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【投機の流儀 セレクション】ETFを買い支えた日銀は5月には小幅ながら売り越しに転じた――最終的にはどうする気なのか?

日銀は3月に政策修正を決め、ETFの買い入れを抑制的にすると発表したが、5月には遂に小幅な売り越しに転じた。先週号で日銀の買い支えがなくなったことは述べたが、わずかながらも5月には売り越しになったことが判った。
日銀は安倍政権誕生の半年後の2013年4月から本格的にETF購入を始めた。それ以降初めて買い入れをゼロにする一方、個別株の売却は続けたと見られる。個別株は日銀が2002年~2003年の金融危機(不良債権不況、国内要因)の時期と2009年~2010年の金融危機(リーマンショック、海外要因)の時期に金融システムの安定策として銀行から買い入れたものである。その売却動向を確認するためには日銀の毎旬広告を見る必要があるが、筆者はそこまで詳細に見ていない。5月に小幅ながら株を売り越した日銀は2026年3月までに株式の売却を終える計画であるという。但し「株価指数が著しく下落した場合は売却の一時停止も可能」とある。逆に言えば「深刻な株価下落がない限り処分は続く」となる。3月の方針転換以降、大幅な株安にならない限り買いは入れないということになった。言い換えれば、市場環境が安定している限りは日銀は株の売り越しを基本にするということになる。過去10年あまり株を買い支える役割をしてきた日銀は逆に売り手に回るという話しになる。無論その売却規模は大きなものではない。ただ、「日銀が買い支えるから株式市場が歪んで不自然になる」とまで言われた買いの主体が売り手に回るということになる。この心理的効果はかなり重い。

日銀は約5年後の2026年3月までに株式売却を終える方針という。
昭和40年不況の前年、1969年東京五輪の年、日経平均(当時は「東証ダウ平均」と呼ばれていた)の1200円を「死守」するために日本共同証券が組成されて市場での投げ物を買い支えた。それでも足りず、翌年1965年に證券保有組合を組成して投げ物を買い支え1200円を「死守」しようとしたが遂に市場の大勢に逆らえず五輪の翌年1965年に1200円を割り込んだ途端に1020円まで落ちた。これが「昭和40年不況」である。当時、史上最大の倒産だった山陽特殊鋼の破綻、山一證券の第1次破綻(田中角栄蔵相の即断で日銀特融法の適用で騒動にならずに乗り切った)等々の破綻が続いた、この2年間で日本共同証證券と保有組合が買い支えた株はどうしたか?
1965年夏から始動した戦後最大最長の「いざなぎ景気」で株価が1020円から2550円までの2倍半になった期間に市場で全部を売り抜けた。当時、平社員ながら野村證券の営業マンだった筆者らは、その売り玉を市場で顧客に買わせることを手伝わされた。「いざなぎ景気」の最中だったから顧客は概ね利食い出来たし、共同証證券と保有組合は大きな利益を得て育英資金などに活用された。この期間に共同証證券と保有組合が買い支えた株式は日銀が今回買ったETFの規模と、時価総額比で概ね等しい。
日本証券市場史はその成功体験を抱いているから、日銀の持ち分の処理などは誰も今は腐心しない。

【今週号の目次】
第1部 当面の市況

(1)FRBのFOMC
(2)日銀の金融政策決定会合
(3)当面はこの状態が続いてトレンド変化はないだろう
(4)個人が3週間ぶり買い越し
(5)ジャスダックが1年5ヶ月ぶりの高値
(6)設備投資の先行指標の機械業界の経営環境は改善
(7)これらは17日(木)は米FOMCの利上げ観測で一変した
(8)衆院解散、9月前半が濃厚――「選挙は買い」にならない可能性
(9)東芝の件は、「ニッポン株式会社」全体のコーポレートガバナンスへの信認が揺ぎかねない
(10)コロナ第5波は来るか?
(11)先週週明けの月曜日のゲーム関連株の大幅下落が示唆すること
(12)ETFを買い支えた日銀は5月には小幅ながら売り越しに転じた――最終的にはどうする気なのか?
(13)経済実勢の状況によっては波乱の夏相場もないことではない。
(14)結局は決行する五輪
(15)3月期企業の株主総会
第2部 中長期の見方
(1)市場の底流にある最大の問題・米緩和縮小の表明時期と実施時期
(2)米国債の先物に買い越しが拡大
(3)「悪いインフレ」懸念が米国にあり
(4)久しぶりに大いに意義のあったG7
(5)G7が抱え続ける対中問題
(6)来年4月に控える東証上場銘柄の再編
(7)ジャーナリスト嶌信彦通信――後手々々だった日本のコロナ対策。感染者少なく油断?(2021年 6月 11日 vol.277)
第3部 ふたたび、偶然は予知出来るのかという問題――原理原則として言えることは「棚ボタを受けるためには常時、棚の下に居ろ」
第4部 読者との交信
学生時代のゼミ友の読者Hさんとの交信(6月14日)

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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