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【投機の流儀 セレクション】特殊な基準を恣意的に採って、日本を卑下することはやめたい。そこからは何も生まれない

JPモルガンが若い時に父親に説教されたと話しを思い出す。この話しは本稿でも述べたことがあるし、拙著でも書いたことがある。「この国で成功したいと思うならば、この国の将来を明るいものと見なければならない」というのである。

以下に紹介するのは田中泰輔氏の言う例えである。「強力な筋肉増強剤を用いて、偶然も左右して、突飛な新記録を出した、その記録を基準にして後々の健康状態を、老衰した、弱体化した、あの時の自分は凄かったが今はダメだと言っているようなものだ」という言い分である。良い例えだと思う。

今は何十年ぶりのインフレ株高の時代に来た。これをメガトレンドの変化と捉えて将来を見据えるのが本稿のあり方だ。過去の特殊な基準を用いて「衰退していく日本」という考え方には筆者には違和感がある。日本は1990年代始めに世界シェアの、GDPで言えば17%を占めたが今は4%だとか、当時世界シェアの30%を占めた日本株の時価総額は今や1割にも満たないとか、当時1989年には世界時価総額のランキングトップ50のうちの32社が日本企業で占めていた。今はトヨタ一社が三十数番目に入っているだけだ、等々の日本衰退論である。

これは事実であるから筆者もこれに与した者であるが、比較の基準が一定の「強力な筋肉増強剤を用いたまぐれの新記録」を基準にして比較しても意味がない。比較の基準の適切さが大事だ。恣意的に選び、または間違って選び(★註)、または日本衰退論を説くために都合のいい時を選び、日本はもはや発展途上国並みに遅れている、先進国の仲間から外れた、などという言い方からは何も生まれない。

安倍政権が誕生する時に「ニッポンを取り戻す」「日本経済を取り戻す」「そのために三本の矢を用意する」と標榜し、少なくとも70円台後半の円高を120円台に持っていって輸出産業を大いに潤して時価総額は3倍近くになり、株価も3倍近くになり、個人投資家も大いに潤い、少なくとも金融経済面では成功した。ただ、設備投資に影響を及ぼす成長戦略(三本目の矢)だけは掛け声だけに終わって功を奏しなかった。
しかし、一定の効果があったことは事実だ。「日本経済を取り戻す」と言って政権を担った。これは3年間の民主党時代から政権を取り戻すという意味ではなく、日本経済を取り戻すと明確に判りやすく言った。事実、一面では効果を出した。

物事の基本を恣意的に捉えたり、比較の基準を不適当に捉えたりして日本衰退論を説くことからは何も生まれない。円高になるほど輸出価格が抑制され、それがまた円高を促す悪循環となった。円高部分を輸出価格に転嫁できず、海外市場のシェア確保に走ったからだ。日本と一緒に輸出強国とされたドイツは通貨の実質レートは安定的だった。国際比較を含めるだけでも歪んだ誇張論を見直す助けになる。歪みを正すべき為替専門家が「50年ぶりの円安」などと語り、日本衰退論を語るのを見ると日本が一世代遅れていると言いたい。
こう述べるのもまた自ら卑下していることになる。我々は適切に市場との距離を置くが反市場主義者ではない。間合いであり間積もりである。

(★註)ちょうど1929年のアメリカの不動産バブル中でマイアミの海の中を「あそこは24時間中に何分かは引き潮の時に陸になるからあそこも陸だ」ということで本来は国家の管理地である海まで将来のホテル用地として買い占めてそれがまたバブルになってしまった、あの時と今の土地の値段とを比較するようなものであり、比較の基準の取り方が異常なのである。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)市況コメント
(2)「風水の音を聞け」と訓えにあるが・・・
(3)大暴落が多かった月「10月」
(4)長期上昇相場の中段の「踊り場相場」たる「中長期的保合相場」
(5)「信用取引の取り組み」が悪化した。
(6)いま、市場が最も気にしているのはウクライナでもイスラエルでもなく、米金利上昇である
(7)市場が最も気にする金利問題
(8)マザーズ指数、年初来安値更新
(9)円安急進にブレーキをかけるための口先介入のつもり
(10)大卒内定者がリーマンショック以降、最大
(11)中国経済悪化の影響が実勢面に出ている。 
(12)「12月12日公示、24日投開票」説
(13)保合離れは、グロース株かバリュー株か判らない。

第2部;中長期の見方
(1)難局に差し掛かっている日銀
(2)「新しい資本主義」の不明瞭さ
(3)「新しい経済対策」は極めて正しいが、迫力に欠けている首相の説明力と発言力
(4)成長とはGDPの増加である。それをグロスで見ないで「一人当たりGDPで見よう」というのは、縮小均衡志向である。
(5)米経済は四重の脅威に耐えられるか?
(6)FRBが利上げを続ける中でも、個人消費は底堅い米国
(7)原油を使った国際戦略は火器による戦争とは違うが、巨大な効果を上げる。
(8)米利下げは、最も早くて来年6月以降
(9)アメリカにとって、イスラエルとウクライナはどちらが重要か?
(10)米下院共和党の自己破壊の歴史 
(11)鎖国もしていないのに、鎖国のムードは日本国内に残っている。
(12)「骨抜きになったと見える連合」さえも来年の春闘を「5%」に修正し、その後「5%以上」にしたが、これでは不十分だ。
(13)世界の中央銀行の中で、最も評価されるのはどこか?
(14)軟着陸できるかどうかの正念場を迎えているFRB
(15)インフレ・賃上げ・生産性の向上
(16)米景気のソフトランディングは困難か?
(17)米機関投資家が弱気
(18)鈴木宗男参議院議員に対する筆者の「情緒的な意見」
(19)静かな忍び寄りの足音を聞き取れるか否かが問題だ。
(20)特殊な基準を恣意的に採って、日本を卑下することはやめたい。そこからは何も生まれない

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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