い。

しかし、寺島実郎氏が自虐趣味的に言っていることとは大違いであって、これは彼らの「マネーゲーム」ではない。彼らはこれを「本業」としているのだ。そして、日本の投資家はそのマネーゲームに浮かれているノー天気な投資家(寺島実郎氏)ではない。

海外投機家のアニマル・スピリットの凄味を筆者らは「いざなぎ景気」の後半、ドレイファス・ファンド(★註2)というアメリカのファンドが日立製作所などを我々が想定する何百倍の量で買いまくり、一日に2〜3円幅しか動かなかったその株が仕手株の如く乱舞した。
その数年前に海外市場を重視していた野村證券は「世界の金がやって来る」というパンフレットを出して、賢明にもそれを予告していたが、その直後にケネディ大統領が出した金利平衡税(日本株を買うと一定の金利がかかる仕組み)を出したので日本株が暴落した。これが「ケネディ暴落」である(ケネディが暗殺された時には、株はそんなに下がらなかった)。
「世界の金がやって来る」の野村証券は「世界の売り物がやって来る」と揶揄された。

(★註1)「ちゃぶ台返し」とは、豊島逸夫氏が独立系の立場から執筆している「豊島逸夫の世界経済の深層真理」が日経マネーに連載されている。ここで使われている言葉がある。

(★註2)米国の大手ファンド、筆者は後年知ったが、その当時の運用マネージャーが、米FRB議長を19年務めて「名指揮者」「神の手」と一時謂われたグリーンスパンだった。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)ジャクソン会議でのFRB議長講演は米金利政策転換を示唆、9月のFOMCで利下げを明言した。但し、FRB議長は金融緩和の方向性は明確であるが、利下げのタイミングとペースは今後のデータ次第だと言って、明言を避けた。NY株は上昇した。
(2)週末の状況
(3)日本市場の状況
(4)自然な株式市場に帰りつつある日本市場
(5)「マネーゲーム」ではなく、真摯なファイティングポーズをとる日本の株式投資
(6)善悪を超えた事実そのものに対処するのが、本稿の姿勢
(7)「全値戻し」は可能か?観察を重視する自然科学の王道から考える。
(8)日本市場を絶好の狩り場と見た、海外筋の動き
(9)米経済ソフトランディングと日本企業の業績上方修正が4万円台回復の前提になるが、市場の関心は日銀の利上げにある。
(10)株価暴落により、日本株式は一段と魅力的になっている。
第2部;中長期の見方
(1)波乱に動じぬ個人も多い。3000億円を買い越した。割安と判断し、老後に備える若年層が増えてきた。
(2)今後の中央銀行の動き
(3)4〜6月期の機械受注統計、2四半期ぶりのマイナス
(4)世界トップの日本の年金運用ファンド
(5)官邸の確立が新政権発足と同時に急がねばならない重要事項だ。
(6)「マグニフィセント・セブン」のいわれ
(7)日鉄(5401)─その現実的で、且つアンビシャスなスタンス
(8)東電(9501)─柏崎6号機と7号機の再稼働を前進させる狙い
(9)トルコリラが8月16日(金)に最安値を更新した。
(10)世界の原発、発電能力最大─今年のAI・脱炭素けん引、新設の6割が中ロ

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
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『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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