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【投機の流儀】名門三菱電機の「組織的な不正」を惜しむ

歴史もあるし、三菱の名門電機会社であるし、大袈裟に言えば筆者の青春とともにあった株である。その社風も嫌いではなかったので2015年に起きた東芝の「不適切会計」の時と似たような気持で日経新聞7月3日付けのトップ記事と13ページの記事を読んだ。社長の引責辞任の件は爽やかで判りやすかった。自ら「信頼回復には相当の時間を要するであろう」と述べた。しかもそれが30年間続いたというのだから、惜しむらくは筆者の知らないところにあった三菱電機の隠れた社風である。そしてその不正は「社内の常識が優先した」からだったという。野村證券が91年の株主総会と94年の株主総会が大荒れだった。91年は「大蔵省のご了解を頂戴して執行してきました」という社長の株主総会での答弁で大騒ぎとなった。「大蔵省のご了解を頂戴して」は事実であり、営業特金の強制的廃止と損失補填をしてでもいいから即刻売れという大蔵省の行政指導(事実上は強制命令)によるものを社長が正直に原稿から目を離して言ってしまったことから始まる。損失補填事件と言われた。この問題は代表取締役会長が国会の証人喚問を受けたりまでして事件は大きかったが中身は単純明快だった。会長も社長も辞任した。会長は経団連副会長をも辞任した。
また、その3年後に野村證券は総会屋癒着事件で株主総会は大荒れした。4時間半かかった。その時に筆者の古巣の連中の間で流行った言葉は「野村の常識は世間の非常識」だった。今、三菱電機の「組織的な不正」を見ると「不正は社内の常識が優先した」とある。大企業の見えないところに横たわる「社内の常識は世間の非常識」というものがやはり野村であろうと三井の代表株の東芝であろうと三菱電機であろうと同じ事が底流にある物だという感じがした。
2015年の東芝の「組織ぐるみの大粉飾」に対しては時の経産省もマスコミも世論も好意的で、決して「組織ぐるみの大粉飾」などとは言わずに「不適切会計」で一貫させた。全てのメディアが「不適切会計」と言った。そして古い話しであるが91年・94年の野村證券の二度にわたる(質はまったく違ったものであったが)不祥事件については株主総会直後の社長人事・取締役人事については総会屋と一回でも会った役員は17人を一挙に解任して解任を指示した新社長自らも42日間で退任した。「野村證券の自浄作用は見事に行われた」と全てのメディアが書いた。筆者は個人的にもそう思った(だが、その自浄作用は一期2年で終わるはずだったのに、アメリカ流の社長が3人続いて野村證券の獰猛さや野性的なところや悪いところは消えて浄化されたが、同時に長所もほとんど消えてしまった。つまり、「野村が野村でなくなった」のだ。それでも顧客からの運用預かり資産は110兆円であり、2位の大和証券60兆円を大きく離してはいる。やはり、野村が野村でなくなったと言ってもどこかに「顧客とともに栄える野村證券」の社是は残っているのであろう。同時に「営業数字が全ての人格を表す」「営業数字こそが全ての正義だ」という「隠れた社是」もなくなったか大いに薄まったのであろう。だいたい、日本橋一丁目一番地の一に本社ビルを置くときに、その基礎に「ここに足を踏む者、業界の一の一たるべし、ここは日本橋一の一の一」とあったそうだであるが、そのビルに国旗と社旗がいつも翩翻と翻っていたものだ。ところが、アメリカ流の社長になってから国旗も社旗もなくなった。そしてリーマンブラザーズを高い値段で買い取り、それが失敗の素にはなった。野村は弱体化するとともに屋上の国旗も社旗もたたんでしまった。旗というものはそれ自体は武器ではないが武器と同じく持つ者の士気を高揚させる効果があった。日本橋をはさんで対岸にある静岡銀行には常に国旗と社旗が立っていた。今でもそうである。

東芝がストップ安の売り気配で比例配分が連日続いて初めて寄り付いた時に380円(だったと思う)で比較的思い切った株数を筆者は買った。ストップ安比例配分が何日も続いて完全合致した時にそれを買えばストップ高するか大幅高するというジンクスがあったからだ。こういう場合には想定通りにならなかったら直ちに投げだ。ところが、買った直後に20円上がり翌々日には買い値から63円上で翌々日の寄り付きで売ったら買い値から63円上の443円(だったと思う)で売れた。380円で買って3日目に443円で売れたのだから良しとしよう、そこで東芝からは一旦手を引いたが、この江戸時代末期からある名門老舗の電機会社に対する郷愁はやみがたく「感情と勘定とは峻別せよ」と自重しながらも翌年2016年2月にキューバに行った時、東芝が155円というと半世紀前の株価を付けているのを見た。そこで筆者はもう1回買い直したが、キューバと東京で14時間の時差があるために土日をはさんで寄り付いた東京の値段は171円(その後、10株統合したから今で言えば1710円)だった。それでも今考えれば夢のような値段だった。キューバで首都のサンタクララ革命広場のチェ・ゲバラの銅像の脇で14時間の時差がある東京の証券会社の担当者に電話したことを今でも鮮明に覚えている。

三菱電機の復活を心から期待する。もし、ストップ安比例配分が続くようならば「感情と勘定の区別は別である」ことは百も承知しているが少しは買ってみたいように思う。劇的な下降相場がなければ見送りだ。(7月4日夜、7月4日号の週報を配信後の原稿)。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

(1)当面の市況
(2)4月~6月は日本株式市場の一人敗け
(3)売買代金が1兆6000億円台になり、今年最小になった
(4)4月~6月を振り返ってみれば米金利に翻弄された結果であった
(5)NY史上最高値示現と経済実勢との乖離(株価は先行するから乖離が在るのは当たり前だが、その程度による)
(6)市場に充満する二つの大テーマのうち、コロナは材料としては少し古臭くなった。米の量的金融緩和縮小(テーパリング)が新たな材料として乱高下を導く
(7)米金利は波乱含みであるとしか言えない
(8)円ドル相場は一時は2年2ヶ月ぶりの円安を示現
(9)円安の背景(続き)
(10)7月4日都議選の民意の結果を政権は重く受け止めなければならない
第2部 中長期の見方
(1)7月に入ると日本市場の内容が少し変わった
(2)日銀の出口戦略――今の「非常識」が「常識」に変わる
(3)「福田赳夫の正当な後継者かどうか疑問符を付けざるを得ない」、これは菅総理に対する政治コラムニスト後藤謙次の言い分である。週刊ダイヤモンド誌(7月10日号)
(4)菅首相が直面する最大の問題は現有の衆院277議席の減少をどこまで抑えられるかである
(5)米発インフレがあるとすれば企業がどう乗りこなすか
(6)経産省のエネルギー基本計画に将来的な原発の建て替えを盛り込まない方向が進んでいる
(7)気候変動リスク
(8)世界でV字型回復している起業熱、日本にも
(9)2020年、世界の家計の富は7.4%増
(10)バランスシート不況・貯蓄病・
(11)名門三菱電機の「組織的な不正」を惜しむ
第3部 読者との交信蘭
(1)昔からの読者で剣道錬士であられるI様との交信(着信7月6日、返信6日)
(2)海外政情に詳しいH.A.様との交信(着信7月6日、返信8日)
(筆者補足);西側同盟の包囲網は中国に勝てるのか?


【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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