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【投機の流儀】今年10月の消費増税は日本経済を破壊する。但し大幅な財政出動で景気刺激すれば株価は中間反騰でも大幅に反転する

【今週号の目次】
(1)12月下落分の3分の1戻りに“敬意を表して”3連騰後の4日目には反落したが、信用評価損が大幅改善し小幅上昇の週末
(2)直近の市況:1――追証売り一巡し、マザーズ株上昇
(3)当面の市況:2――長期の目で見て大勢下限に入っている著名銘柄はいくつか出てきた
(4)「炭鉱のカナリア」――ハイイールド債(低格付け債券)は株価危機を事前に知らせる装置
(5)今年10月の消費増税は日本経済を破壊する。但し大幅な財政出動で景気刺激すれば株価は中間反騰でも大幅に反転する
○因みに筆者のゼミの友人N氏との交信を掲載する。(1月8日)
○但し超大幅な財政出動で景気刺激すれば株価は中間反騰でも大垪和に反転する。
(6)米中貿易戦争は景気後退を招く(未公開株ファンドの大手の最高経営責
任者の言い分を要約)11日、日経新聞掲載。
(7)今年の最大テーマたる米景気のピークアウトとFRBの政策対応に対するトランプの攪乱
(8)トランプ・リスク
(9)衆参両院選挙の可能性
(10)「市場関係者」を対象にした日経ヴェリタス紙のアンケート(12月下旬実施。有効回答79人)
(11)日米ともに戦後最長の景気拡大、これのピークアウトは今年来る
(12)大底を示現して次なる大相場を作出するものは常に政策対応と市場独自の力との合作である
(13)ブラジルレアルとトルコリラの長期見通し
○ブラジル・レアルについての期待
○トルコリラとブラジルレアルについて天才的国際政治学者2015年11月の言い分
○再び、ブラジルレアルとトルコリラの長期見通し
(14)市場を揺るがす統計数値
(15)米中貿易戦争は長引くが結果的には中国は軟化して米国の圧勝に終わる
(16)トランプは、「中国の覇権国家化を食い止めた偉大な大統領」として世界の現代史に残る人になるかもしれない
(17)「『現金は王様』は新年も続くか」
(18)魔のゴールデンウィークか?
(19)今年1年の円ドル相場の市場展望
(20)中国関連株が急反発
(21)亥年縁起と選挙
蛇足
投機家列伝(3)
大経済学者たち――リカード、フィッシャー、ケインズ、シュンペーター、サムエルソン

(1)12月下落分の3分の1戻りに“敬意を表して”3連騰後の4日目には反落したが、信用評価損が大幅改善し小幅上昇の週末

既報で述べた通り昨年12月は種々特殊の記録を出した稀にしか起きない下落の月であった(★註)。12月1カ月は下落幅は12月初日の終値~12月26日安値まで▲3626円、この3分の1戻りをクリアしたことに対して“敬意を表して”10日は反落し、週末は小高く終わった。

ところで、短期の市場観測に欠かせないものは個人投資家の信用取引の評価損の多寡とその趨勢である。
16年2月の、壮年期相場の終焉(市場では「チャイナショック」と言ったが)に於ける1万5千円割れと、同年6月の1円違いのWボトムを「天与のダブルボトムの可能性」と本稿で述べたのは、①アベノミクス相場の半値押しだったこと、②平均PBRが1.0倍になったこと、③騰落レシオ50%になったこと、④25日線との乖離が25%になったこと、⑥これに加えて信用評価損が▲20%超になったことであった。
今の時点で個人投資家の信用評価損は12月下旬の▲26%弱(16年2月の壮年期相場の終焉を告げるチャイナショックの頃から2年10か月ぶりの悪化水準)から8%改善された。これは、思うに、株価が上昇したからだけではなく大幅損のものを追証で投げさせられたからだという背景もあろう。
(★註)12月の月刊下落率としては戦後最大。NYは1929年世界恐慌以来の最大。3兆円売買代金が43日は史上最大。海外勢の売り越し13兆円は史上最大。

東京市場はNY株価の写真相場だと言われて久しい。
日経新聞によれば、両者の相関係数は10月には0.7以上と高く、11月~112中旬までは相関度はやや落ちたが12月下旬から急激に上がり出して再び0.7くらいまで上昇。今は12月以来の相関度の高さとなった。

(2)直近の市況:1

大発会の大幅安で2万円を割り込んだ後3日連騰で約900円高をなし、これは12月初日から26日安値までの下げ幅の約3分の1戻り弱に至ったが、「3分の1戻りに敬意を表して」10日(木)には再び2万円に迫った。7、8、9日の3日間の上昇はNY株・アジア株の上昇につられたものであるが、FRBのパウエル議長が金融引き締めを一時停止する可能性を示したことで市場心理は安心感を取り戻した。(★註)
大発会の大幅安で2万円を割り込んだ後3日連騰で約900円高をなし、これは12月初日から26日安値までの下げ幅の約3分の1戻り弱に至ったが、「3分の1戻りに敬意を表して」10日(木)には再び2万円に迫った。7、8、9日の3日間の上昇はNY株・アジア株の上昇につられたものであるが、FRBのパウエル議長が金融引き締めを一時停止する可能性を示したことで市場心理は安心感を取り戻した。(★註)

日銀が12月の短観でまとめた大企業の18年度の想定レートは109円だから、先週の108円台は想定レートよりも割高である。輸出企業の業績は下方修正する可能性もある。(★註)FRBが「金融引き締めを一時停止する」ということは米国景気が「拡大期」から「山」を経て「後退期」に入る恐れを察知してのことである。したがって、このFRBの「引き締めを一時停止」を本当は喜ぶべきではなく、凶兆なのだ(既述)。しかし、上げ潮ムードに乗った相場はそれに気が付かない。後で気が付くのだ。

騰落レシオが「売られ過ぎ」の目途とされる80%を下回ったまま推移している。騰落レシオが80%を13日連続で下回ることは滅多にない。最近では2106年2月、前年夏の壮年期相場大天井の終焉(「チャイナショック」と呼ばれたが)の16年2月以来3年ぶりのことである。大発会の翌日からの戻り相場が止まった20,400円台は、201,500円台とともに売買代金の膨らんだ地帯である。したがって、戻り売りの密集地帯となることが想像できる。
14日から米企業の10~12月の決算発表が本格化する。勿論日本の株価の先行指標になる。

追証売り一巡し、マザーズ株上昇
新興市場に個人マネーが戻っている様子が見られる。個人投資家の含み損は縮小し、投資家心理が改善していることが背景にある。松井証券が発表する、マザーズ市場では信用評価損益はピーク時の12月25日のマイナス36%から急激に縮小しマイナス21%にまで縮まった。QUICKが算出する市場全体の信用評価率も12月28日時点のマイナス18%が4週間ぶりに改善された。
信用取引評価損益は短期市場としては重要な指標である。2016年2月に壮年期相場から6,000円下がったところ、そして2016年6月これも壮年期相場から6,000円下がったところで、2月1円違いのダブルボトム、この時に信用取引評価損はともにマイナス35%だったと記憶している。

(3)当面の市況:2――長期の目で見て大勢下限に入っている著名銘柄はいくつも出てきた

大発会は大幅下落、翌日は大幅上昇の波乱状態で新年を迎えたが、大納会から見れば「行ってこい相場」だった。3日目は少々上で引けたという程度である。2日目の大幅上昇は米景気の減速懸念が後退したということである。これは米雇用統計の結果が市場予測よりも大幅に良かったことによる。パウエルFRB議長が金融引き締めを急がない姿勢を示したことなどによって市場心理が好転したということであろう。いつでもそうであるが、短期的な市場の動きというものは市場心理によって激変する。

それを客観的数値に表すものとして恐怖指数と呼ばれる米VIX(米変動制指数)というのがある。本稿でもよく言うVIX指数である(★註)。これによって短期のヘッジファンドなどが短期的にては強気転換した。VIX指数が「厳冬前の小春日和」と称された10月・11月前後のレベルにまで下がった。米VIXは昨年12月24日をピークとして21にまで低下した。「20」が心理的節目とされているようだ。相場が乱高下しているにもかかわらずVIX指数が低下し、市場安定を示すのは何故か。これは相場下落に備えて保険つなぎ売りのためにプット(売る権利)を買っていた投資家が、相場急落によって買い戻しに入った。つまり「踏み上げ」である。プットを買っていた投資家が利食い売りに入ったのだ。株価はここからの一段の下げは見込む必要はないからプットは不要だという見方で短期ヘッジファンドがプットを解消してきている動きがある(★註)VIX指数はオプション市場の値動きから算出する。両指数の低下はヘッジファンドなどの短期投資家の強気転換の現れとなる。

「動画」でも何度も述べたし本稿でも述べたと思うが、長期の目で見て大勢下限に入っている著名銘柄はいくつも出てきた。PBRで0.4~0.7、PERは一桁、長期的に見て大勢下限、というものがいくつも出てきている(★註)。大底圏というものは全銘柄が一斉にそろうとは限らない。銘柄別にバラバラに出てくることがある。いざなぎ景気の2倍半になった相場の大底入りはその典型であった。また、「失われた13年」の大底入り03年の春もその様相があった。「『ここまで来たか』という銘柄はいくつもある」(三井住友アセットマネジメントのシニアファンドマネージャーが語り、08年のリーマンショックと比べても株価指標が割安に映る銘柄が増えている)。別の大手運用会社のグローバル株の運用担当者も「さすがに下げ過ぎ」として打診買いを入れているという(日経新聞1月8日号)。
(★註)①サイバーダイン(7779)は450円まで下がった株だが約100円高を示現し、その近辺で留まっている。②データ偽装で大幅に売られたKYB(7242)(旧・萱場工業)は2400円から3000円になり週末は2800円前後。④動画で石原氏が述べた三井金属あたりは2000円の株が2300円になっている。全部が「特殊な穴株」ではない。いわば、大通りに在る著名銘柄である。

(4)「炭鉱のカナリア」――ハイイールド債(低格付け債券)は株価危機を事前に知らせる装置

米中貿易問題が次官クラスの交渉で改善されるという期待→NY株式市場の上昇→日本株の主力株が上昇(ホンダ、京セラなどの輸出関連株が高い)という経路をたどり、海外勢の買い戻しが続き、個人投資家の心理も上向いたと見える。別の項目で米VIX(「恐怖指数」)が急速に落ち着き状態を取り戻したことを述べているが、この項目ではもっと判りやすいものを略記しよう。

これは「炭鉱のカナリア」と呼ばれているもので、発生史的には産業革命の頃イギリスの石炭を掘るときに籠に入れたカナリアを持って炭鉱の中に入る。有毒ガスが発生するとカナリアが突然鳴かなくなって静かになる。有毒ガスの発生を鉱員が察知するためのシグナルとして重用されたことから「炭鉱のカナリア」は危険信号の察知とされてきた。危険予知装置としてこの言葉は使われるようになった。具体的には米国の低格付け債低格付け債(高利回り債)の債券価格の変動である。低格付け債というのは数年前に筆者もある程度の量で買って償還を待たずに値上がりしたので利食いしてしまったが、かなり値動きが」:・激しい。無論、投資不適格銘柄を買う。株で例えれば、低位仕手株である。これの変動が株価変動に先行するとされている。年金運用者や保険会社やファンドなどの投資家は株式投資用に低位格付け債の下降を景気後退のサインとしている。

我々が一番見やすいのは日本市場に上場しているシェアーズ米ドル建てハイイールド社債ETF(コード1497)である。10月2日の日経平均24,400円の時はこのETFは2,450ポイントだったものが12月下旬には2,242ポイントに急落し、これが現在は2,300ポイントに戻っている。一昨年の12月から見ると、2,600ポイントが2,200ポイント台にまで下がったことになる。株価に先行して下がるという言い伝えは事実であるようだ。株式市場にとってハイイールド債(低格付け債券)は急落の危機を事前に知らせる装置であり、「炭鉱のカナリア」と呼ばれているようである。昨年10月にNY株が天井を打つ数日前に下降に転じ、日本株に対しても同じことが言える。これが12月25日を底値として2日目に寄り引け同値の十字線を出し、急騰している。つまり危険装置が解除されたように見える。

この背景には二つあり一つは米製造業景況感指数が急低下したことと米アップル社の中国販売の悪化に伴う業績の下方修正である。この二つが年末年始に立て続けに年末年始に続けて出た二つの悪材料だった。株式市場に先んじて低格付け債(ハイイールド債)が暴落を始めた。これが急激に戻した。但し、空売り筋の買い戻しだから短期的な自律反発に過ぎないという見方が今は常識だろうが、株式市場の外にある低格付け債(ハイイールド債)の価格が急騰していることが、あまり弱気に深入りする必要はなかろうということにもとれる。  
以上のことは日経新聞1月9日の証券記事に「鳴き声戻ったカナリア」として低格付け債(ハイイールド債)の急落急騰のグラフが出ている。

石原さんにお願い
1月9日の日経新聞の16ページの左上にグラフが出ています。それを計算して下さい。

(5)今年10月の消費増税は日本経済を破壊する。但し大幅な財政出動で景気刺激すれば株価は中間反騰でも大幅に反転する

過去3回消費増税をした、その時は国内景気は好調であったし、国際問題も大きな問題はなかった。それにもかかわらず消費増税後はGDPが減った。ましてや今年は戦後最長だった記録を更新する好景気はピークアウトし、消費増税の頃は既に後退期に入り、「収縮期」に入る寸前かもしれない。

安倍首相がモリカケ問題で財務官僚に借りがあるからその借りを返すために増税を生き甲斐としている財務官僚への恩返しを含めて消費増税を強行すれば、今までの3回と違って景気後退期における増税であるから日本経済を決定的に破壊する。
今までの3回は全て国内景気の好調の最中であった。1回目はバブルの最中であったし、2回目の97年は消費増税により日本はデフレ経済に突入し翌年には大手都銀や大手証券が破綻する金融危機を地獄の淵を覗いた。本格的なデフレ経済突入への分岐点となった。その時点から日経平均は半分以下になった。
経済の停滞によって法人税・所得税が縮小し、その結果として政府の税収は10兆円以上も減り、財政は激しく悪化した。

3回目の2014年の8%への消費増税はアベノミクス相場の青春期から壮年期にかかる元気盛んな時代であり、経済の実態そのものも好調だったにもかかわらず日本経済に大きな打撃を与えた。この時、内閣官房参与のメンバーは猛烈に反対した。浜田宏一博士などは「どうしても増税しなければならないなら1年に1%ずつやって3年間で3%にしたらどうか」とまで説いた。それでも5%から8%へと増税率としては60%の増税をした。
その増税前までは国内の消費は順調に増大していた。しかし消費増税後は国内消費は一気に縮小し、4年以上経過した現在でも増税前の水準より5兆円も低い。
言うまでもなく消費はGDPの6割を占める。その6割を占める部分にヒビを入れるのであるから当然GDPは縮小する。ましてや景気が山を過ぎて「後退期」に入り、場合によったら「収縮期」に向かう途中かもしれない。

今年10月の消費増税の影響を和らげるためにポイント制にして消費者に得点を与えるという案が出ている。そのためにはカード決済をしなければならない→すると小売店もキャッシュレスになるから→小売店の課税逃避行為が防げる→全国の夥しい小売店からの政府の税収が多くなる→モリカケ問題で恩に着ている財務官僚を慰撫できるし、あわよくば税収も増える。
このような経路を説明すると全国の夥しい小売店の票田を失う→消費増税前に7月の選挙がある、それが過ぎるまではアカラサマな悦明は避ける。

この経路で税収に勝算ありとなれば→大幅財政出動で株価を上げて景況感も上げることが出来る、この思考経路を政権と官僚が踏めば、そこから一相場あり得る。
「失われた13年」においてさえ大幅な財政出動で景気刺激すれば株価は中間反騰でも大幅に反転する、という事実を我々は3回見てきた。(これを野村総研R.クー氏は「(この程度の財政出動で株価と景気を一時的にも上げたのは)安い買い物だったのです」と直後にテレビで語っていた。当時は野村に居た上草一秀氏も同じ意見を激しく主張していた。

しかし本筋から言えば、持続可能な経済成長と財政規律の堅持をともに遂行するには、①消費増税を凍結する、②逆に消費税を減税する→さすれば日本経済の6割を占める消費が活性化し→GDPは増大する→税収も増える→財政規律へ向かう。
繰り返すが、消費は日本経済の6割を占めるのだ。他の何を締め付けるよりもこれにヒビを入れることが最大の打撃となる。
今度延期すれば、再々々延期となる。むしろ、増税法案を思い切って廃案にすることだ。そして減税法案をつくることだ。これが嘗てのレーガノミクスの眼目だった。これができなければ日本経済の活性化と財政規律を守ることはできない。

筆者がここで説いていることは下記の本に詳しい。「10%消費増税が日本経済を破壊する」。衝撃的な題であるが、トンデモ本ではない。由緒正しい学者(★註)が多くのデータを駆使して説いたものである。
(★註)安倍政権成立直後、内閣官房参与、京都大学大学院で理系の学者。晶文社、2018年11月刊)

因みに筆者のゼミの友人N氏との交信を掲載する。(1月8日)
(N氏)「ジム・ロジャーズ氏のコメントです。日本株は既に全部売った。日本に必要なことは財政赤字の削減と減税だ、と指摘しています。」
(山﨑)彼はポジショントークが多いが、日本株を全部売り切ったというのは事実と思います。
(N氏)賃金が上がらないのに消費税を上げれば、さらに消費は落ち込み、デフレを支えます。デフレ脱却を唱えるアベノミクスとは真逆の政策です。
(山﨑)下線部、同感です。消費増税は過去3回とも景気を破壊し消費を減らせてデフレ進行に追い撃ちを懸けた結果になりました。

但し超大幅な財政出動で景気刺激すれば株価は中間反騰でも大垪和に反転する。
現に趨勢下降の途中での「失われた13年」の期間でさえも大幅な財政出動は日経平均で6割上昇相場を演じた。いずれも長い下降趨勢の中間反騰であったが。平均6割の上昇は、「爪を伸ばす」ことさえしなければ一稼ぎできる。

(6)米中貿易戦争は景気後退を招く(未公開株ファンドの大手の最高経営責任者の言い分を要約)11日、日経新聞掲載

1:米中貿易戦争が景気後退の契機になる。
2:良好な市場環境は終わりに近づいている。
3:日本の未公開株市場は拡大が続く。
4:世界の株式市場の10年間の良好な環境は終わりに近づいている。
(筆者註:10年間というとリーマンショック後の日経平均7000円時代を言う。日本市場は民主党の政治不作為時代があったから3年間無相場時代があり12年11月から相場が始動したが、アメリカをはじめとする世界の市場は09年のリーマンショック後の最安値を以て始動点としている、するとNYダウは4倍になった勘定になる)
5:欧州の未公開ファンドが米国より高いリターンを出せたのは米国より改善すべき点が多くあったからだ。

(7)今年の最大テーマたる米景気のピークアウトとFRBの政策対応に対するトランプの攪乱

今年の最大のテーマは日米景気のピークアウトである。
1960年に旧経企庁が創始した、政権の思惑や評論家の意見などから一切独立した客観的・機械的に計測される景気動向指数の循環から言えば、「拡大期」を越えて「山」を通り過ぎて「後退期」に入るということである。10月からの3ヶ月で20%を超える下げを演じたのはそれを先見して株価がそれに先行したのだ。その大きなテーマに向って政策対応も今年のテーマとなる。
具体的にはFRBとECBと日銀の金融政策であり、国際協調であろう。しかし、国際協調は今年は極めて難しい。2015年の壮年期相場の大天井から半年で3割下げて、2016年2月(14,885円)のときは「チャイナ・ショック」と呼ばれたが、要するにアベノミクス壮年期相場の終焉での3割下降だったのだ。
その時にはチャイナ・ショックが世界的な金融危機に波及しないように20ヶ国財相・中央銀行総裁が集まって国際協調(所謂G20)が整い、金融市場の混乱を未然に防いだ。G20の共同声明に至った。
ところが今回はこれは極めて難しい。現に先回のG20は共同声明の採択が不成立で混沌の中で閉会した。
FRBが世界に先駆けて「異常な流動性供給」からの正常化を粛々と確実に進めてきた。この延長線上に19年2回と20年1回の0.25%利上げを「市場との対話」で進めようとしてきた。ところが、トランプがこれに介入し、遂には正面から反対を主張し、最近ではパウエルFRB議長をクビにする可能性まで言い出した。
トランプにとっては今年は株安で来年の跳躍のために屈伸し、来年跳躍して株高になる、というのが来年秋の大統領選再選に向けて望ましい。故に今年のNY下落をトランプはFRBのせいにしたいのだ。来年の跳躍は自分の手柄として、今までのように株高を強力な武器として使う。こういう大統領のもとで従来のような国際協調により金融市場の混乱を未然に防ぐということは期待にしにくい。今後の不確実性リスクは、トランプの存在そのものであろう。

しかも、今年の1~3月は業績の下方修正が出始めるであろう。アマゾンの下方修正はその明確なる兆候である。

(8)トランプ・リスク

先の項目で「トランプの存在そのものが最大のリスクだ」と述べたが、新しい大相場の始動は歴史に見る通り政策発動が契機となる。そこへ市場の自律性が作動するのだ。
言うまでもなく米国は世界一の経済大国で軍事大国の覇権国家である。言わば、カネと暴力(GDPと軍事力)を持った超大国という暴力装置である。その国の大統領に大問題のある人物が選ばれてしまった以上は世界の政治・経済が振り回され、その振幅に輪をかけて市場が振り回されるのは必然である。
1月6日号で「こういう大統領のもとで市場で利益を出すのは至難の業である」と述べたが、事実は事実として受け入れて割り切って身構えるしかない。

ちなみに米ギャラップ社と読売新聞との共同調査の結果を要約する。
① 日米関係は良いか。「良い」が日本では39%(昨年は56%)。「悪い」が39%(昨年は23%)。
② 米国を信頼しているか。「している」が30%(昨年は39%)。
③ 米国が日本を信頼しているか。「している」が70%(昨年も70%)。
と対照的である。
④ トランプ政権の仕事ぶりを評価するかは、「評価する」は19%(評価しないが69%)。
⑤ 貿易不均衡の是正要求については「納得できる」が日本では10%(できないが75%)。米国では「できる」が50%。「できない」が39%、である。

「ねじれ議会」のもとでは、今はトランプ包囲網の外堀が埋まりつつあるのでトランプの進退につながる可能性もある。
① まずは下院民主党による行政への監視権限強化である。委員会の召喚権を使って大統領の交友関係・側近・親族までを議会証言を求めることは必至だ。トランプ自身の納税記録・選挙期間中におけるロシア共謀疑惑など膨大な調査資料を下院民主党が保有しているという(筆者の親しい、例のアメリカ通の友人の話し)。
② 中国問題は3月には全国人民代表大会(全人代)があるので、中国が安易な妥協はできず習近平政権にとって正念場となる。米中貿易戦争は以前から既述の通り、ことは物流・商流の点よりもむしろ、IT関係を通じての軍事機密に関することが重大問題として伏在しているから、仮に習近平政権が将来なくなっても、トランプ大統領が更迭されても、かつての米ソ冷戦のように「新冷戦」として半世紀近く続くかもしれない。

しかも新冷戦は旧冷戦のような明確なイデオロギーの相違や価値観の相違が鮮明でなく、両国ともに資本主義体制でありグローバルな貿易によるところが多いから新冷戦は旧冷戦よりも複雑である。米中貿易戦争は共和・民主党にかかわらず米議会が超党派で動いている点を見逃してはならない。
③モラー特別検察官によるロシア疑惑捜査の結果発表が遠からずしてある。元顧問弁護士などが罪を認めて捜査に全面協力している。先ほど「外堀は埋まりつつある」と述べたのはこのことだ。大統領の進退につながる可能性もある。弾劾裁判が始まれば、もし弾劾されなくとも、トランプ政権の機能が麻痺する。市場は当然にこの影響を受ける。

市場の反乱は初期対応を誤るとリーマンショック級の、金融市場の神経機能を激動させることにもなりかねない。

若林栄四氏がその著書で「米国内の貧富の格差の醜悪さは政策では是正できず、市場が天罰を下す以外にない」と述べて、NYダウは6000ドル(桁違いやミスタイプではない,6000ドルという)になってしまうと述べている(もっとも若林氏には独特の歴史観があり、その相場予測は常に100%がチャートによる。しかも黄金分割の計算式とその延長線上に作図されたものによる。これを信ずるか否かは各自の自由であろう。

(9)衆参両院選挙の可能性

参院選が3年に一度、統一地方選は4年に一度であるから、その最小公倍数が12年に一度、春の統一選挙と夏の参院選が行われ、その12年に一度は1947年以降18回目に及ぶ。
自民党は4月の統一地方選の結果次第では7月の参院選で苦戦を強いられるであろう。衆参同日選挙の可能性が強まったという見方が支配的であると筆者は感じる。自民党にとって衆参同日選はリスクが大きすぎると自民党執行部は思っているであろうが、安倍首相は「外交の安倍」に自信過剰であるから1月21日のモスクワ訪問の日露首脳会談(24回目だと思う)において平和条約締結・北方領土返還に進展があると考え、それを武器として衆参同日選を戦う気らしいが、「外交の安倍」の外交能力はニコニコ笑って握手して別れる上滑りだけであって、外務省のテクノクラートを使って実務を詰めて行って文書に落とし込むという能力は極めて乏しい。国際間の約束は詰まるところは文書化だと筆者は思っている。本稿ではトランプのことを心配している場合ではなく、むしろ国内の政局不安を凝視しなくてはならなくなるだろう。

(10)「市場関係者」を対象にした日経ヴェリタス紙のアンケート(12月下旬実施。有効回答79人)

要約すると下記の通りである。
19年前半の1~3月に相場は底入れ。年央高シナリオ。
そのバネは5月までに出そろう19年度の企業業績見通し。
回答者の6割以上が経常増益と予想。
高値予想の平均は2万3,659円(筆者註:昨年10月2日の24,400円を抜けないのだから、中間反騰と見ているのであろう)。

「市場関係者」が注視するのが米国の景気動向である。複数回答ありとする。上昇要因は米国の景気拡大(55%)、下落要因は米国の景気減速(60%)
トランプが再び財政・税制政策に注力し、株価にインパクトを与える可能性がある。
「19年に減速感が強まり、2020年は景気後退局面に入る」という見方が16%(筆者註:2020年に景気後退入りとすれば、株価は2019年に下がるはずであるが)。

日本株の上げ下げを左右する海外投資家が昨年現物株は31年ぶりの規模で5兆円超を売り越した。31年ぶりというのは87年のブラックマンデーの時以来ということである。この売り越し金額がそのまま買い越しに転ずる可能性もある。誰が何を予想しようとも自由である。

(11)日米ともに戦後最長の景気拡大、これのピークアウトは今年来る

今年は日米の景気拡大がともに戦後最長を更新する。ところが米国では短期金利が長期金利を上回るという「逆イールド現象」が発生する時があった。
既述したと思うが、この逆イールド現象はほぼ必ず景気後退の予兆とされる。FRBは年2回の利上げを見込むが、米中貿易戦争の影響で景気後退リスクを警戒する市場との間には多少の会話のズレがある。
日経新聞の1月6日付のトップ記事はFRB議長が利上げの一時停止を示唆したとある。市場の鎮火を優先させるという。FRBが景気後退期に利下げで景気を刺激するためのノリシロをつくるためにだいぶ前から0.25%ずつの利上げを何回も繰り返し積み上げてきた。ところで、FRBは先ゆきの景気を警戒し始めている。景況感指数は10年ぶりの悪化、世界景気も下振れ懸念、原油価格は高値から一時4割安、米中の貿易戦争懸念等である。

今年は米景気の動向をにらみつつ世界景気の後退期入りを視野に入れて戦後最長の景気拡大の終焉を意識する年となろう。今年の7月で米景気は満10年となり、所謂ITバブル景気(91年3月から2001年3月までの120ヶ月)を抜くことになる。これに対する警戒感である。

(12)大底を示現して次なる大相場を作出するものは常に政策対応と市場独自の力との合作である

それでは満6年に亘って始動点から2.8倍になったアベノミクス大相場の「大底」は「いつ、いくらのレベル」で示現するのかということは率直に言えば誰にも予測できない。

ただ、大底を脱して次の大相場にかかる契機は一にも二にも政策対応であるということだけは言える。そこへ市場内部要因の力が作動するのだ。大相場とはこの二つの合作で成立する。この二つが揃わなければ互いに一人相撲に陥る。

今回を除いて史上2番目だった「いざなぎ景気」の始動は、65年夏に戦後初めての国債発行による財政出動であった。しかも、当時は幡ヶ谷から羽田までしかなかった高速道路を首都全体に拡充する、または、東京・大阪間しかなかった新幹線を日本国中に拡充する、という気宇壮大で分かりやすい財政出動だった。くじ引きで当選した人しか入居できなかった公団住宅を何十万戸も建設する、という判りやすい財政出動だった。これが契機で「昭和40年不況」を脱して5年弱で2.5倍の「いざなぎ景気」を示現した。90年からの03年までの「失われた13年」の間でさえも、財政出動で1.6倍になったことは3回ある。「失われた13年」から脱出して「いざなみ景気」を生んだ契機は、銀行の不良債権に対する公的資金の強制注入だった。これによって救済したことだ。その最後の救済が03年春のりそな銀行への2.2兆円の注入だった。
日本の株価はこれを契機として、そこから2.4倍になって小泉郵政改革相場の大天井に至った。この大相場もきっかけは公的資金による不良債権処理という政策対応だったのだ。次に08年9月発生のリーマンショックからの立ち直りは、中国・米国・日本という順番で規模もスピードも(自国の市場救済が第一であったが、結果としては)国際協調の姿となった金融政策であった。

その時点から見ればNY市場は4倍、日本市場は3.5倍となって昨年のNY市場大天井、昨年10月2日の日本市場の大天井に至った。

このように大相場の始動は政策の発動が契機となり、その後も政策に乗っかって発展してきたという経緯がある。
政策が出ずに市場独自の力による反騰相場は、所詮は「自律反騰」という中間反騰に帰着してしまう。

ところが、今年は政策の国際協調は難しい。それを妨げるのはトランプである。したがって、今年の最大のリスクはトランプの存在そのものであろう。16年秋のトランプラリーから日本は4,000円上がって5,000円下がった。何のことはない。トランプに振り回されたという結果であった。その点、NYはいまだ下がり足りないと思う。

(13)ブラジルレアルとトルコリラの長期見通し

○ブラジル・レアルについての期待
ブラジルの新大統領が就任し市場の期待を集めている。右派ボルソナロ新大統領が就任した。彼は軍人出身だが、経済政策を優先し構造改革を進める姿勢に対して市場は好感しているという。
主要株価指数は上昇基調を強め通貨も上昇を期待されるところだ。ブラジルは長年保護主義で非効率的だと指摘されたが、新大統領のもとで生まれ変わる可能性を市場は期待し始めるであろう。就任演説では、財政の立て直しに取り組む考えを表明し経済分野に時間をかけた。
元軍人のボルソナロ氏は、愛国主義的な言動や女性蔑視の言動などの発言などで泡沫候補と見なされていたが、選挙戦が進むにつれて新自由主義的な政策を掲げて左派候補に対抗した。大統領就任後も新自由主義的な政策を描いている。
経済省にはパウロ・ゲジスが経済相に就く。彼はシカゴ大学で新自由主義者の故ミルトン・フリードマンのもとで学んで(4代前の野村證券社長の氏家社長もそうだった)、財政再建など新自由主義的な路線を主張している。
このような経済重視の姿勢を市場は好感している。通貨レアルも対ドルで強含みになってきた。反米左派と親密だった歴代左派政権からの方針転換をアピールしている(「ブラジルのトランプ」などと言われ方言癖もあったから必ずしも安心はできない)。しかし、ここで新しい風が入ってきたことは確かであろうと思われる。

○トルコリラとブラジルレアルについて天才的国際政治学者2015年11月の言い分
天才的国際政治学者(★註)と言われているイアン・ブレーマー氏は今から3年以上前(2015年11月16日の日経新聞)において述べていたものを要約する。
「今後2年(筆者註:当時エルドアン大統領は就任していた)に限ればブラジルにもトルコにも多くは期待できまい。とは言え、両国が直面している危機は、経済の長期的潜在性が開花するために必要な好ましい持続的変化を起こすきっかけとなるはずだ。(中略)、世界で最も重要な二つの新興国で運命の好機から恩恵を受ける人々にとって良い知らせとなるだろう」
(★註)米調査会社「ユーラシア・グループ」の社長。最若年で米国著名大学で教鞭をとった。著書に主導国の無い時代を論じた「『Gゼロ』後の世界」など。3,4年前に来日した際に日興証券主催で品川のホールで同時通訳の講演会があったので筆者は興味本位で参加したことがあった。

○再び、ブラジルレアルとトルコリラの長期見通し
日興証券投資情報部の見方を要約する。

ブラジルレアル
当面は堅調に推移。先は徐々に押し戻されると予想。14年の大統領選挙で左派のルセフ氏が当選し、その後は財政再建は停滞。テメル政権下である程度前進し、レアルは堅調に推移。もっとも先行きは改革期待の後ずれによりレアルは徐々に下押しに戻されると予想。
トルコリラ
ジリ高基調をたどると予想するが、引き続き政治・政策面のリスクはある。経常赤字の大幅縮小→リラはジリ高基調をたどると予想→但し、政治・政策面のリスクには引き続き不安は残る。
トルコは「中東の優等生」から→エルドアン大統領の独裁国家に変貌してしまった。大統領は大衆迎合政策に傾斜し、金融政策への関与も強める。経常赤字の大幅縮小、インフレの鈍化、対米関係の改善などを考慮すると引き続き不安はあるが、結局はリラはジリ高基調たどると予想される。ただ、エルドアン大統領が中央銀行に対して利下げ圧力を強めた場合リラは再び下落基調をたどる。

景気の減速傾向が続けば→輸入の減少を通じて→経常赤字は大幅に縮小→リラは安定する。しかし、政府が大規模減税策を打ち出せば→経常赤字は再び拡大→リラ安に転ずる。

(14)市場を揺るがす統計数値

標題の件は「発表された数値そのものよりも市場の事前予想に対するプラスマイナスの乖離が市場を動かす」ということを言いたいためだ。
円ドル相場は3日の日には一時104円台を付けた。ところが急激に109円まで半日で戻った。これは日本が正月休みで空白のところでの104円現象と雇用者数の前月比と平均給与の前年同月比がいずれも市場の事前予想よりはるかに上回ったからである。
円ドル相場が半日で4~5円も動くということは、東日本大震災の際にも起きた。この時は80円前後のものが4円の円高に振れた。これは震災と原発事故を「有事」と見て、安全資産の円に置き場所を求めて殺到したためである。
円が世界有数の安全資産と見られていることは有り難いことではあるが、経済的に見たら現実的には大変迷惑な結果になる。
1月4日発表の米雇用統計はドル買い円売りに激動し、104円が110円に激変した。

中国税関総署が貿易収支を発表する。これに対しても注目が始まる。トランプは対中貿易赤字を問題視しているから、中国の黒字がさらに拡大すれば米中貿易戦争は激化する可能性がある。

もう一つ市場や政策に大きな影響を及ぼすのは日銀の3ヶ月後ごとに発表される日銀の短観である。全国企業短期経済観測のことを言う。これを1万社にアンケートして殆どの企業から有効回答を得ている。これによってつくられた景気判断指数DI(Diffusion Index)は方向を示すものである。日銀の金融政策を決める際にも大きな参考となる。
もう一つ筆者も日銀も大いに参考にしているのは、1960年に旧経企庁が創始した景気動向指数である。これは景気先行指数指標11系列、景気一致指標11系列、景気遅行指標7系列、計29系列の経済指標から構成される加工統計である。よって機械的・客観的につくられるものであるから時の政権の思惑を入れる余地はないし評論家の意見に左右されることもない。
筆者が景気循環の波を見ているのはもっぱらこの景気動向指数による。これは1960年代に創始されて何回かの指標改定会議を経て今日に至っている。この経済指標改定会議は経企庁(現在では内閣府の一部)に関係ない外部の学者7人からなる客観的な委員会である。ちなみに筆者の知人の嶋村雄二氏も古くからその一員である。何回かの経済指標改定会議を経て指標の一部は入れ替わることはあるが、継続性を保ち、IMFからもOECDからも大いに評価されて信用されている指数である。100年以上の歴史を持つアメリカのハーバード景気指数もこの類であるが、これはあまり話題になっていない。

(15)米中貿易戦争は長引くが結果的には中国は軟化して米国の圧勝に終わる

米中貿易戦争はこのままの事態が進めば、年月は長引くが米国の圧勝に終わる。このことは中国国内でも分析されている筈だから、中国が対米政策を少しずつ転換してくる可能性がある。攻撃的な姿勢は少しずつ後退するであろう。 
中国共産党はバカではない。冷戦終結時に誰が今の中国の台頭を予想したろうか。当時は米国の一極集中時代を想定していたが、急速に中国が台頭し二極時代に入った。しかもこれは米ソの対立よりも陰湿である。
中国にとって毛沢東思想は過去のものとなり、鄧小平の唱えた「社会主義下の市場経済」も全く別物に変質し、国家経営下の市場経済となり国家資本主義へと変質した。
中国にとって優先順位の第一はもちろん経済である。そしてその経済は冷戦時代のソ連と違ってグローバルに輸出に依存している。「一帯一路政策」も基本的にはグローバルな国際経済を前提としての戦略である。
民主主義・対・全体主義のイデオロギー闘争は民主主義に軍配が上がった結果になったが、国営資本主義の中国があと7年で少なくともGDPだけは米国を追い抜くという恐怖がある。
軍事力も、古いソ連から仕入れた古い技術体系ではなく、先端技術化された強力なものになりつつあるというのは軍事専門家の見方である。

この中国が今までのような対米強硬姿勢をとり続けると、長老たちが困ることになるであろう。
それには次のような事情がある。江沢民・朱鎔基・胡錦濤などの長老もその親族も自分たちの特権を利用して巨大な経済利益を入手しているから、その資産を欧米に隠しているケースが多いということは間違いない。米国と中国が全面対決すれば、経済に支障が出ることはもちろんであり、これは表向きに誰でも予想できることであるが実体は長老たちの欧米に隠した資産が凍結されてしまう恐れがあるということで、長老たちが対米強硬姿勢を猛烈に反対する態度に出るであろう。長老を中心にして「習近平おろし」の動きが秘かに進められ、これを察知した習近平は対米姿勢を軟化させることを条件に長老たちの企む「習近平おろし」を乗り切ろうとするに違いない。長老たちも、いずれ死亡する。自分は終身権力を握った。
中国の官製メディアがこの数ヶ月来、対米批判を控えるようになり、米国との関係を軟化させつつあるのは長老たちの圧力があると筆者は勘ぐっている。

(16)トランプは、「中国の覇権国家化を食い止めた偉大な大統領」として世界の現代史に残る人になるかもしれない

トランプなんて言う変なのを大統領に選んだアメリカ人はバカだったのか?
否、後世、「中国の覇権国家化を食い止めた偉大な大統領」、と言われて世界の現代史に残る人かもしれない。
今から27年前、地中海上の小国マルタで、当時冷戦中の二大覇権国家米ソが会合して、レーガン対ゴルバチョフの会談が冷戦中止の手続きとなったが、当時、のゴルバチョフ評は単なる「体制の破壊者」であった。
1950年代末期から既に旧ソ連の体制崩壊を予言していた筆者のゼミの氣賀先生ですら「彼は単なるオポチュニストだ」とゼミの会で答えていたのを明確に記憶している。しかし、「オポチュニスト」が出なければ世界は変わらない。

その1年前に「ベルリンの壁」、そのベルリンの半年前に「天安門事件」、これを以て長谷川啓太郎氏は冷戦終結の予兆と看破して、以降は「今後は永久にデフレだ」とバブルの真っ最中から言い出した。その訳は、東側から大量の廉価な労働力が西側に流入するからだ、東側から廉価な製品は流入するからだ、とのことだった。
また言うが、彼ほど多くのことを予言し彼ほど多くを外れ多くを的中させた人は珍しい。
因みに、古代ギリシャのアリストテレスほど多くの事物を定義し多くを誤った人は珍しいそうだ。例えば、ヒトとは「二本足で歩く、羽のない動物だ」と定義したら、樽の中で暮らしていたホームレスの哲人デォオゲネスが、鶏の羽根を切り取ってアリストテレスのゼミに持ち込み、これが人間だ、と言って大いに畏敬されたり顰蹙を買ったりしたという話もある。

(17)「『現金は王様』は新年も続くか」

日本の対外純資産は300兆円を超えた。したがって、日本は一番安全な通貨の「置き場」であり、有事の際の最も安全な金庫なのだ。諸外国からそう思われていることは一見名誉なことであるが、経済的には大いに迷惑な話しだ。

本稿ではアベノミクス相場の「老年期相場」の期間中は、ほとんど常時、現金ポジションを多く持とうと本稿で言い続けた。
以下は日経新聞の編集委員前田昌孝氏が日経ヴェリタス紙で述べていることを要約して引用する。

「国内外の株式や債券など12種類の資産の年間収益率を振り返ると、(国内債券と国内不動産投信の二つを除けば)12種類の資産のうちの10種類は18年はマイナスのリターンとなったはずだ。分散投資が効かず、現金で持っていた者が一番トクだったということになる」と述べて、「『現金は王様』は新年も続くか」という標題で日経ヴェリタス紙2018年12月30日号で述べている。

(18)魔のゴールデンウィークか?

薫風さわやかなはずの5月1日は元号が変わる記念日で休日となる。
すると、4月下旬から5月上旬にかけて10日間の連休となる。その期間にもちろん、NYもロンドンもシカゴ先物も動いている。したがって、日本が止まっている間にシカゴ先物が激変する恐れがある。ちょうど18年末から19年にかけての6日間連休の間に海外からの影響を受けた激動は大発会の日経平均は瞬間774円の大幅安となり、翌日は一転して瞬間704円の大幅高を演じた。昨年の大発会も741円高を演じた。
休日中に円ドル為替は瞬間104円があった。株も為替も大納会から見たら「行ってこい」相場だったが、中身は暴落と暴騰であった。
「魔のゴールデンウィーク」は4カ月先のことであるが脳裡に置いておくと隙を見ての短気売買の旨みは採れる可能性もある。但し寸前に皆が言い出すようなら、この話しは帳消しにしよう。

(19)今年1年の円ドル相場の市場展望

円高派モルガンスタンレー為替戦略責任者の言い分。
昨年はドルは諸通貨に対して強かったが、その基調が今年は一転するであろう。特に円相場は今年末には1ドル102円まで円高が進むと予想する。欧州通貨は昨年は対ドルで大きく売られたが今年は大幅に反転すると見る。

円安派の野村證券、チーフ為替ストラテジストの言い分。
年初休日中に104年を瞬間付けたのは波乱の1年の幕開けを象徴する値動きだった。円相場は荒い値動きとなるだろうが、104円を超えて一段と円高が進む可能性は低い。トランプ政権も今回の株安で関税引き上げは米国経済にも痛手が大きいという認識は持ったはずだ。今後はトランプは個別のハイテク企業の封じ込めに焦点を絞るという手法に変化させるであろう。マティススなどの主要閣僚の辞任により政権運営が同盟国重視の路線から変化すると日本に対する自動車関税で強硬姿勢に出るリスクはある。
円安は米利上げが左右する.

(20)中国関連株が急反発

大発会の4日に中国の中央銀行が預金準備率の引き下げを発表→中国の景気減速への懸念が和らいだ。
今まで下落が目立っていた中国関連株が急上昇→中国関連株は空売り比率が高かったため、踏み上げの上昇であったと思われる→今回の急反発は一時的な買い戻しに過ぎないと見られる。
コマツが8%高、日立建機が9%高が中国関連株急反発の象徴であるが、日本郵船や商船三井等の海運株も市況産業の一角として、あるいは景気敏感株の一角として買われた。

(21)亥年縁起と選挙

4年に一度の統一地方選挙と3年に一度の参院選との最小公倍数が12年に一度の亥年の選挙となる。12年前の亥年と24年前の亥年は2回とも自民党が苦戦し、二度とも時の総裁は引退することになった。12年前は安倍現首相そのものの引退だった。「山より大きなシシは出ない」というのは池田勇人元首相が難局に直面した時に連発した言葉で、これは彼が旗揚げした宏池会の歴代領袖が好んで引用し連呼したものだ。ところで宮澤元首相は92年春の銀行株の大暴落を見て、いち早く平成金融不況の到来を察知し、公的資金注入による解決策を説いた先見の明のある人だったがが、これは大蔵官僚にもみ消された。不幸な運命を持つ。高度経済成長期に池田勇人のブレインだった人であるが、彼はまた不幸なことに自民党結党以来初めて自民党を下野させた総裁ともなった。彼も「山より大きなシシは出ない」と言ったが、「山より大きいシシ」が出てしまったのだ。4年に一度の統一地方選挙と3年に一度の参院選との最小公倍数が12年に一度の亥年の選挙となる。12年前の亥年と24年前の亥年は2回とも自民党が苦戦し、二度とも時の総裁は引退することになった。12年前は安倍現首相そのものの引退だった。「山より大きなシシは出ない」というのは池田勇人元首相が難局に直面した時に連発した言葉で、これは彼が旗揚げした宏池会の歴代領袖が好んで引用し連呼したものだ。ところで宮澤元首相は92年春の銀行株の大暴落を見て、いち早く平成金融不況の到来を察知し、公的資金注入による解決策を説いた先見の明のある人だったがが、これは大蔵官僚にもみ消された。不幸な運命を持つ。高度経済成長期に池田勇人のブレインだった人であるが、彼はまた不幸なことに自民党結党以来初めて自民党を下野させた総裁ともなった。彼も「山より大きなシシは出ない」と言ったが、「山より大きいシシ」が出てしまったのだ。今年は年号が変わる年であるが、平成に改元した最初の国政選挙は参院選だった。その時自民党は初めて過半数を割る惨敗を喫した。年号変わりには自民党が惨敗する、これはたった一度の例であるがこの事実と前回の亥年で安倍首相が首相を降りた、こういう事実が重なると7月の衆参両選挙は彼らにとっては穏やかな心境で臨むわけにはいかない。
今年は年号が変わる年であるが、平成に改元した最初の国政選挙は参院選だった。その時自民党は初めて過半数を割る惨敗を喫した。年号変わりには自民党が惨敗する、これはたった一度の例であるがこの事実と前回の亥年で安倍首相が首相を降りた、こういう事実が重なると7月の衆参両選挙は彼らにとっては穏やかな心境で臨むわけにはいかない。

3日続伸で大発会の大幅安という経路から約900円上を示現したが25日線には届かずに終わった。

投機家列伝(3)大経済学者たち、リカード、フィッシャー、ケインズ、シュンペーター、サムエルソン

大恐慌の長期低迷相場の頃、“球聖”ロバート・タイヤ―・ジョーンズ(通称ボビー・ジョーンズ)がグランドスラム達成の旅に英国に向っていたとき、ケインズはロンドン・シティーの投機市場の果敢なプレイヤーとして動いていた。一時は、大損をしたことも何度もあり、親からの説教の手紙も現存するようだが、結局は邦貨換算100億円を儲けて残した。しかも大恐慌後の長期低迷相場で財をなした。(ところで、彼はゴルフは下手だったそうだ。ちなみにシャーロック・ホームズの著者コナン・ドイルはスクラッチプレイヤーに近かったという)。
その前、崩壊前の熱狂相場の最中、“大経済学者”フィッシャーは、暗黒の木曜日 1929年10月24日の1週間前、「この相場は長期的に高値を堅持し、崩壊する何らかの理由も見当たらない」という旨を論述して熱狂相場に狂騒している人々に大受けしていた。フィッシャー自身もその考えを実行していたフシもあり、後年彼は自己破産寸前にまでなったという風説がある。「つむじ風の中心に近い奴ほど、つむじ風が来ることを予知出来ないものだ」(ジョージ・グッドマン)。

ケインズは経済学の歴史を変えたからマスターであるというわけではない。彼は単にケンブリッジの学究でなく、保険会社社長として成功し、経済官僚としても成功し、ロシアの美人バレリーナに恋してその公演資金をつくり(彼女は終生の愛妻となる)、八面六臂の華麗な生き方をして常人の何倍もの人生を楽しみ、かつ、ノーブレス・オブリージュにもかなっていたし、自ら「ハーベーロードの叡智」、「ブルームスベリ―の前提」と言っていた。ある意味では鼻持ちならない点である。「東大本郷通りの叡智」「東大赤門の前提」と言うに等しい。だから、マスターであるというわけでもない。彼がマスターであるというのは、金儲けの計画を立て片手間にシティーの果敢な投機師となり、実際に100億円を個人で儲け、そして大儲けするためのゲームを研究する上で欠くことの出来ない理論をつくり出したからである。これが、あの壮大なマクロ経済学となったことは明らかだ。「一般理論」と「説得論集」とハロッドと福岡正夫の研究からこれをはっきり知ることが出来る。
貧して鈍するようではケンブリッジの賢人街・ハーベーロードの住人らしくないということで、シティーの果敢なプレイヤーとして儲けるだけ儲け、その儲けを図書館建設に当てたり、バレーの公演資金にしたりして華麗に使った。
我々はマルクスの死亡した年に同時に生まれた大経済学者を2人知っている。一人がケインズであり、他の一人はシュンペーターである。
前者の多方面にわたる成功に対し、後者は大蔵大臣をやって失敗し、銀行の頭取もやったが破綻し、大経済学者としてのみ名を残した。
Creative-Destructionという彼のキーワードは、彼の経済学を離れて「創造的破壊」として普通名詞化したほどだ。

ところで、世上、我が国では立派な学者は投機などするものではなく、また、投機家は立派な学者になり得ないものだ、と相場が決まっているように見えるが欧米ではそうではない。ノーベル経済学賞のサムエルソンが株式で大損したので、かの有名なランダム・ウォーク理論(既報で既述)を構築したという風説もある。97年のノーベル経済学賞受賞者のショールズ・マートンは、株式・為替の投機に関する理論で一家をなし、ヘッジファンド会社の取締役にもなった(そのファンドは98年に破綻してFRBの口利きで「奉加帳方式」と呼ばれた大手各社の支援金によって救われたという経緯がる。

リカードは、その憂鬱な経済理論と言行一致で株式の未来に対しては投機しなかったが、株式仲買人として財をなした。また、ターレスやカルダノやケインズは、思索家として行動すれば儲けてみせたし、行動家として研究生活に入れば一世の学問体系を構築してみせた。これが「思索家の行動」であり「行動家の思索」というものだ、と考えたい。

こと株式のみでなく、投資の成否を分けるのは情報や頭の良しあしではなく、その人の投資哲学と生活習慣であることが多いような気がする。これは筆者の知人・友人の間で長い年月の中で感じてきたことではある。

ところで、毎年アメリカのフォーブス誌は金持ち400人を発表する。それによれば、成功した投機家たちは自分の獲得した巨万の富を湯水のように使えるはずなのに、大概は比較的質実な生活を守り、マスコミを避けて静かに生活することを好むという。そして、皆そろって自律した規則正しい生活を送り、読書家でもあるという。


【お知らせ】
「投機の流儀 セレクション」のアーカイブは、電子書籍の紹介サイト「デンショバ」にてご覧になれます。
デンショバ
http://denshoba.com/writer/ya/yamazakikazukuni/touki/

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。

ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

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